抵当権者不明土地(休眠担保権の抹消登記)
登記の放置により、所有者不明の土地が増えていることが問題とされているようです。これと少し似た問題として、親から相続した土地に抵当権が設定されており、あまりに古い抵当権のために抵当権者が誰だか分からないという問題があります*1。
所有者不明土地は、現在のところ対応策がないようですが、抵当権者不明土地は、既に対応するための法律が用意されています。不動産登記法70条3項第2文です。
根拠条文
(登記義務者の所在が知れない場合の登記の抹消)
第七十条 登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法 (平成二十三年法律第五十一号)第九十九条 に規定する公示催告の申立てをすることができる。3 第一項に規定する場合において、登記権利者が先取特権、質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。同項に規定する場合において、被担保債権の弁済期から二十年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも、同様とする。
不動産登記法
上記下線部を簡単に言うと、以下の3要件を満たしたら、抵当権抹消していいですよ、ということです。この制度がないと、公示送達で裁判をしないといけないので、非常に面倒です。
- 所在不明:抵当権者がどこにいるか分からない
- 期間経過:弁済期から20年以上経過している
- 弁済供託:遅延損害金含めて全額供託する
以下、3つの要件について個別に説明します。
要件1:所在不明
まずは、不動産の登記に記載されている住所を確認します。弁護士であれば、更に住民票や戸籍から住所を辿ります。しかし、休眠担保権が問題になるような事案だと、そういった資料が存在しないか、あっても住所を辿れない状態の場合がほとんどです。
そこで、次の作業に入ります。
登記記載の住所から場所が特定できる場合
登記記載の住所から特定の住居を特定できるのであれば、そこに人が住んでいるかどうかを確認します。誰か住んでいるのであれば当然住人と連絡して調査します。
誰も住んでいないのであれば、適当な書面を配達証明郵便で送り、返送物を疎明資料とします。市町村長又は民生委員による、住所地にいないことの証明書等が手に入れば確実です。
登記記載の住所から場所が特定できない場合
古い住所表記だと、現在のどの地点を示しているのか分からない場合が多々あります。この場合は、もはや辿りようがないので、適当な書面を配達証明郵便で送り、返送物を疎明資料とする以外にありません。
この場合は、手紙を送るだけで良いのでかなり楽です。
要件2:期間経過
弁済期から20年経過という要件自体は、一見して充足が明らかな場合しか休眠担保権の問題にならないのですが、それでも疎明資料は必要になりますし、遅延損害金の計算のためにも特定が必要です。
担保権設定が昭和39年以前
昭和39年以前は、弁済期も登記事項だったので、弁済期は登記に書いてあります。
登記に記載がない場合、それは弁済期の定めがない契約です。その場合は、更に「債権の成立日」の記載の有無を確認し、記載があればその日、記載がなければ担保権の設定日を弁済期とみなすとされています。
担保権設定が昭和39年以後
弁済期が登記事項でなくなった後に設定された抵当権については、判断のしようがないので(契約書があれば別ですが)、その旨報告書にして、合理的な時期を弁済期とみなすしかありません。
要件3:弁済供託
この制度は、現在まで全く返済していない計算で債務総額を算出し、弁済供託する形式になっています。なので、元本+弁済期までの利息+弁済期から供託時までの遅延損害金の全額を供託する必要があります。ちなみに、供託先は、抵当権者の最終住所地の管轄法務局です。
と言っても、明治から昭和初期の抵当権なので、被担保債権は数十円とか数百円です。仮に被担保債権が1000円だったとすると、利息は100年で5000円です。合計6000円の供託で足ります(実際の事案ではもっと少ない)。
また、共同抵当に入っている不動産がある場合、供託の際には申請書類に全ての不動産を記載しておく必要があります。これを忘れると、記載し忘れた不動産については、改めて供託し直さねばならず、二重払いとなってしまいます。
なお、供託時には、供託理由を記載するだけで、何の根拠資料も必要ありません。だからこそ逆に、理由欄は間違いや不足の無いようにしっかり書かないと、無駄足・無駄金になってしまいます。
まとめ
まとめると、以下のような手順になります。
- 不動産の登記から抵当権者を確認
- 住所を調べたり手紙を送って所在不明の疎明資料を収集
- 債務総額を計算して供託
- 以下の疎明資料を持って抹消登記手続
- 不動産の登記簿
- 所在不明の資料(返送郵便物+配達証明書など)
- 弁済期の資料(不動産の閉鎖登記簿など)
- 供託の資料(供託書正本)
この制度を利用した抵当権の抹消は、代理人として交渉する必要が無いため、司法書士の方が多くこなしているようです。
所有者不明土地についても、いずれはこういった立法上の解決がなされるのかもしれません。
*1:ほぼ間違いなく本人は死んでいるので、正確には相続人がどこの誰か分からないという問題です。