はじめてのせっけん
国選事件などで接見する場合の、窓口での手続の流れをまとめました。これで初めて接見するときも怖くありません。
留置場所に電話をかけましょう
日中の場合は、取調べが行われている可能性があります(特に被疑者段階)。警察の取調べの場合は、中断して接見させてくれたりもしますが、実況見分の立会や、検察官調べで留置場所を離れている場合は、すぐに帰ってこられません。
夜は夜で、夕食、洗面、就寝準備などと時間が被らないようにする必要がありますし、そうでなくても、遅い時間には事前に連絡を入れておいた方が丁寧です。
K「はい、○○署です。」
B「もしもし、私、弁護士の△△と申しますが、留置管理係にお繋ぎいただけますか。」
K「少々お待ちください。……はい、こちら留置管理係です。」
B「私、Aの弁護人で△△と申します。これからAに接見に参りたいのですが、身柄は空いていますか?」
K「大丈夫ですよ。」
B「それでは、15分後くらいに伺いますので、よろしくお願いします。」
留置管理係で接見を申し込みましょう
営業時間外は、入口のカウンターで留置人の名前と接見したい旨を伝えましょう。昼なら、多分勝手に留置管理係まで行っちゃって平気です。留置管理係は、当然窓口が施錠されています。ノックやインターホンで中の警察官を呼び、接見の書類をもらいましょう。
この時、被疑者国選なら法テラスへの報告用複写紙を必ず頼みましょう。私選や、起訴後(被告人)の場合は不要です*1。法テラスの紙に関しては、警察官ごとに対応の差があります。こちらが頼まないと出してくれない人、常に「法テラスの紙も要ります?」と聞いてくる人、何も言わずとも被疑者なら出し、被告人なら出さない人。経験の差でしょうか。
接見の申請書に必要事項を記入したら、複写紙は鞄にしまい、申請書を渡します。その時、徽章を見せて弁護士の地位を示します。その後、携帯電話を預けて、接見室に入ります。
B「Aの接見お願いします。」
K「承知しました。こちらどうぞ。法テラスの紙も要りますか?」
B「はい、お願いします。……(記入)じゃ、これお願いします。」
K「はい。徽章か何か確認させていただけますか?……確認しました。携帯電話あれば、ここに預けてください。それでは、接見室でお待ち下さい。」
申請書の記入事項
- 留置人氏名
- 接見する者の関係(「弁護人」にチェック)、弁護人の氏名、登録番号、電話番号(事務所の電話番号)
- 接見日時(年月日、曜日、時間)
初回接見では、とりあえず話を聞いて状況を把握しましょう
初回接見は重要!と司法試験でも散々学んでいると思いますが、留置場所が事務所から遠いと、別の意味でも重要になってきます。
とりあえず聞くこととしては、本人確認、自己紹介、認否確認、事実の詳細確認、今後の手続きの流れ、接見禁止の有無確認、家族への連絡希望あたりでしょうか。
差入れ・宅下げをしましょう
接見が終わったら、必要に応じて差入れ・宅下げをしましょう。一般的に多いのは、便箋の差入れと謝罪文の宅下げでしょうか。
「差入れ(宅下げ)お願いします。」とだけ言えば書類をくれます。差入れの場合、差し入れる現金か物の内容を書く欄があり、余白部分に斜線を引いて線上に押印する必要があります。弁護人氏名の後ろにも押印が必要です。現金の差入れはあまりしないので、大抵3か所に押印することになります。三文判で良いので、接見用の印鑑を用意しておくと良いでしょう。はん蔵を使うと便利です。
どうせすぐ慣れます
最初は緊張しますが、こんなものは数回も接見すれば覚えてしまいます。気楽にやるのが一番です。
*1:国選の報酬は、被疑者は接見の回数、被告人は公判立会の時間で決まるのです。
裁判員裁判の弁論に演出は必要か?
一部の本では、裁判員裁判での最終弁論について、「裁判員に語りかける」とか「法廷中央に歩み出てペーパーレスで行う」といったやり方を推奨しています。これは、裁判員に「傾聴させる」「理解させる」ためのテクニックとして有用であるという趣旨です。
しかし、私個人としては、こういったテクニックの有用性については懐疑的です。
司法修習中に評議を見たり、実務で裁判員裁判の弁護活動をした経験からすると、裁判員は、こちらが思っているよりもずっと真剣に裁判を見て、考えています。語りかけにより記憶を喚起するとか、立ち位置で注意を集中させるとか、ペーパーレスで「読み上げている」印象をなくすとか、そういったことではほとんど心証を変えられないくらい、言葉の「中身」を聞いています。
これは、ある意味裁判員への「信頼」です。主張を総括しただけであろうが、弁護人席から紙を片手に読み上げようが、その主張が論理的で、争点としっかり噛み合っていさえすれば、正しい判断をしてくれるはず、という信頼に基づいています。そして、そうした正しい判断の前提には、弁論の読み上げ方から得られる「印象」など入り込む余地はないように思えるのです。
仮に心証に及ぼす影響があるとしても、それほど大きいものとは思えません。むしろ、客観的に判断しようと懸命になっている裁判員からすれば、変に語りかけられればかえって悪印象を持つ場合もあるかもしれませんし、ペーパーレスでやろうとして失敗でもしたら、かえって印象は悪くなりそうです。そういったことがないように徹底的に練習しておくのは大前提なのでしょうが、人間に完璧はありません。リスクは必ずあります。私は、こうしたテクニックが裁判員に与える影響と、最低限残るリスクとを比較衡量してみても、後者の方が大きいのではないかと思います。
結論として、裁判員裁判の弁論だからといって、演出は必要ないと思います。ペーパーの中身(論理構成)で勝負するのが必要十分であって、それ以上のことに気を使うのは、リスクに対するリターンが皆無又は小さすぎると思います。
『刑事弁護ビギナーズver.2』
- 出版社/メーカー: 現代人文社
- 発売日: 2014/09/22
- メディア: 単行本
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弁護士必携の一冊。多分、刑事弁護を扱う事務所なら必ず置いてあります。
司法修習時代には、必携と言われてもピンときませんでしたが、実際に実務で刑事弁護をしていると、本当にことあるごとにお世話になります。
必要が生じた時にサッと取り出してパッと参照すると、大抵のことは書いてあります。逆に、必要もないのに頭から通して読むとか、そういう使い方はしません。だから、自分で刑事事件を処理してみないと、この本が役に立つということは実感できないと思います。実務に出てはじめて価値が分かる、まさに実務家のための本でした。
弁護士になるためのルート
流れ図
弁護士になるまでの過程を、ざっくり図にしてみました。なお、以下の図や説明は全て2017年現在の状況についての話です。
受験資格を得るまで
弁護士(又は裁判官、検察官)になるには、司法試験に合格しなければなりませんが、その司法試験を受験するには、受験資格が必要です。
司法試験の受験資格を得るための方法は、原則として、(1)ロースクールを卒業するか、(2)予備試験に合格するかの2つです。
予備試験
予備試験とは、ミニ司法試験とも言える試験です。これに合格すれば、ロースクールを出ていなくても、司法試験の受験資格が得られます。
当初は、旧司法試験受験者に対する救済制度のような位置付けでしたが、ロースクールが次々消えていく中、時間や学費を圧縮できる予備試験ルートの方が正解なのでは?と思う人が増えているようです。
司法試験
司法制度改革で大幅に合格者数と合格率が上がっており、平成28年(2016年)の合格率は、約23%です(昔は3%とかでした)。4~5人に1人は合格できると考えれば、難関とは言えそれほど極端ではありません。しかし、問題は合格率よりも、不合格の場合のリスクが大きいことです。
現在の司法試験は、受験資格取得後、5年以内(5回以内)に合格できなければ、受験資格を失います。以前は5年以内かつ3回以内だったので、これでも緩和されているのですが、5年を過ぎたらまたロースクール入学からやり直しというのは、かなりしんどいものがあります。「5回も受けて受からないなら諦めた方が良い」と言う人もいますが、働きながら受験している人達もいますし、そう簡単に割り切れるようなリスクとは考えられません。
予備試験ルートがあるので、制度全体で言えば致命的なリスクではないのですが、「ロースクールに通ったことが全て無駄になる」というプレッシャーはかなりのものです。
合格後
司法修習
司法試験に合格した後は、司法修習という実務研修を受けなければなりません。約1年間、埼玉県和光市にある司法研修所や、各地方で実務研修を受けます。
司法修習の制度は色々と変遷があるのですが、一番問題となっているのは、修習中の生活費問題です。修習中は原則として働くことを禁止されるため、そのままでは生活できません。そこで、国から生活費を支給されます(現在は月額13万5000円)。しかし、2011年~2016年の間に司法修習をした世代は、この給費制が廃止されていたため、総額約300万円を国から借金させられていました。この世代に対する救済措置は一切ないため、現状、この6年間に司法修習をした人達だけが、マイナス300万円からのスタートを余儀なくされています。
- 1年間の研修を受けないと働けない
- その間給料はなし、代わりに生活費として300万円を借金(一部世代のみ)
- 勤務地は選べず、多くは地方で、引越費用は自腹
- 研修終了時には試験がある
- 試験に合格しても、就職できるかは分からない
民間企業でも公務員でもあり得ないようなブラック待遇です。
二回試験
二回試験とは、司法修習の最後に行われる、修了試験です。これに合格しなければ法曹資格は得られません。不合格の場合、1年待って試験を受け直さねばならず、3回落ちたらもう試験は受けられません。そうなると、事実上法曹資格を得る方法はなくなります*1。
二回試験の合格率は95%程度なので、三振する人はほとんどいませんが、それでもゼロではありません。また、三振までしなくても、落ちれば就職先の内定がパァになるので、そのプレッシャーは相当なものです。丸一日かかる試験を5科目も受け、そのうち1つでも合格点に届かなければ不合格となってしまうので、ある意味、司法試験よりもずっと精神がすり減ります。
就活
法曹資格を得られても、仕事は自分で見つけなければなりません。司法試験合格者の大多数は弁護士になり、かつ、既存の弁護士事務所に雇用される形で就職します。したがって、そのための就職活動をしていかなければなりません。もしも二回試験までに内定をもらえなかったら、就職浪人になります。
ちなみに、検察官や裁判官になりたい場合は、司法修習中に教官から推薦をもらう必要があります。採用人数的に狭き門であり、修習中に優秀な成績を取りつつ教官にも熱意をアピールしていく必要があります。
まとめ
以上が、弁護士になるまでの過程です。
正直言って、途中で挫折した場合のリスクが相当高い職業だと思います。大学から司法修習終了まで最短で8年。その間の学費・生活費もかなりのものです。
それなりに魅力のある職業であるとは感じるので、ならない方がいいとは思いませんが、目指すのであれば色々な可能性を慎重に検討しておくべきでしょう。
*1:一定の条件で弁護士資格の認定を受ける制度もありますが、かなり大変なようです。
無理なら無理と言った方が満足度が高い
どう考えても無理筋だったり、勝てることは勝てるけど絶対に費用倒れになるであろう相談というのは、よくあります。
こういう相談が来た時は、はっきり「無理です」「やるだけ損です」と言ってしまわないといけません(もちろん言葉は選びますが)。半端に希望を持たせることは相談者の不利益になるので、誠実な対応とは言えません。
一定の希望を持って相談に来ているのに、あっさり全否定されたら怒ってしまうのでは……とも思えますが、逆に満足する方が多いです。「勉強になった」「相談してよかった」と言って、すっきりした顔で帰っていきます。
要するに、そういう無理筋なトラブルというのは、本人も薄々無理筋だと分かっているのでしょう。さりとて、何もしないのも腹立たしい、ということで、どちらでも良いから誰かにはっきり決めて欲しくて相談に来るのだと思います。そういう方には、半端な態度をとるより、はっきり否定してあげた方が満足度が高くなるのです。
強い期待を抱いてきた方でも、無理な理由をきちんと説明すれば納得しますし、納得しなければ別の弁護士に相談する契機になります。いずれにしろ、無理なら無理と言う方が相談者の利益になることは間違いないので、はっきり否定することをためらう必要はありません。
はっきり「やめておいた方がいい」と言っても感情論で法的措置を望む方の場合は、受任すると非常に大変な目に遭う可能性が高いので、要注意です。
良い弁護士の見分け方
どこの弁護士に頼めば良いのか?これは、かなりの難問です。
結論
結論から言ってしまうと、「自分と相性の良い弁護士が最良」です。事務所の規模とか、弁護士の年齢、性別、そういうのは直接には関係ありません。
弁護士に頼むというのは、契約をしたら後は解決の報告を受けるだけ、というわけにはいきません。事案にもよりますが、弁護士と依頼者が共同で問題を解決していくという側面が強いのです。そうなると、一緒にやっていける相手かどうか、つまり、相手を気に入るかどうか、というのが最も重要になってきます。
能力じゃないのか?
もちろん、依頼者の利益を最大化するためには、弁護士の能力も高いに越したことはありません。しかし、能力は目に見えませんし、実績なんてものは大げさに見せることもできます。逆に、ベテランの先生は、全く宣伝しない方も多いので、実績が目に見えることはほぼありません。
そもそも、弁護士によって得意な分野も違いますし、同じ事案でも、何を重視するのか(交渉か裁判か処理速度か)でも話は違ってきます。
単純な「優秀さ」を測るのは、ほとんど不可能と言っても過言ではありません。
相性を判断するには?
では、どうやって自分と弁護士との相性を判断するのか、というと、これはもう実際に話をしてみるしかありません。
見た目は?所作や話し方は?理屈や根拠をしっかり説明するのか?結論だけ簡単に説明するのか?事務員への態度は?事務員の様子は?笑顔なのか?真剣な顔なのか?メモは手書きか?パソコンか?悪い見通しをズバズバ言うのか?オブラートに包みまくるのか?etc...
何となくの直観で、良さそうだと思うか、気に入らないと思うか、それが一番重要なポイントです。まず1度法律相談をしなければいけないのが問題ですが、これ以外に判断する術はほぼありません。
法律家は「正しい日本語」を使う(べき)
日本語は、法律家にとって最も重要な商売道具です。
裁判官や検察官は、漢字の使い方や送り仮名の使い方についても、公用文作成要領に従うよう努めています。司法修習の際には、その厳密さに驚きました。弁護士はそこまで厳格ではありませんが、それでもかなり気を使います。
司法試験では、一義的・簡潔で正確な文章表現が強く求められています。修飾語のかかる位置が明確でなかったり、一文があまりに長かったりすると、それだけで評価は低くなります。日本語自体が、法律家同士が扱う共通規格であるということを考えると、当然のことです。更に言うと、文章表現が良くない答案は、内容も残念なことがほとんどです。
もしも今後司法試験を受験しようと考えている人がいたら、普段から簡潔明瞭な文章を書くように気を使ってみると良いと思います。