事務職員能力認定試験 第11回解説(問1~4)
問1
訴状には,当事者の記載が必要(民訴法133条2項1号)。
当事者の記載とは,その人物を特定するために必要な情報。通常は氏名と住所を記載し,住所不明なら居所,居所も不明なら住居所不明とする。
- 住所=「生活の本拠」(民法22条)
- 居所=生活の本拠ではない,一時的あるいは仮の居住場所
設問では係争建物を「生活の本拠」としているので,「住所」は原則として係争建物であり,3,4は誤り。
被告の特定という観点からは,証拠により氏名等との一致を確認できる住民票上の住所もあった方が望ましい。よって1が適切。2も誤りとまでは言えないが,契約書と住民票という証拠で被告を特定しようとしている設問の場合には,1の方が適切。
問2
請求の趣旨は,判決の主文で述べてほしい内容を記載する。執行の邪魔にならないよう,余計なことは一切書かず,結論のみ記載する。
離婚の場合は,判決で離婚が成立し,被告に何かをさせるわけではないので,命令文にならない。
- 「被告は原告に対し金~円及びこれに対する~から支払い済みまで年~の割合による金員を支払え」
- 「被告は原告に対し~を明渡せ」
- 「原告と被告とを離婚する」
登記請求は,「被告の登記手続意思を擬制する」ことを求める請求で,執行(強制的に何かをさせる)の余地はないとされる。よって4は正しい。
仮執行宣言とは,判決後,確定までに財産が散逸するのを防止するため,仮に強制執行をかけられるようにすること。
なお,離婚の慰謝料・財産分与についても,仮執行宣言は付けられない。その理由は,性質上,離婚が確定して初めて具体化する(実際に発生する)権利だから。
問3
- 正)第一審は,書面で合意していればどこでもOK(民訴法11条1,2項)。
- 誤)人事訴訟以外は,原則として被告の住所地に管轄がある(民訴法4条2項)。
- 正)訴訟物の価額が140万円以下の場合は簡易裁判所,それを超えるなら地方裁判所が管轄する。ただし,不動産に関する訴訟については,140万円以下でも地方裁判所に管轄がある。設問は建物明渡請求訴訟であり,不動産に関する訴訟。
- 正)不動産に関する訴訟は,係争不動産の所在地にも管轄がある。
訴額
- 140万円以下:簡裁
- 140万円超:地裁
- 不動産に関する訴訟:どっちでも
問4
- 訴訟物=原告が請求する権利・法律関係
- 訴額=訴訟物を金銭評価した時の価額
- 原則:複数の請求がある場合は,原則として訴額を合算する(民訴法9条1項)。
- 吸収関係:利益が共通している場合は,多い方を訴額とする(同上)。
- 附帯請求:同一請求の中で,主たる請求を発生原因として生じた部分(果実,損害金,違約金等)は算入しない(民訴法9条2項)。
※「果実」は,物から産み出される利益。文字通りの果実(天然果実)も含むが,家賃や利息といった「法定果実」を意味することが多い。
以上を前提にすると,以下のとおりとなる。
- 正)賃料は,建物という物から発生する使用利益(果実)であるから,その請求は,物自体の返還を求める建物明渡請求に対する附帯請求となる。
- 誤)離婚とともに求める財産分与は,附帯処分(人訴法32条)となり,分与額は訴額計算に含めない。なお,慰謝料請求は附帯処分に該当せず,吸収関係になる。
- 正)貸金返還請求における利息・遅延損害金は,附帯請求なので算入しない。
- 正)価額の算定ができない(非財産権上の請求)か,「極めて困難」な場合は,「140万円を超えるものとみなす」(民訴法8条2項)。具体的には,「160万円とみなす」(民訴費用法4条2項)。