司法試験の勉強:商法
商法と言っても、純粋な商法問題はほぼ出ないので、実質会社法。
会社法は、論点が幅広い上、理論と判例の両方を踏まえつつ、事実の抽出・評価もしっかりする必要があるので、これといった対策ができない科目という印象があります。
なので私の場合は、コテコテの典型論点は箇条書きの形でまとめて暗記してしまい、「最低限の部分はきっちり拾う」というスタンスで勉強しました。一度まとめてしまえば復習は省力化できるので、余った時間は最新重要判例の勉強に費やしていました。
以下、私が復習用につくったまとめ箇条書きです。
株式の譲渡
株主総会決議の瑕疵
- 提訴権者(「株主等」)
- 取消しの効果
- 組織に関する訴え以外は遡求無効(839条反対解釈)
- 計算書類承認決議
- 当該期を前提とした後続期計算書類も不確定となる
- 適法な再決議があれば有効
- 取締役選任決議
- 退職慰労金
- 「報酬等」(361条1項)→原則不当利得となる
- 信義則に反し権利濫用となるか検討
- 慣行、時期、退任取締役の主観、職務内容、不支給とすべき理由の有無
- 裁量棄却(831条2項)
- 招集の手続き又は決議の方法が法令又は定款に違反
- 違反する事実が重大でない
- 決議に影響を及ぼさない
- 訴えの利益
- 形成訴訟→原則肯定
- 訴えの実益を欠く場合には例外的に否定
- 役員選任決議の取消→当該役員が全員任期満了
- 取締役決議不存在確認
- 正当な取締役・取締役会不存在
→株主総会も法律上不存在(全員出席総会は除く)
→先行の決議不存在に確認の利益あり
- 正当な取締役・取締役会不存在
株主総会決議の瑕疵一覧
取締役会決議の瑕疵
- 効力
- 明文なし→一般原則により無効
- 招集通知の瑕疵
- 業務全般が議題となりうる→目的事項の記載不要
- 定款で目的事項記載を定めていても、目的事項以外の審議・議決を禁止していない限り議題となる
- 出席しても結果に影響がないと認めるべき特段の事情があれば、例外的に有効
- 特別利害関係人(369条2項)
- 解職される取締役:保身を図るのが通常であって、「公正に議決権を行使することが期待できない」
代表行為と取引の安全
- 取締役会決議事項(362条4項)
- 事業譲渡(467条)
- 特別決議事項(467条1項、309条2項11号)
- 決議の瑕疵→事業譲渡無効
- 譲受会社も主張可:譲渡会社の主張を待って無効とすると著しく不安定
- 信義則による制限の可能性(長期間の経過後など)
- 定義
「①一定の事業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部又は重要な一部を譲渡し、これによって、②当該事業の全部又は重要な一部を譲受人に受け継がせ、③譲渡会社が法律上当然に競業避止義務を負うもの」 - 「重要な一部」
資産価値の事業全体に対する割合(量的要素)、イメージ等における重要性(質的要素)を考慮して判断
- 特別決議事項(467条1項、309条2項11号)
- 表見法理
- 354条
- 代表権のない者に代表権を有するかのような名称を付した場合を想定
→遡求無効で代表権を失った場合を想定していない
→直接適用不可 - 外観法理→類推適用
- 代表権のない者に代表権を有するかのような名称を付した場合を想定
- 908条2項
- 登記申請権者による不実の登記から第三者を保護する趣旨
→代表権がない=申請権がない場合は直接適用不可 - 申請権者による登記と同視しうる特段の事情があれば類推適用
- 登記申請権者による不実の登記から第三者を保護する趣旨
- 「善意」
- 迅速取引の観点から、登記自体を信頼する必要はない
- 登記と対応するような実体を信頼する必要
- 354条
競業取引・利益相反取引
- 競業取引(356条1項1号)
- 「ために」=自己又は第三者の「計算」で
- 「取引」=会社の取引と目的物・市場が競合する取引
- 利益相反取引(356条1項2号3号)
- 完全子会社:経済的に一体→実質上利害対立がなく規制対象にならない
- 間接取引:外形的・客観的に会社の犠牲で取締役に利益が生じるか
- 承認決議を欠く取引
- 取引安全→原則有効
- 相手方の悪意を立証すれば無効主張可
取締役の報酬
- 株主総会決議事項(361条1項)
- 趣旨:「お手盛り」防止
- 使用人兼務取締役
- 脱法行為のおそれ→使用人として給与を受けることを示す必要
- 「使用人として受ける給与の体系が明確に確立されており、かつ、使用人として受ける給与がそれによって支給されている限り」は、お手盛り防止の趣旨は全うできるから給与額まで示す必要はない
- 配分
- 決議を欠いた報酬
- 報酬額の変更
- 原則
- 具体的に定まれば会社と取締役の契約として双方を拘束
→同意がない限り変更できない
- 具体的に定まれば会社と取締役の契約として双方を拘束
- 例外
- 339条2項との均衡
- 報酬の基準があり、取締役がこれを了知していた場合は、相当な限度で同意なく(or黙示の事前合意を認定して)減額できる
- 原則
- 退職慰労金
- 在職中の職務執行の対価としての性質がある限り、「報酬等」に含まれる
- 「無条件に取締役会の決定に一任することは許されない」が、「一定の基準に従うべき趣旨」でなら上限額を決議しなくてもいい
- 説明義務
- 一定の確定された基準が存すること
- その基準が株主に公開されており容易に知り得ること
取締役の対会社責任
- 要件(423条)
- 「役員等」
- 任務懈怠=善管注意義務・忠実義務違反
- 故意・過失:任務懈怠があれば必然的に認められる
- 損害
- 因果関係
- 経営判断原則(任務懈怠の有無)
- 経営の萎縮回避のため裁量が認められ、「決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである」
- 法令違反には適用の余地なし
- 内部統制システム(362条5項)
- 取締役は、取締役会の構成員として、内部統制システムを構築し又はこれが履行されているか監視する義務を負う
論証テンプレ
- X会社はYに対し423条1項に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。
- 同条の要件は、①任務懈怠、②故意・過失、③損害、④因果関係である。
- Yは~であるから「役員等」にあたる。
- 任務懈怠とは、法令違反又は善管注意義務(330条、民法644条)、忠実義務(355条)違反をいう。ただし、経営上の判断については、経営の硬直化を防止するため取締役の裁量が広く認められ、決定の過程及び判断内容が著しく不合理でない限り善管注意義務違反にあたらないと解する。本件では、~であるところ、取締役には~の義務があるから、これに反するYの行為は善管注意義務違反となる。よって任務懈怠が認められる。
- このような任務懈怠を認識している以上、当然に故意(過失)も認められる。
- 本件では~という損害が認められ、Yの~から生じているから因果関係も認められる。
取締役の対第三者責任
- 要件(429条)
- 「役員等」
- 任務懈怠
- 悪意・重過失
- 損害
- 因果関係
- 経営判断原則
- 不法行為責任(民法709条)
- 第三者保護のため特別の法定責任を課した
→不法行為責任とは別個のため請求権競合
- 第三者保護のため特別の法定責任を課した
- 法人格否認の法理
- 形骸事例:実質一人株主、会社と株主の混同、組織規定の履践がない
- 濫用事例
- 不実の情報開示
- 間接損害
- 「第三者」には株主も含む(通説)
→しかし、間接損害の場合は代表訴訟によるべき
- 「第三者」には株主も含む(通説)
- 取締役
- 退任取締役
- 原則:「役員等」に含まない
- 例外:「不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情」があれば、908条2項類推適用
- 承諾なくても「事実上の取締役」理論(423条類推適用)
- 名目的取締役
- 取締役会の員数制限(331条4項)の趣旨→「役員等」に含む
- 任務懈怠の有無は個別に検討
- 退任取締役
論証テンプレ
- XはYに対し429条1項に基づく損害賠償請求をすることが考えられる。
- 同条の要件は、①任務懈怠、②悪意・重過失、③損害、④因果関係である。429条1項は、経済社会において重要な地位を占める株式会社の活動が役員等の職務執行に依存していることから、第三者保護のために特別な法定責任を負わせたものであると解され、悪意・重過失は任務懈怠について存すれば足りる。ただし、間接損害については株主代表訴訟等によるべきであるから、ここにいう損害とは直接損害に限る。
- Xは、~であるから、「第三者」にあたり、Yは~であるから「役員等」にあたる。
- 任務懈怠とは、法令違反又は善管注意義務(330条、民法644条)、忠実義務(355条)違反をいう。ただし、経営上の判断については、経営の硬直化を防止するため取締役の裁量が広く認められ、決定の過程及び判断内容が著しく不合理でない限り善管注意義務違反にあたらないと解する。本件では、~であるところ、取締役には~の義務があるから、これに反するYの行為は善管注意義務違反となる。よって任務懈怠が認められる。
- ~との事情から悪意(重過失)が認められる。
- 本件では~という損害が認められ、Yの~から生じているから因果関係も認められる。
違法な募集株式の発行
- 事前差止(210条)
- 「特に有利な金額」
- 201条1項、199条2項、309条2項5号
→有利発行の場合は取締役会でなく総会特別決議必要 - 特別決議なければ違法(210条1号)
- 201条1項、199条2項、309条2項5号
- 支配権維持目的
- 特定株主の持株比率低下が主要目的→「著しく不公正な方法」
- 株主全体の利益保護のため特段の事情がある場合(「グリーンメーラー」への対抗など)は例外的に「不公正」とはいえない
- 差別的行使条件付新株予約権(ブルドックソース事件)
- 株主平等原則(109条1項)の趣旨:個々の株主の利益保護
- 会社利益ひいては株主全体の共同利益が害されることを防止するためであれば、特定株主を差別的に取り扱っても衡平の理念に反し相当性を欠くものでない限り許される
- 会社利益が害されるか:株主自身の判断=総会決議
- 相当性:総会手続+公正な対価
- 「特に有利な金額」
- 発行後の処理
- 無効確認
- 公開会社:上記瑕疵は無効事由とならない
- 取引安全、授権資本制度
- 差止の機会を奪うような事情がある場合には無効事由となる
- 譲渡制限会社:特別決議欠缺が無効事由となる
- 828条1項2号カッコ書きが出訴期間を延長している趣旨
=非公開会社における株主及びその持株比率への利害の保護
- 828条1項2号カッコ書きが出訴期間を延長している趣旨
- 出訴期間
- 法的安定→発行を知らなくても延長しない
- 公開会社:上記瑕疵は無効事由とならない
- 取締役への損害賠償請求(429条)
- 共益権の希釈化・株式価値低下
- 引受人への損害賠償請求(212条1項1号)
- 取締役との通謀
- 「著しく不公正な払込金額」=「特に有利な金額」
- 無効確認
- 仮装払込
- 資本充実原則
→実質的に払込があったと言えなければ払込みの効力を有しない
- 資本充実原則
- 共有株主:共有権者の過半数で権利行使
- 全員一致を必要とすると権利行使が困難となる
- 持分会社では会社運営にも支障をきたす
設立
- 設立中の会社
- 設立中の会社は権利能力なき社団であり成立後の会社とは別
→しかし両者は連続的であり、実質的に同一のものと解すべき
→設立中の会社に帰属する権利義務関係は当然に成立後の会社に帰属する - 発起人の権限
- 会社の設立を目的とする行為、そのために事実上・経済上必要な行為
- 開業準備行為は含まれない
- 権限外の行為
- 設立費用の請求
- 契約締結順
- 全額会社負担→超過額は会社から発起人に求償
- 発起人負担→定款記載額は発起人から会社に求償
- 全額会社負担→発起人も重畳的に負担
- 設立中の会社は権利能力なき社団であり成立後の会社とは別
- 財産引受
- 定義:「発起人が会社の成立を条件として会社のために特定の財産の譲受けを約する契約」
- 規制の趣旨:現物出資の潜脱防止、資本充実
- 定款に記載しなければ無効
- 特段の事情がない限り、相手方からも無効主張できる
- 追認不可
- 発起人の責任
- 117条1項類推適用
- 設立未了につき悪意なら、類推否定か同条2項類推適用で責任否定
- 見せ金
- 資本充実原則
→実質的に払込があったと言えなければ払込みの効力を有しない - 実質的な払込みの有無の判断基準
- 借入金を返済するまでの期間の長短
- 払込金が会社資金として運用された事実の有無
- 借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無
- 資本充実原則
- 設立無効
- 無効事由(設立手続の重大な法令違反)
- 定款の絶対的記載事項(27条)の欠缺
- 公証人による定款認証の欠缺
- 設立時発行株式を1株も引き受けない発起人がいる
- 設立に際して出資される財産の価額に相当する出資の不履行
- 募集設立において創立集会が開催されていない
- 設立登記が無効
- 無効事由(設立手続の重大な法令違反)
- 関与者の責任
- 現物出資の不足額:発起人・設立時取締役(52条1項)
- 発起人の任務懈怠責任(53条1項)
- 「発起人」=定款に発起人として署名した者
→失権しても発起人の責任は負う
株主代表訴訟
- 「役員等…の責任」(847条1項)
- 趣旨:慣れ合い防止
- 取締役が会社に対して忠実に履行すべき一切の義務(取引債務も含む)
- 退任後の取締役も含む
- 担保提供(847条7項8項)
- 「悪意」=請求に理由がないことを知り、又は代表訴訟の趣旨を逸脱し、不当目的をもって会社を害することを知りながら提訴した場合
- 原告適格
- 会社による損害賠償請求権譲渡
- 譲渡自体は禁止されない
- 代表訴訟中の譲渡は、特段の事情がない限り責任追及回避目的と推認され、脱法行為として譲渡無効
- 譲渡有効なら請求棄却
違法配当
- 定義
- 純資産額=資産合計-負債合計
- 446条:剰余金=純資産額-(資本金+準備金)
- 461条2項:分配可能額=剰余金-控除項目
- 違法配当の責任(462条)
- 交付した金銭等の帳簿相当額
- 「業務執行者」=業務執行取締役・執行役
- 監査役・会計監査人
- 462条の責任は負わない(明文で除外)
- 監査の任務懈怠につき423条・429条の責任を負う
自己株式
- 自己株式取得規制の趣旨
- 資本充実
- 株主間の公平
- 会社支配の公平
- 市場の公平
- 株主との合意に基づく取得
- 普通決議
- 市場取引
- 公開買付
- 株主全員への勧誘
- 特別決議
- 特定株主からの取得(309条2項2号)
- 子会社からの取得は普通決議(163条)
- 特定株主からの取得(309条2項2号)
- 手続違反の場合の効力
- 取引安全→相手方悪意の立証がなければ会社側は無効主張不可
- 普通決議
- 財源規制違反の場合の効力
- 有効説→462条1項の特別責任を負う
- 無効説→462条1項と不当利得返還義務(民法703条)が競合する
- 完全子会社による親会社の株式取得
- 実質的に自己株式取得と同じ→解釈上財源規制にかかる
株主総会の運営
- 説明義務
- 説明拒否事由(314条)
- 議題に関係しない
- 株主共同の利益を著しく害する
- 施行規則71条
- 調査が必要かつ相当期間前の事前質問がない
- 会社等の権利を侵害する
- 既に実質的に説明している
- 正当な理由がある
- 説明内容
- 議案について合理的に判断しうる程度の説明が必要
- 説明拒否事由(314条)
- 議長資格
- 定款に定め→原則としてこれに従う
- 不信任動議→過半数の賛成により改任できる
- 特別利害関係人
→議事進行の円滑のため決議の瑕疵にあたらない - 越権的閉会宣言
- 議案を残しながら総会決議によらず閉会宣言
→閉会宣言無効 - 議長資格者退席後は、残った株主で新たな議長を選任できる
- 議案を残しながら総会決議によらず閉会宣言
- 定款に定め→原則としてこれに従う
- 代理人資格の制限
- 310条1項は、「合理的な理由がある場合に、定款の規定により、相当と認められる程度の制限を加える事までも禁止したものとは解され」ない
- 定款が有効でも、制限の許容限度は実質的に判断すべき
→定款の趣旨に反しない類型については制限できない- 弁護士
- 従業員
- 親族
合併
- 効力発生日:合併契約上の効力発生日
- 効力を争う方法
- 消滅会社の取引の効果
- 効力発生前:取引の効力は存続会社に承継される
- 効力発生後・合併登記前:存続会社は財産承継を対抗できない(750条2項)
- 合併登記後:無権利者による処分として存続会社に効力及ばない