日々起案

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事務職員能力認定試験 第12回解説(問1~10)

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  1. 正)民訴規則18条で準用される15条は、「訴訟行為をするのに必要な授権は、書面で証明しなければならない」としている。したがって、法人の場合は代表権を示す書面(資格証明書)が必要。提訴時点での代表者が分かればいいので、代表者事項証明書でもいいし、履歴事項全部証明書でもいい。
  2. 正)人事訴訟規則13条「当該訴えに係る身分関係の当事者の戸籍の謄本…を添付しなければならない」
  3. 正)民訴規則55条1項1号
  4. 誤)法定代理権は書面で示さなければならない(民訴規則15条)が、住所・氏名についてはそのような定めはない。また、住民票には親権者であることは示されない。

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  1. 誤)「給付」には不作為も含まれる。つまり、「~をするな」という記載の場合もある。択一式の問題では、「必ず」「常に」といった限定を強めるだけの修飾語がある肢は誤りであることが多い。
  2. 誤)離婚を求める訴えは、確認の訴えではない。判決の確定により婚姻解消という身分関係の変動を生じさせるものであるから、形成の訴え。慰謝料が給付の訴えとして併合されている点は正しい。
  3. 正)確認の訴えは、判決の確定により法律関係の確認という目的が達成されるから、執行の余地がない。したがって仮執行宣言を求める必要もない。
  4. 誤)所有権移転登記手続を求める訴えは、給付の訴え。所有権移転登記は共同申請が必要であり(不登法60条)、登記移転請求訴訟はこの共同申請の意思表示を求める訴え。判決確定により登記移転の意思表示が擬制されるため、仮執行宣言は不要となるが、何らかの法律関係が形成されるわけではない。

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  1. 誤)普通裁判籍による管轄の定め(民訴法4条1項)は,法令に専属管轄の定めがある場合には適用されない(同法13条1項)。したがって、特許権等に関する訴えなどの専属管轄の定め(同法6条1項)がある場合は、第一審でも普通裁判籍による管轄が認められない。
  2. 誤)訴訟物の価額が140万円以下であっても、地方裁判所は、申立てにより又は職権で自ら審理することができる(民訴法16条2項)。事案の内容によっては、敢えて地裁に訴訟提起する場合もある。また、特許権等に関する訴えなど、法令に専属管轄の定めがある場合は、簡易裁判所に管轄権がないこともある。
  3. 正)合意管轄の規定(民訴法11条)は、法令に専属管轄の定めがある場合には適用されない(同法13条1項)。ただ、特許権等に関する訴えについては、東京地裁と大阪地裁の間で合意管轄が認められる(同条2項)ので、厳密に言えばこの肢も誤り。
  4. 誤)支部は「外部に対しては本庁と一体をなすものであつて、支部の権限、管轄区域は、裁判所内部の事務分配の基準にすぎない」とされ(最高裁昭和44年3月25日:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50973)、法律上の管轄違いにはならない。したがって、裁判所が認めれば、支部の管轄内事件を本庁で審理することも可能。

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所有権に基づく引渡し(明渡し)請求権は、目的物の評価額の2分の1とされる。法律で決まっているわけではなく、最高裁判所の民事局長通知により決められている。六法のどこにも書いていないので、表を見て覚えるしかない。

また、果実、損害賠償、違約金、費用の請求は、附帯請求とされ、訴訟物の価額に算入しない(民訴法9条2項)。未払賃料は目的不動産の法定果実(物の使用の対価として生じる金銭等)であり、賃料相当損害金は損害賠償であるから、どちらも訴訟物の価額には含めない。

よって、4が正しい。

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被告が行方不明の場合に公示送達ができるのは、「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」(民訴法110条1項1号)である。そして、住所、居所が分からない場合は就業場所も送達先となる(同法103条2項)。裁判を受ける権利を制限する制度であるから、これらの送達先が不明であることについては、きちんと調査して疎明資料を出す必要がある。

  1. 正)住民票上の転居先が新たな住居所の可能性がある。
  2. 誤)近親者への照会は、実務上は行うこともあるが、公示送達のための調査としては通常必要とされない。
  3. 正)上記のとおり、住所、居所が不明な場合は就業場所も「その他送達をすべき場所」であるから、就業場所への送達を試みる必要がある。
  4. 正)書類上だけでなく、実際に住民票上の住所に居住実態がないこと、転居先が不明であることについて、現地確認をすることが求められている。

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  1. △)答弁書を提出していれば、第1回期日は欠席しても擬制陳述(提出書面の内容を法廷で述べたとみなすこと)としてもらうことができる(民訴法158条)。裁判所の判断なので、擬制陳述とする旨は裁判所に明確に伝えておくことが望ましい。書記官に口頭で伝えても支障はないが、明確性のために答弁書自体に記載しておくことが通常。
  2. △)答弁書催告状に記載の期限に間に合わなくても、期日前に裁判所に提出してあれば、実務上特に不利益はない。とは言え、早く出せるなら出しておく方が望ましい。
  3. 誤)反訴は、あくまで別の訴訟であり、既に提起されている訴訟(本訴)の答弁にはならない。答弁書を出さずに反訴の提起しかしないと、本訴では反論なしとして請求認容判決となってしまう。
  4. 正)順番としては、移送→第1回期日(答弁書陳述)となるので、答弁書は移送に関する判断が出るまで提出しなくても良い。特に、原告代理人の同意を得ているのであれば移送が認められる可能性が高いので、移送が決定してから移送先の裁判所に答弁書を提出する方が適切。

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証拠とは、一定の事実を証明するための資料のこと。物自体や人の発言も証拠となる。

証拠について規定する民事訴訟法第二編第四章には、証人尋問、当事者尋問、鑑定、書証、検証が節の見出しとして挙がっている。これらが代表的な証拠である。

証拠申出書は、証人尋問等を申請するための書面であり、それ自体は証拠ではない。

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  1. 誤)控訴の印紙額が訴状の場合の1.5倍である点は正しい(民事訴訟費用等に関する法律3条、別表1)。しかし、控訴の訴訟物は、一審判決に対する不服申立部分とされる。したがって、一部認容判決が出ていれば、訴状で収めた額の1.5倍とは異なる。たとえば、500万円の請求で訴訟提起し、400万円の一部認容判決が出た場合、原告が控訴すれば100万円部分、被告が控訴すれば400万円部分が訴訟物の価額となる。
  2. 正)控訴は、「送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならない」(民訴法285条)。そして、期間の末日が土日祝・12/29~1/3に当たる場合は、その翌日が期間満了日になる(同法95条3項)。
  3. 正)控訴された側は、「控訴権が消滅した後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、附帯控訴をすることができる」(民訴法293条1項)。送達日によって控訴期間が異なり、控訴期間経過後に控訴されることもあるので、後出しが有利にならないようにこのような制度がある。
  4. 正)控訴理由書は、控訴の具体的な理由を主張する書面で、通常は控訴状提出後に改めて提出する。その期限は公訴提起後50日以内(民訴規則182条)だが、期限に遅れても即棄却とはならない。上告理由書の場合は期限徒過により即却下とされる(民訴法316条1項2号)ので、違いに注意が必要。

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  1. 正)仮執行宣言前の督促異議は、送達を受けた日から2週間以内にしなければならない(民訴法391条1項)。督促異議がなされると、異議の限度で支払督促は失効する(民訴法390条)ため、仮執行宣言の申立てはできなくなる。。そして、督促異議がなされると、その支払督促申立時には訴えの提起があったものとみなされ、通常訴訟に移行する(同法395条)。
  2. 正)督促異議の期間は2週間とされるが、仮執行宣言前に督促異議があった場合は、2週間を過ぎていても仮執行宣言の申立てはできなくなる(民訴法391条1項但書)。そして、督促異議の効果として通常訴訟に移行する(同法395条)。
  3. 誤)仮執行宣言付支払督促の送達後2週間以内に督促異議がなされれば通常訴訟に移行する点は正しい(民訴法393条、395条)。しかし、支払督促が確定しないだけで、仮執行宣言による執行力は消滅しない(そもそも仮執行とは確定前でも執行できるということである)。執行を止めるには強制執行停止決定の申立てが必要。
  4. 正)仮執行宣言付支払督促に対する督促異議は、送達を受けた日から2週間以内にしなければならない(民訴法393条)。その間に督促異議がなかった場合、「支払督促は、確定判決と同一の効力を有する」(民訴法396条)。

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  1. 正)民事調停は、当事者の合意が調書に記載されることで成立し、その記載は裁判上の和解と同一の効力を有する(民事調停法16条)。
  2. 誤)民事調停が不成立となった場合は、2週間以内に訴えを提起することで、調停申立時に訴訟提起したものとみなされる(同法19条)。これは、調停の申立てにより時効などの点で不利にならないようにするための既定であって、訴え提起を強制するものではない。
  3. 正)民事訴訟費用等に関する法律5条1項。
  4. 正)上記2解説のとおり。