日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

事務職員能力認定試験 第11回解説(問13~16)

13

不動産の仮差押,不動産の処分禁止の仮処分は,登記による。登記さえしておけば,その後に出てきた第三者の権利に優先することができる。
→1,3は正しい
※ただし,不動産の仮差押は「強制管理」というものもある。

動産の仮差押,動産・不動産の占有移転禁止の仮処分は,執行官が預かる方法による。動産には登記制度がなく,占有の移転という事実行為は登記では防げないから。
→2は正しい

債権の仮差押は,第三債務者から債務者への弁済を禁止することによる。したがって,仮差押決定正本は第三債務者に送達される必要がある。
→4は誤り

14

民事保全法4条1項

  1. 方法
    1. 供託
    2. 銀行等との支払保証委託契約(民事保全規則2条)
  2. 場所
    1. 立担保命令をした裁判所
    2. 執行裁判所がある地の供託所
      ※②にすぐ供託するのが困難な場合は,裁判所の許可を得て,債権者の住所地等,裁判所が相当と認める地の供託所も可(民事保全法14条2項)。
  3. 供託物
    1. 金銭
    2. 立担保命令をした裁判所が相当と認める有価証券
  1. 誤)上記のとおり。知らなくても,債務者への手続保障を考えれば,債権者の都合で決めて良いわけないと推測できる。
  2. 正)上記のとおり。
  3. 正)第三者が供託できるのは,①弁済供託における利害関係人(民法474条),②裁判上の保証供託で裁判所が許可した場合(昭和35年決議)の2つだけ。
  4. 正)上記のとおり。

15

担保取消が認められるのは3パターン(民保4条2項で民訴法準用)。

  1. 担保提供者が担保事由の消滅を証明した場合(民訴79条1項)
  2. 担保提供者が担保権利者の同意を証明した場合(同条2項)
  3. 権利行使催告により担保権利者の同意が擬制される場合(同条3項)

権利行使催告:本案敗訴確定,執行取消などの場合に,担保権の行使を催告すること。催告しても相手が何もしないと,担保取消について同意があったものとみなされる。通常は担保取消決定申立も同時に行う。

  1. 正)②の場合。なお,民事の手続においては,相手の同意があれば大抵のことは許される。
  2. 正)①の場合に該当するかの問題,担保事由の消滅とは,担保権利者の損害賠償請求権の不存在が確定することをいう。勝訴判決があっても,それが確定しない限りは担保事由が消滅したとは言えない。
  3. 誤)執行取消だけでは,①~③のどれにも該当しない。
  4. 正)③の場合。8割勝訴ということは2割敗訴。敗訴が確定しているので,③の要件を充たす。債務者に損害が生じる余地がほぼないと言える場合には①もあり得る。

16

  • 保全異議:保全命令に対する不服申立て(民保26条)
  • 保全取消:保全命令自体は認められる前提で,特別な場合にする取消(民保37条)
    • 取消事由:①本案訴訟不提起(民保37条),②事情変更(民保38条),③特別事情(民保39条)
  • 保全の執行停止:取消事情が明らか又は補填できない損害のおそれがある場合に,暫定的に執行を止め,既にした執行処分を取り消すこと(民保27条)
  1. 正)保全異議や保全取消の申立てだけでは執行は止まらない。だから執行停止の制度がある。
  2. 正)仮差押命令では,必ず執行の停止・取消に必要な「解放金」の額を定める(民保22条1項)。
  3. 誤)取消事由①のために,本案の訴え提起を求める起訴命令の申立てができる。それでも訴訟提起がなければ,保全の取消しを求めることができる。訴訟提起しても,それを証する書面の提出(民保37条3項)がないか,その後に訴えの取下げ・却下がなされた場合(同条4項)には保全の取消し申立てが可能。
  4. 正)取消事由②の場合。

事務職員能力認定試験 第11回解説(問9~12)

問9

  1. 正)「支払督促の申立ては,…簡易裁判所の書記官に対してする」(民訴383条1項)。そして,「裁判所書記官は,債権者の申立てにより,支払督促を発することができる」(民訴382条)。
  2. 正)「適法な督促異議の申立てがあったときは,…訴えの提起があったものとみなす」(民訴395条)。
  3. 正)民訴391条1項。仮執行宣言の申立てがなされると,宣言前に督促異議がなされない限り,裁判所は仮執行宣言をしなければならない。
  4. 誤)仮執行宣言は,送達時に効力を生じる(民訴391条5項,388条2項)。そして,仮執行宣言の効力は,その宣言又は本案判決を変更する判決によって失われる(391条5項,260条1項)。よって,通常訴訟に移行しただけでは効力は失われない(控訴の場合と同じ)。

問10

公示催告とは,官報に掲載して権利を争う者に申し出るよう促す手続。最低2か月,東京では4か月半の期間を取る。

手形・小切手等の盗取・紛失・滅失時は,公示催告の申立てをして,申し出がなければ除権決定(有価証券を無効にする決定)を得ることができる(非訟事件手続法114条1項)。

  1. 警察への紛失届は,公示催告の申立てのために必要だが,それだけでは無効化できない。
  2. 上記のとおり。
  3. 手形・小切手訴訟は,権利行使するための手続。普通の訴訟より簡易・迅速。
  4. 意思表示の公示送達とは,相手方が所在不明の場合に,解除や時効援用の意思表示を行うための手続。意思表示だけでは有価証券は無効にできない。

問11

民事保全は,訴訟や執行の手続をしている間に処分されるおそれがある場合に,処分できないように仮差押等の命令を出してもらう手続。

相手方に察知されないように,簡易迅速性・密行性が求められる。

  1. 〇)申立てには,保全すべき権利と保全の必要性を「疎明」しなければならない(民事保全法12条6項)。「疎明」とは,「一応根拠がある」程度の認識を持たせること。「証明」と違い,確信までさせる必要はない。口頭弁論や審尋をすることもあるが,基本的にはしない。
  2. 〇)「民事保全の手続に関する裁判は,口頭弁論を経ないですることができる」(同法3条)。つまり,口頭弁論を経てすることもできる。また,仮の地位を定める仮処分の場合は,原則として債務者審尋が必要となる(同法23条4項,2項)。
  3. ×)本案訴訟を前提とする仮の手続であることは正しい。しかし,「本案の訴えを提起することができるとき」(同法12条1項)であれば良く,本案訴訟提起後でも問題ない。むしろ,本案訴訟提起後の方が処分の危険は大きいので,保全の必要性が高い。
  4. 〇)同法14条1項。担保を立てさせるか,相当期間内に立てることを条件とするか,又は立てさせないで保全命令を発することができる。ほとんどの場合は担保を立てさせる。不当解雇や交通事故事案など,生活のために必要な場合は担保なしとなることがある。

問12

保全命令の申立ては,その趣旨(①保全の趣旨)並びに保全すべき権利又は権利関係(②被保全権利)及び③保全の必要性を明らかにして」しなければならない(民事保全法13条1項)。

申立書には,申立ての趣旨として①,申立ての理由として②③を記載する(民事保全規則13条1項2号)。


保全の趣旨は,裁判所に発してほしい命令の内容。保全の種類と保全の対象はこれに含まれる(何をどうするか)。

請求の趣旨は通常の訴訟で訴状に記載するもの。

事務職員能力認定試験 第11回解説(問5~8)

問5

  1. 〇)送達場所は,原則として当事者の「住所,居所,営業所又は事業所」(民訴法103条1項)。法人の場合は,代表者が送達を受けるべき者になり(民訴法37条,102条1項),営業所と代表者の住居所のいずれも送達場所となる。
  2. 〇)住居所等が不明か,送達に支障がある場合は,本人の就業場所が送達場所となる(民訴法103条2項前段)。
  3. 〇)転居先が判明しているので,住所不明に当たらない。改めて転居先に送達をしなければならない。
  4. ×)書留郵便に付する送達(付郵便送達)の要件

①不在による不送達(転居先不明やあて所尋ねあたらずは含まない∵そこに住んでないなら郵便送っても意味ない)

②就業場所が不存在,不明,又は就業場所への送達が不能

→設問では①②とも該当しない。

問6

  1. 正)文書の標目,作成者及び立証趣旨を記載した証拠説明書を提出しなければならない(民訴規則137条1項)。原告が甲号証,被告が乙号証とすることになっている。ただ甲乙の区別については法律上の定めが見当たらず,慣例と思われる(当職調べ)。当事者が多い訴訟では,甲乙丙丁…としたり,甲A,甲Bとしたりもする。
  2. 正)証拠一般について,「証明すべき事実及びこれと証拠との関係を具体的に明示してしなければなら」ず(民訴規則99条1項),証拠申出書を提出して行う。人証では,尋問事項書を提出しなければならない(同107条1項)。
  3. 誤)「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるときは,申立てにより,…証拠調べをすることができる」(民訴234条)。
  4. 正)準備書面は,「直送をしなければならない」(民訴規則83条1項)。書証・証拠説明書は,「直送することができる」(同137条2項)。

なお,準備書面の直送を受けた側は,受領書を直送しなければならない(同83条2項)。

問7

  1. 誤)死亡を含め,当事者が訴訟の資格を失ったときは,訴訟が中断し,法定の者が引き継がなければならない(民訴124条1項)。ただし,訴訟代理人がいる間は中断しない(同条2項)。
  2. 正)民訴143条1項。ただし,訴訟を遅滞させる場合は不可(同項ただし書き)。「請求の基礎」が同じかどうかは,①社会的に見て同じ事実に基づいた請求か,②それまでの訴訟資料を流用できるかなどから判断する。
  3. 正)民訴146条1項。ただし,訴訟を遅滞させる場合は不可(同項ただし書き)。反訴とは,被告の方から原告に訴えを起こすこと。元々の訴訟を本訴という。関連する請求を一緒に審理してもらえるが,基本的には別個の訴えなので,反訴であっても各種手続は普通の訴訟提起と同じ(民訴146条4項)。
  4. 正)民訴152条1項。口頭弁論の併合とは,主張立証の手続を一緒にすること。逆に分離することもある。

問8

  1. 正)仮執行宣言は,申立て又は職権(裁判官の裁量判断)で行う(民訴259条1項)。訴状に記載しなくても裁判官が必要と思えば仮執行宣言を付する。でも普通は原告が求めもしないのに付するようなことはしない。優しい裁判官なら要らないんですかって聞いてくれる。本人訴訟で「意味わからんやろなぁ」と思ったら職権で付するのかも?
  2. 誤)仮執行宣言は,「宣言することができる」のであり,宣言しないという裁判もあり得る。金銭請求でも同じ(手形・小切手の場合は別)。
  3. 正)「担保を立てて,又は立てないで」仮執行できることを宣言できる(民訴259条1項)。手形・小切手の場合は,原則担保は立てさせない。
  4. 正)仮執行宣言は,「その宣言又は本案判決を変更する判決の言渡しにより」効力を失う(民訴259条6項)。つまり控訴しても判決までは執行可能。

なお,手形・小切手による金銭請求の場合は,「職権で,担保を立てないで仮執行をすることができることを宣言しなければならない」(民訴259条2項)ので,必ず仮執行宣言が付く。

刑法事例演習教材07「男の恨みは夜の闇より深く」

受験生時代に作成した、刑法事例演習教材(初版)設問の回答例。

【※判例の見解に沿って起案】
第1 甲の罪責
1 Aへの暴行について
(1) 甲は乙と共にAに暴行を加え打撲傷を負わせているから、Aに対する傷害罪の共同正犯(刑法(以下省略)204条、60条)が成立しないか。
(2) 「傷害」の有無
 「傷害」したとは、不法な有形力の行使により人の生理的機能に障害を生じさせることをいう。
 甲は乙と共同してAに対し、乙が後から押さえつけ、甲が顔面を強打するという不法な有形力の行使をしている。これによりAは側頭部に加療4週間程度を要する頭部打撲傷という生理的機能の障害を生じさせているから「傷害」したといえる。
(3) 共同正犯の成否
 共犯の処罰根拠は、他人の行為を介して結果に対し因果性を有する点にある。
 甲と乙は一緒にAを殴打することを共謀し、傷害の実行行為を分担しているから、Aの傷害結果に対し心理的・物理的因果性を有している。
 よって、傷害罪の共同正犯が成立する。
2 ハンドバッグを持ち去った行為について
(1) 強盗罪の成否
 甲は乙と共に行った暴行によりAが気を失っている状況で、Aのハンドバッグを持ち去っていることから、強盗罪(236条)が成立しないか。
 強盗罪は暴行脅迫を手段として財物を奪取するという犯罪類型であり、暴行を「用いて」と定めていることから、同罪の「暴行」は財物奪取の手段としての暴行と解する。
 甲はAに対する暴行が終了した後にハンドバッグを持ち去る意思を生じていることから、手段としての暴行といえない。
 よって、強盗罪は成立しない。
(2) 窃盗罪の成否
 では、窃盗罪(235条)が成立するか。以下要件を検討する。
ア 実行行為
 「窃取」とは占有者の意思に反し財物の占有を移転する行為をいう。そして、本罪の占有とは、財物に対する事実上の支配関係をいう。
 甲が乙と共にAのハンドバッグを持ち去った時点で、Aは気絶している。しかし、意識を失ったからと言って物に対する支配力を失うのは不合理であるから、Aのハンドバッグについても、なおAの占有が及ぶと解する。これを無断で持ち去ることはAの意思に反する行為であるから、「窃取」といえる。
 以上より、Aという「他人の」ハンドバッグという「財物」を「窃取」したといえ、窃盗罪の実行行為に当たる。
イ 故意
 故意とは、犯罪事実の認識・予見のことをいう。甲はAが死んでいると誤信していることから、甲には占有侵害の認識がなく、故意が認められないのではないか。死者の占有が認められるかが問題となる。
 死者には財物の支配が観念できないことから、占有は認められないのが原則である。しかし、被害者が生前有した占有は、死に至らしめた犯人に対する関係では、死亡直後においてなお継続して保護するのが法の目的に適うと解する。
 甲の認識は、Aを殺害し、直後にAのハンドバッグを持ち去るというものであるから、甲との関係でAの占有は保護される。そして占有を侵害するという認識がある以上、窃盗罪の故意が認められる。
ウ 不法領得の意思
 窃盗罪と器物損壊罪等との区別の必要性から、故意以外の主観的要件として不法領得の意思が必要と解する。その内容は、一時拝借のような軽微な法益侵害は可罰的違法性が認められないことから、ある程度終局的に本権者を排除する意思と、器物損壊罪との区別のため財物の経済的用法に従い利用処分する意思と解する。
 甲は、ハンドバッグを焼却処分しようとしている。これは財物の経済的用法に従った処分ではない。よって、不法領得の意思は認められない。
エ よって、窃盗罪は成立しない。
(3) 器物損壊罪の成否
ア では、器物損壊罪(261条)が成立するか。
イ ハンドバッグは、258条ないし260条の客体ではない「物」にあたる。そしてAという「他人の」物である。
ウ 「損壊」とは、物の効用を侵害する一切の行為をいう。ハンドバッグを持ち去る行為は、所有者の使用収益を排し、その効用を侵害する行為であるから、「損壊」といえる。
エ よって、甲にAに対する器物損壊罪が成立する。
(4) 共犯関係
 後述のとおり、乙に窃盗罪が成立する。共同正犯は特定の犯罪を複数人が共同して実行するものであるから、異なる罪名について共同正犯は成立しないと解する。もっとも、構成要件が異なっていても、両者の保護法益と行為態様が同質的で重なり合う限度で共同正犯が成立すると解する。器物損壊罪の保護法益は所有権であり、窃盗罪保護法益である平穏な占有と異なっている。しかし、窃盗罪が占有を保護しているのは、究極的には所有権を保護することを目的とすると解する。とすれば、保護法益は所有権の範囲で重なり合うといえる。そして、所有権者の使用収益を物理的に侵害するという点で行為態様も重なりあうため、器物損壊罪の限度で共同正犯が成立する。
3 Bへの暴行について
 乙が甲と「共同」してBに対し顔面や腹部を殴打するなどの不法な有形力を行使し、加療3週間程度の打撲傷という生理的機能を障害するという「傷害」をしている。よって、傷害罪の共同正犯が成立する。
 同行為は甲乙が逃走するために行われたものである。しかし、甲に窃盗罪が成立していない以上「窃盗」にあたらないので、事後強盗(238条)は成立しない。
第2 乙の罪責
1 Aへの暴行について
 乙は甲と「共同」して、Aを「傷害」したといえる。よって傷害罪の共同正犯が成立する。
2 ハンドバッグを持ち去った行為について
(1) 乙が甲と共にAのハンドバッグを持ち去った行為につき、甲と同様に強盗罪は成立しない。では、窃盗罪が成立するか。
(2) 実行行為と故意
 乙には甲と同様に窃盗罪の実行行為をしたといえる。
 また、乙の認識は甲と同様にAを殺害し、直後にAのハンドバッグを持ち去るというというものであり、窃盗罪の故意が認められる。
(3) 不法領得の意思
 乙は甲と異なりAのハンドバッグを質屋で換金しようと考えている。これは、本権者であるAを排除し財物の経済的用法に従い利用処分する意思といえる。よって、不法領得の意思が認められる。
(4) よって、窃盗罪が成立し、器物損壊罪の限度で甲との共同正犯となる。
3 Bへの暴行について
(1) 甲乙が共同してBを「傷害」した行為につき、傷害罪の共同正犯が成立する。
(2) 事後強盗の成否
 では、事後強盗が成立するか。
 乙にはAに対する窃盗罪が成立することから、「窃盗」といえる。
 事後強盗も強盗であるから、「暴行」は強盗罪の場合と同様に相手の犯行を抑圧するに足りる暴行であることが必要と解する。甲は乙と共にBの顔面や胸部を殴打し、地面に倒れ込む程の暴行を加えていることから、反抗を抑圧するに足りる「暴行」といえる。
 この暴行は甲乙が逃走し「逮捕を免れる」ために行われている。暴行は、逮捕を免れるためであれば、窃盗の被害者に対するものに限られない。
 よって、事後強盗が成立する。Aへの窃盗罪および傷害罪の共同正犯は事後強盗に吸収される。
第3 結論
1 甲の罪責
 Aに対する傷害罪の共同正犯および器物損壊罪の共同正犯、Bに対する傷害罪の共同正犯が成立し、併合罪(45条前段)となる。
2 乙の罪責
 Aに対する傷害罪の共同正犯およびBに対する事後強盗罪が成立し器物損壊罪の限度で共同正犯となる。併合罪となる。

以上


刑法事例演習教材 刑法事例演習教材 第2版

事務職員能力認定試験 第11回解説(問1~4)

問1

訴状には,当事者の記載が必要(民訴法133条2項1号)。

当事者の記載とは,その人物を特定するために必要な情報。通常は氏名と住所を記載し,住所不明なら居所,居所も不明なら住居所不明とする。

  • 住所=「生活の本拠」(民法22条)
  • 居所=生活の本拠ではない,一時的あるいは仮の居住場所

設問では係争建物を「生活の本拠」としているので,「住所」は原則として係争建物であり,3,4は誤り。

被告の特定という観点からは,証拠により氏名等との一致を確認できる住民票上の住所もあった方が望ましい。よって1が適切。2も誤りとまでは言えないが,契約書と住民票という証拠で被告を特定しようとしている設問の場合には,1の方が適切。

なお,本人特定可能なら氏名は通名・芸名等でも可(例「美空ひばり」)。

問2

請求の趣旨は,判決の主文で述べてほしい内容を記載する。執行の邪魔にならないよう,余計なことは一切書かず,結論のみ記載する。

離婚の場合は,判決で離婚が成立し,被告に何かをさせるわけではないので,命令文にならない。

  1. 「被告は原告に対し金~円及びこれに対する~から支払い済みまで年~の割合による金員を支払え」
  2. 「被告は原告に対し~を明渡せ」
  3. 「原告と被告とを離婚する」

登記請求は,「被告の登記手続意思を擬制する」ことを求める請求で,執行(強制的に何かをさせる)の余地はないとされる。よって4は正しい。

仮執行宣言とは,判決後,確定までに財産が散逸するのを防止するため,仮に強制執行をかけられるようにすること。

なお,離婚の慰謝料・財産分与についても,仮執行宣言は付けられない。その理由は,性質上,離婚が確定して初めて具体化する(実際に発生する)権利だから。

問3

  1. 正)第一審は,書面で合意していればどこでもOK(民訴法11条1,2項)。
  2. 誤)人事訴訟以外は,原則として被告の住所地に管轄がある(民訴法4条2項)。
  3. 正)訴訟物の価額が140万円以下の場合は簡易裁判所,それを超えるなら地方裁判所が管轄する。ただし,不動産に関する訴訟については,140万円以下でも地方裁判所に管轄がある。設問は建物明渡請求訴訟であり,不動産に関する訴訟。
  4. 正)不動産に関する訴訟は,係争不動産の所在地にも管轄がある。

基本

  • 原則:被告の住所地
  • 財産請求:義務履行地
  • 不動産:不動産の所在地
  • 登記:登記する地
  • 不法行為不法行為のあった地

訴額

  • 140万円以下:簡裁
  • 140万円超:地裁
  • 不動産に関する訴訟:どっちでも

問4

  • 訴訟物=原告が請求する権利・法律関係
  • 訴額=訴訟物を金銭評価した時の価額
  • 原則:複数の請求がある場合は,原則として訴額を合算する(民訴法9条1項)。
  • 吸収関係:利益が共通している場合は,多い方を訴額とする(同上)。
  • 附帯請求:同一請求の中で,主たる請求を発生原因として生じた部分(果実,損害金,違約金等)は算入しない(民訴法9条2項)。

※「果実」は,物から産み出される利益。文字通りの果実(天然果実)も含むが,家賃や利息といった「法定果実」を意味することが多い。

以上を前提にすると,以下のとおりとなる。

  1. 正)賃料は,建物という物から発生する使用利益(果実)であるから,その請求は,物自体の返還を求める建物明渡請求に対する附帯請求となる。
  2. 誤)離婚とともに求める財産分与は,附帯処分(人訴法32条)となり,分与額は訴額計算に含めない。なお,慰謝料請求は附帯処分に該当せず,吸収関係になる。
  3. 正)貸金返還請求における利息・遅延損害金は,附帯請求なので算入しない。
  4. 正)価額の算定ができない(非財産権上の請求)か,「極めて困難」な場合は,「140万円を超えるものとみなす」(民訴法8条2項)。具体的には,「160万円とみなす」(民訴費用法4条2項)。

2020年の手帳と卓上カレンダー購入

今年も前年と同じ、高橋のフェルテ6とE154を購入しました。

フェルテ6は、装丁が今までの黒から、くすんだネイビーに変更されてしまい、非常に残念です。

しかし、手帳という手帳を探しましたが、週間バーチカルタイプでこれより自分の希望に合致している商品はなかったので、やむなく継続購入しました。

今年は、購入者アンケートのハガキに装丁の不満を書いて送ることにします。

性犯罪の暴行脅迫要件の話

論点は2つ

暴行脅迫の要件を問題視する場合、以下の2つの論点があります。

  1. 暴行脅迫を要件とすること自体の問題
  2. 暴行脅迫の程度の問題

分かりにくいかもしれませんが、これらは全く異なる問題であり、どちらの話をしているのか明確にしないと、およそ議論になりません。Twitterでは、140文字という制限でぶつ切りにされてしまうため、しばしば論点が交錯しているように思われます。

暴行脅迫要件の存在自体について

なぜこんな要件があるのか?

強制性交等罪を含む性犯罪の保護法益(刑罰によって保護しようとしている利益)は、「人の性的自由」と考えられています。つまり、「意思に反する性的行為を罰する」という趣旨で刑罰が定められています。

しかし、それならば、同意のない場合は全て処罰の対象となるはずであり、「暴行又は脅迫を用いて」という手段の限定は不要ではないか、という疑問が生じます。

その答えは、端的に言うと、「同意の有無は第三者には判断しにくいから」ということになります。処罰対象を明確にするためには、客観的な事情を要件とすべきであるという考え方です。13歳未満の者への性的行為は暴行脅迫を用いなくても犯罪となりますが、これも、本人の意思に反するかどうかではなく、年齢という客観的事情で処罰範囲を明確化している例です。

日本の刑法を含むドイツ語法圏では、このような考え方が一般的である一方、英米法では、意思に反する性的行為をそれ自体処罰の対象とする立場もあります。

処罰を妨げているか?

暴行脅迫要件があると、「意思に反した性的行為なのに処罰されない」ということが起こり得るのではないか、というのが、よく見られる議論です。

この点については、以下のような評価がなされており、実際非常に緩く解されているので、一般的な類型においては、この要件によって処罰が妨げられるおそれは少ないと思われます。

「暴行・脅迫それ自体の手段としての限定性は大きく失われており、被害者が抵抗することが著しく困難な状況にあるか否か、あるいは、被害者が性的行為に応じざるを得ない状況にあるか否かが実質的な判断枠組みになっている。」(法学教室427号38頁)

ただし、暴行脅迫があるとは到底言えない場合でも、特殊な環境や関係性から自己決定権を奪われる場合もあります。これを手当てするために監護者性交等罪が新設されましたが、それ以外に処罰すべき場合がないかどうかは、常に検討が必要でしょう。

暴行脅迫要件を廃止してはいけないのか?

暴行脅迫要件の廃止については両論あり、制度的にはいずれもあり得ます。しかし、日本で暴行脅迫要件を廃止しようと思えば問題も生じるため、拙速に廃止すべきではありません。

問題1:要件の明確性

第1に、処罰範囲の明確性が問題となります。不同意認定の判断基準を暴行脅迫に限る必然性はないと思いますが、「諸事情から判断する」というだけでは、条文上は「性的行為は処罰する」となっているのと同じになってしまいます。

たとえば、「疲れていてセックスしたくないのに妻から求められてやむを得ず応じた」という場合に、妻に強制性交等罪が成立するのかしないのか。成立しないとしたら何故か。その区別基準を明確にしないと、夫婦は毎夜セックス同意書を相互に作成・保管し合うことになります。

既に不同意のみを要件としている国・地域でも、証拠と推定の規定など、訴訟法的な要素も含めてかなり詳細な規定を置いていたり(イギリス法)、「被害者の態度を表す文言は用いられず、徹底して行為の客観的要素に注目した類型化が行われ」ている(ミシガン州法)ようです*1。日本でも、何らかの形での要件の明確化を行う必要があるでしょう。

なお、明確な客観基準を廃止すれば、不同意の判断は難しくなります。となれば、裁判では、より微妙な事実認定となるので、おそらく無罪率は高くなるでしょう。無罪率が高まること自体は何ら悪いことではありませんが、暴行脅迫要件廃止論者の一部にとっては、不愉快な結果かもしれません。

問題2:人質司法

第2に、逮捕勾留が簡単に行われてしまう実務を変える必要があります。現状日本は、「人質司法」と揶揄されるほど簡単に(不必要に)身柄拘束されてしまっています。当人からすれば、その社会的ダメージは甚大です。この状況を変えずに安易に暴行脅迫要件を廃止すれば、魔女狩りの世界になってしまうおそれがあります。

暴行脅迫の程度について

なぜ「反抗を著しく困難にする程度」が必要なのか?

性犯罪における暴行脅迫は、「相手の反抗を著しく困難にする程度」の強度が必要と解釈されています。元々、性犯罪の暴行脅迫の程度については、以下のように見解が分かれていました*2

  1. 強盗罪と同様に「反抗を抑圧する(抵抗不能にする)程度」を必要とする説
  2. 現在の解釈と同じく「反抗を著しく困難にする程度」で良いとする説
  3. 強要罪と同程度で足りるとする説

昭和24年5月10日の最高裁判決は、1説を前提とした弁護人の主張に対して、2説を採用することを明らかにしました。厳しい要件を課したというよりは、より緩やかに解釈して良いと示したことになります。

では、そもそも何故こうした「程度論」が出てくるのかと言えば、「不同意であることを客観的に判断するため」と考えられます。

人の内心が目に見えない以上、同意があるかどうかは、客観的事情から判断せざるを得ません。その「事情」が暴行脅迫要件であることは既に述べました。しかし、人によって意思決定の強さは様々なので、「普通の人は意思決定の自由が奪われる」と言えるような「程度」の暴行脅迫に限る必要があるのです。

実際の判断方法

この「程度論」は、実際の判断では以下のように解されています。

「その暴行または脅迫の行為は、単にそれのみを取り上げて観察すれば右の程度には達しないと認められるような者であっても、その相手方の年齢、性別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲の環境その他具体的事情の如何とあいまって相手方の抗拒を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるものであれば足りる」(最判昭和33年6月6日・刑集23巻8号1068頁)

こうした解釈から、「手をつなぐ」「覆いかぶさる」という、性行為に通常伴うような行為についても、強姦罪(当時)の暴行を肯定したものもあるようです*3

そうなってくると、要は「相手方が抵抗困難だったか」の総合判断でしかなく、暴行脅迫自体の程度や、被害者の実際の抵抗の有無等は、判断要素の一つに過ぎないということになります。

立場や状況的に、「抵抗したら何をされるか分からない」と考えることが合理的だと認定できれば、全く無抵抗でも暴行脅迫要件は充足できるので、監護者の影響力などの非典型事例を除けば、さほど処罰の妨げにはならないのではないかと思われます。

「著しく」は必要か?

強盗罪と恐喝罪の違いは、暴行脅迫の程度の差と解されています。性犯罪についても、同様に「著しくではないが抵抗困難」な場合を処罰すべきとの考え方は、個人的には十分あり得ると考えます。

ただ、法定刑が「5年以上の懲役」という重罪である強制性交等罪について、単純に程度論の緩和をすることは、罪刑均衡を害し妥当ではありません。立法論としては、強盗罪に対する恐喝罪のような別罪を用意するか、強制性交等罪の法定刑の下限を引き下げることになるでしょう。

暴行脅迫要件の存否との関係

既に述べたように、反抗が著しく困難だったかどうかは、同意の有無を客観的に判断するための要素です。したがって、仮に暴行脅迫要件自体がなくなったとしても、同意の有無を実質的に判断しようと思えば、反抗困難性は判断要素としては残ると思われます。

既に述べたとおり程度の問題はありますが、「拒否できるけどしない」ことが同意を推認させることは、否定しようのない経験則だろうと思います。

まとめ

暴行脅迫要件を廃止することも、暴行脅迫の程度を緩和することも、立法論としては十分検討の余地があります。

しかし、そのためには慎重な調査・検討が不可欠です。現在、解釈で相当柔軟に対処しているので、それを敢えて変える必要まであるかは疑問です。

現行法で処罰から漏れてしまうケースについては、監護者性交等罪のように、それだけを個別に問題とすればよいのではないかと思います。

*1:論究ジュリスト23号 120頁

*2:法学教室427号36頁

*3:法学教室427号37頁