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事務職員能力認定試験 第12回解説(問11~22)

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民事保全の手続は、勝訴した場合に備えて相手の財産や自分の地位を確保しておくための手続。大きく分けて以下の3種類(民事保全法1条)。

①仮差押え
金銭の支払いを求める場合に、執行の対象となる財産の処分を制限する手続。差押えの対象によって、不動産仮差押え、動産仮差押え、債権その他の財産の仮差押えがある。
②係争物に関する仮処分
引渡しや登記などを求める場合に、その物自体の現状維持を図る手続。占有移転禁止の仮処分、処分禁止の仮処分(処分禁止の登記など)がある。
③仮の地位を定める仮処分
一定の地位争っている場合に、判決が出るまで仮にその地位を認めさせる手続。解雇無効を争っている場合の雇用契約上の地位など。

上記のとおり、1は②、3は①の一種。4は③の一種で、解雇無効訴訟での賃金仮払いの仮処分などが例。

2は文字通り証拠を保全するための手続、すなわち訴訟に備えて行う手続きであり、判決後に備えて行うものではない。

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  1. 民事保全規則13条1項。代理人がいる場合はその住所・氏名も記載する。
  2. 同条1項2号、2項。「申立ての趣旨及び理由」が記載事項であるところ、申立の理由の内容として、被保全権利と保全の必要性を具体的に記載しなければならない。
  3. 同上。
  4. 担保の提供方法は、申立書の記載事項としては定められていない。担保の提供方法は、金銭又は有価証券を供託する方法(民事保全法4条1項)と、裁判所の許可を得て金融機関と支払保証委託契約を締結する方法(民事保全法4条1項、民事保全規則2条)に限られる。確実な方法が法定されているため、保全の可否判断ではどの方法によるかを考慮する必要がない。

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  1. 正)執行方法が登記の場合は、裁判所書記官が嘱託して行う(民事保全法47条3項、53条3項等)。書記官による登記所への嘱託が必要的な場合もある(56条)。
  2. 誤)保全執行は、「申立てにより、裁判所又は執行官が行う」(民事保全法2条2項)ため、執行官はもちろん、裁判所であっても原則として職権では行えない。民事保全法が送達を職権で行えるとする民事訴訟法98条1項を準用している(民事保全法7条)ため、送達のみで執行する債権仮差押え(同法50条1項)については裁判所の職権で行えると言えるが、この場合執行官は保全機関になっていないので、いずれにしろ執行官が職権で執行を行うことはない。
  3. 正)保全執行は、上記のとおり申立てにより行い、かつ保全命令の正本に基づいて実施する(同法43条1項)。したがって、「ものもある」というよりこれが原則。
  4. 正)第三債務者への債権仮差押えなどは、第三債務者に対し弁済禁止命令を発する方法により行うとされる(民事保全法50条1項)が、具体的には、仮差押命令の決定正本を送達することになる。

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  1. 正)供託規則13条2項1号、2号。設問では供託者=債権者なので、供託者として債権者の情報を記載する。
  2. 正)供託規則13条2項6号。代表者の記載は要求されていない。
  3. 誤)「民事保全法第14条1項」が正しい。4条1項は、供託を含む担保提供の方法について定めた条項であり、担保を立てること自体の根拠条文ではない。
  4. 正)裁判所の記載につき供託規則13条2項10号。債権者と債務者は、供託者欄・被供託者欄で特定できるので、それぞれ供託者と被供託者と記載すればよい。

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担保の取消しは、以下の場合にすることができる(民事保全法4条2項、民事訴訟法79条1~3項)。

  • ①担保事由が消滅した場合:勝訴判決の確定、請求認諾、勝訴的和解の成立等
  • ②担保権利者が同意した場合
  • ③訴訟完結後に催告しても担保権利者が権利行使しない場合(保全の場合は保全命令の取下げも必要)

「担保金を返してしまっても、担保権利者から損害賠償請求を受けるおそれがない場合」と考えると分かりやすい。

  1. 誤)仮執行宣言により執行が完了していても、控訴審係属中で確定していないため、①に該当しない。もしも控訴審で被告が逆転勝訴すると、強制執行された財産は被告に返さなければならず、これを保証するための担保金であるから、原告に返すわけにはいかない。
  2. 正)請求を一部放棄しているため、和解がただちに①に該当するとは言えない。しかし、被告から同意を得ているため②に該当する。
  3. 正)訴えの取下げにより訴訟が終了した場合、訴えは初めからなかったことになる(民事訴訟法262条1項)。本案訴訟が存在しなくなったので①に該当する。
  4. 正)原告の勝訴判決が確定しているが、2割の一部敗訴でもあるので、ただちに①に該当するとは言えない。ただし、勝訴した8割部分と仮差押を執行した財産の額等から、被告に損害が生じないと言える場合には、①に該当するものと考えられる。したがって、(ケースバイケースだが)執行取消ができないとまではいえない。

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  1. 正)「保全命令の申立てを取り下げるには、保全異議又は保全取消の申立てがあった後においても、債務者の同意を得ることを要しない」(民事保全法17条)。
  2. 正)債権仮差押えの執行は、第三債務者に弁済を禁止する命令を発することによって行われ(民事保全法50条1項)、取下げを告知しない限り債務者は第三債務者からの弁済を受けられない。したがって、そのための郵券を提出することが通常。
  3. 正)不動産仮差押えの執行は、仮差押えの登記をするか、強制管理によって行う(民事保全法47条1項)。仮差押登記の抹消は債権者が単独で行えるが、登記手続き自体は通常と同じであるため、目録や登録免許税も必要となる。
  4. 誤)占有移転禁止の仮処分の保全執行は、執行官に対して申し立てる。したがって、執行官に対しても保全執行の取下書を提出する必要がある。

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  1. 正)担保権実行による不動産競売は、「担保権の登記に関する登記事項証明書」があれば足りる(民事執行法181条1項3号)。
  2. 正)「強制執行は、執行文の付された債務名義の正本に基づいて実施する」(民事執行法25条)。また、あらかじめ債務名義が送達されたときに限り開始できる(同法29条)。「執行力ある」とは、執行文が付されていること。ただし、執行文が不要な場合として、仮執行宣言付の支払督促・少額訴訟判決などがある(同法25条但書)。
  3. 正)「申立人」「相手方」と表示する。
  4. 誤)事前の財産開示手続が必要なのは、不動産情報と勤務先情報を取得したい場合のみ(民事執行法205条2項、206条2項)。預貯金や株式の情報を取得する場合には不要。このように区別しているのは、債務者のプライバシーを保護する必要がある一方で、預貯金などの財産隠しが容易な財産は、事前に知られずに情報を取得する必要があるため。

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  1. 民事執行法22条4号。
  2. 建物収去命令は、代替執行を行うために必要なものであり、債務名義ではない。確定判決等の債務名義が別にあり、それに基づく強制執行のために建物収去命令を得る、という関係。
  3. 民事執行法22条2号。
  4. 家事事件手続法268条1項、民事執行法22条7号。

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債権執行についての管轄は、以下のとおり(民事執行法144条1項)。

  • ①債務者の普通裁判籍の所在地(債務者の住所)を管轄する地方裁判所
  • ②債務者の普通裁判籍がない場合は、差押え対象債権の所在地を管轄する地方裁判所

本問では、債務者の転居先が判明しているので、①により債務者の転居先住所を管轄する地方裁判所が管轄する。

この場合、債務名義に表示された住所と現在の住所が異なるため、同一性を明らかにするため、住民票などを添付する必要がある。

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債権の差押えは、生計を維持するために必要と解される範囲については差押禁止債権として保護される。主に雇用契約上の給与債権(民事執行法152条1項2号)。

  • ア)役員であっても、雇用契約上の給料であれば保護の対象となる。
  • イ)役員報酬は、雇用契約ではなく委任契約に基づくものであり、給与債権とは性質を異にするため、保護されない。
  • ウ)私的年金は、「国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付」(民事執行法152条1項1号)に当たるので、保護の対象となる。公的年金は、個別の法律によりその全額が保護されている(国民年金法24条等)
  • エ)議員の歳費請求権も、特に法律で定められたものであり、雇用契約上の給料とは性質を異にするため、保護されない。

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  1. 「不動産等の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者に占有を取得させる方法により行う」(民事執行法168条1項)
  2. 間接強制は、債務を履行しない債務者に対し、一定の金銭を支払うよう命じて心理的な強制を加えて、債務者自身に債務を履行させる方法。裁判所が金銭支払いを命じるだけなので、執行官は関与しない。
  3. 対象不動産の現況調査(民事執行法57条2項、3項)や内覧の実施(同法64条の2第3項)、入札手続(民事執行施行規則47条、49条、42条)等については執行官の権限。
  4. 「動産の差押えは、執行官がその動産を占有して行う」(民事執行法123条1項)

基本的に、物理的に財産を確保する手続には執行官が関与する。

子の引き渡しは直接強制も可能であり、その場合は執行官が関与するので、ひっかけに注意。

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3点セットとは、以下の3つの資料が1冊になっているファイル。

①現況調査報告書
土地の地目、建物の種類・構造、占有者の氏名・権原、不動産の写真等を添付した報告書。
執行官が現地調査して作成する(民事執行法57条2項、3項、同施行規則29条)。
②評価書
競売物件の周辺環境や評価額、図面等を添付した評価書。
不動産評価人が作成する(民事執行法58条2項、同施行規則30条)。
③物件明細書
競売後も引き継ぐべき権利関係、法定地上権の成否等を記載した明細書。
裁判所書記官が作成する(民事執行法62条)。