交通事故は主婦の方がお得
交通事故の損害賠償の内訳には、休業損害(略して「休損」)というものがあります。読んで字のごとく、事故のせいで仕事を休むことになった場合に、休んで減った分の収入のことです。
休損には、色々と難しい問題もあるのですが、日頃から奇妙に感じているのは、「下手に働いている人よりも主婦の方が休損の金額が大きくなる」ということです。
休損の算定は、ざっくり言うと「給与の日割額×休業日数」で出します。すると、仕事上の責任から怪我を押して無理に出勤した人は、その分休損が減ります。また、給与額は実額(事故前3か月の平均などから算出)で考えるので、給与額が低ければ休損の額も低くなります。
しかし、主たる家事従事者の場合、実際の現金収入の額にかかわらず女性全体の平均賃金が代用され、病院等への通院日は全日休業したと考えることができます*1。平成28年の賃金センサスによると、女性全体の平均賃金は376万2300円なので、年収376万円以下や、それ以上であっても事故後休みを取らなかった場合などは、主婦休損で計算した方が得になります。
ちなみに、一人暮らしの人は主張できません。なぜなら、自分自身のために家事をするのは当然であり、他人に提供する「仕事」としての価値は生じないからです。
正直、一般家庭の家事が一律に女性の平均賃金と同価値であるという考え方には疑問符が付いてしまいます。もちろん、被害者とその弁護士にはありがたい話なのですが。
*1:実際には、徹底的に争うとなるとこの辺も争われますが。
修習生伝統の起案対策マニュアル
司法修習生の間では、過去問やその優秀答案、起案対策マニュアルなどが受け継がれてきています。毎年無秩序に累積しているので、数GBもの容量となっています。私も、そうしたデータは入手し、目を通しました。しかし、はっきり言ってこれらはあまり役に立ちません。
役に立たない理由としては、まず第一に、内容が古いということがあります。過去問のデータはともかく、マニュアル系のテキストは、あまり新しくありません。もちろん、現在でも通用する内容も多いのですが、検察起案などは検察講義案の大幅改訂などによりあまり通用しなくなっているようです。
そもそも、現在の白表紙は内容が非常に分かりやすくなっており、起案の「型」も講義ではっきり示してもらえるので、マニュアルの必要性からしてほぼありません。
また、過去問に関しても、前年度のものに目を通す程度のことはしたいところですが、それ以上は不要です。なぜなら、研修所の起案は、出題内容が変わることはあっても、基本的に毎回同じような形式でしか出題されないからです。
本来何時間もかけて起案する問題について、何題も目を通すことには、時間に見合った効果は期待できません。
起案で好成績を得るために必要なのは、マニュアルより何より、以下の3つです。
- 白表紙を読み込むこと(建前抜きで、必要なことは全部白表紙に書いてあります)
- 優秀答案を読んで「型」とメリハリの付け方を学ぶこと
- 資料の読み込み速度と起案の速度を上げ、書く量を確保すること
なお、たくさん書いても点数には比例しないとも言われますが、時間がなくて全然書けなくなるよりは、多少無駄が多くても書くべきことを書き切れた方が絶対に良いです。刑弁・刑裁あたりは、枚数制限があったりするので別の考慮が必要ですが、少なくとも民弁と検察については、枚数勝負なところがあるのは否定できません。
代々伝わる伝統の起案対策マニュアルは、あまり意味のない代物と言って過言ではないでしょう。
弁護士の手帳
1月始まりの手帳が店頭に並ぶ季節になりました。
弁護士は、相談にしろ裁判にしろ、外部の都合に合わせてスケジュールを決めることが多いので、予定把握のために手帳が必須となります。
弁護士専用手帳
弁護士用に作られている手帳としては、「訟廷日誌」と「弁護士日誌」があります。どちらも、裁判所の期日を書く欄が用意されており、弁護士業務用の便覧が付属している点が特徴です。
これらの手帳を愛用している弁護士はたくさんおられますが、私は、正直言って使いにくいと思っています。小さくて書き込みスペースが少ないし、時間を視覚的に把握できないので、私はあまり好きではありません。もはや「弁護士の仕事といえば訴訟」という時代ではないので、裁判期日の記入に特化していると、逆に弁護士の手帳としては不足が出てくるのだと思います。実際、ある程度の年代から下では、上の2つの手帳を使っている弁護士はあまり見ないように思います。一般向けの手帳は色々と工夫があり、弁護士業務に使うのにも普通に便利です。
電子アプリ
手帳ではなく、タブレットなどで一元管理している弁護士もしばしば見かけます。私も、プライベートの予定は全てGoogleカレンダーで管理しているので、予定管理の方法としては十分ありだと思います。
ただ、私自身は、紙の手帳を全く使わないで仕事をするのは難しいと感じています。なぜなら、予定の書き込みも一覧・検索も、紙の方が圧倒的に早いからです。何か特定の用件を探し当てるのはパソコンやタブレットの方が早いのでしょうが、数か月単位で通覧し、予定の「空き」を確認したりするのは、どうしても紙の方が早くなります。
この辺の事情は、機械的な性能というより媒体の特性の問題なので、紙の手帳が主流であることは当分変わらないのではないかと思います。
自分の手帳の選び方
ちなみに、私の場合は、以下のような条件で検討します。
バーチカル形式(見開き1週間)
時間管理が視覚的にできるので、バーチカル形式がベストです。
その週の予定をひと目で確認しつつ、書き込みスペースが大きくなるように、見開きで1週間になるレイアウトが一番バランスが良いと感じます。
平日重視タイプ
土日は裁判期日が入らず、事務所にもよりますが相談予定も入らないので、土日のスペースはそんなに要りません。なので、平日のスケジュール欄を広く取れる平日重視タイプの方が無駄がありません。
サイズはA6~B5
使いやすさとしては、B6かA5あたりがちょうど良い気がします。A6は若干小さく、B5は若干大きいと感じましたが、いずれも許容範囲です。
仕事柄、手帳を出す時は机がある場面がほとんどなので、サイズが大きいのはさほど問題になりません。しかし、サイズが大きいと、土日が平日と同じスペースになり、メモ用の余白も大きく取られるので、逆に平日のスケジュール欄が狭くなっていたりします。そのため、結局はB6からA5くらいが一番無駄のないサイズ感になってくるのです。
余白少なめ
多少のメモ用余白は必要ですが、アイデアやToDoを大量に書き込むわけではないので、本当に少しのスペースで十分です。メモ部分が多いと、それだけ予定を書き込むためのスペースが減るので、余白は少なめの方が良いのです。
時間軸は単位時間あたりのスペース広め
相談時間は30分単位なので、とりあえず30分単位での管理が可能な程度のスペースが必要です。
逆に、1日の開始時間と終了時間は、8時から20時などで良く、24時間全部の予定は必要ありません。その時間帯は仕事していないか、少なくとも他人と会う業務予定は入れないので。
1月始まり
司法修習が12月に終了するため、多くの人は12月か1月に弁護士登録し、働き始めるのもその時期になります。私も1月から仕事を開始したので、1月始まりが時期に合っていました。
また、4月始まりだと少し不便だと思います。4月前後は、裁判所に異動があるため、次回期日が遠くなります。4月始まりの手帳だと、予定確認のために2冊持ち歩く必要が出てくる可能性があります。
大抵の手帳は、実際には開始月の前月から始まっているので、1月始まりなら12月に買い換えれば間に合います。
2018年の手帳候補
上記の条件から、今のところ2018年の候補は、高橋書店の「フェルテ6」と日本能率協会の「ネクサスA5バーチカル」です。
高橋 手帳 2018年 1月始まり ウィークリー フェルテR 6 B6 黒 No.236
- 出版社/メーカー: 高橋書店
- 発売日: 2017/08/29
- メディア: オフィス用品
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能率 NOLTY 手帳 2018年 1月始まり バーチカル ネクサス A5 ブラック 6462
- 出版社/メーカー: 日本能率協会
- 発売日: 2017/08/25
- メディア: オフィス用品
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労組と非弁
この記事を見ていて思い出したのですが、『ガイアの夜明け』という番組で、外国人実習生の賃金未払い問題を取り上げた回があります。
そこで紹介された事例では、「岐阜一般労働組合の甄凱(けんかい)さん」なる人物が、中国人実習生5人を労組に入れることで、自ら実習生らの雇用主と交渉し解決金を獲得する、ということをしていました。しかし、この労組が解決金を獲得した場合、「カンパ」の名目で解決金の2割を持っていかれるとのことでした。
労働紛争が起こってから形だけ労組に加入させ、解決金の2割もの金額の「カンパ」を事実上強制するのは、正直ただの非弁行為にしか見えませんでした。
この「解決金の2割」というのは、結構な額です。たとえば、上記実習生の場合、1人あたり620万円程度の未払賃金があったということなので、全額回収したら124万円を「カンパ」することになります。(旧)弁護士報酬基準によれば、着手金40万円*1+報酬金80万円*2=120万円*3となる案件なので、トータルで言えば弁護士に依頼するより高くついています。
中国人実習生が弁護士に頼まなかったのは、おそらく、①着手金(あるいはそれ以前の相談料)が払えないことと、②言葉の壁があることが理由だと思います。②は外国人実習生に特有の問題なので置いておくとして、問題は①の方でしょう。
上記労組と同じように、着手金ゼロで報酬を高めに設定すれば、宣伝次第で残業代請求の仕事を集めることは可能なのではないかと思います。たとえ過払い金バブルのようなおいしい仕事ではないとしても、非弁紛いの方法が横行している分野なのであれば、弁護士は積極的に開拓していくべきだと思います。
赤本青本緑本
交通事故案件では、弁護士が必ずと言って良いほど参照する資料があります。「赤い本」「青本」「別冊判タ38」の3冊です。
簡単に言うと、それぞれ、損害賠償額算定の基準、その詳細や例外の解説、過失割合の基準をまとめたものです。
赤い本
- 正式名称『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』
- 毎年改訂版を発行
- 通称「赤い本」「赤本」(「い」を入れるのが公式らしい)
東京地裁の実務に基いて、交通事故の賠償額算定基準がまとめられたものです。上下巻セットで、上巻は賠償額算定基準、下巻は講演録となっています。上巻は最新のものだけあれば良いのですが、下巻はそうもいかず、それでいて古い赤い本は入手困難なため、昔の下巻はレアだったりします。
元々は関東限定の基準だったようですが、現在は全国で使われています。赤い本(の上巻)を読めば、交通事故の損害賠償額の算定方法は大体書いてあるので、実務上悩んだら必ず最初にこれを読みます。
なお、一般の書店では売っていません。「実務用の専門書はまともに売れない」のが理由なのでしょうが、「算定基準が一般に知られては弁護士と保険会社が困る」という理由もあるのでは…と勘ぐってしまいます。
青本
- 正式名称『交通事故損害額算定基準』
- 各年で改訂版を発行
- 通称「青本」「青い本」(こちらは逆に、「い」を入れないのが公式らしい)
内容的には、赤い本とほぼ同じです。元々は、赤い本が関東版、青本が全国版として区別していたところ、赤い本が全国で使われるようになったので、青本は解説を充実させることで赤い本との差別化を図るようになったそうです。
こちらも一般の書店では売っていません。
別冊判タ38
交通事故の態様ごとに、過失割合を分かりやすくまとめたものです。交渉や訴訟でも、普通に「別冊判タ38☓☓ページの図」などと参照されて、基準にされます。
ズバリの事故態様が載っていなくても、基本類型と過失割合増減に関する考え方が説明されているので、ざっくりとした過失割合は導けます。
これは普通にAmazonでも売っています。法律家以外の方も、一度読んでみると面白いんじゃないかと思います。実際には2:8くらいなのに、「自分は過失ゼロ!」と主張する依頼者も結構いらっしゃるので。
別冊判例タイムズ38号 (民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準全訂5版)
- 作者: 東京地裁民事交通訴訟研究会
- 出版社/メーカー: 判例タイムズ社
- 発売日: 2014/07/10
- メディア: 雑誌
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司法修習の準備
合格発表直後
9月12日に2017年司法試験の合格発表が行われました。自分の時を思い出してみると、合格発表後の数日はかなり忙しかったように思います。
- 最高裁判所に行って司法修習申請書類を受領
- 法務局へ行って登記されていないことの証明書を取得
- 市役所へ行って戸籍抄本を取得
- 病院で健康診断を受ける
- 写真屋で証明写真の撮影
- 大学・大学院へ行って成績証明書等を取得
このくらいのことを、合格発表後1週間くらいでやっていました。
その後、合格発表から10日から2週間ほどで成績通知が届き、1か月半くらいで修習地の決定通知とともに大量の白表紙(司法研修所で使うテキスト類)が届きます。
司法修習の申請手続後、修習地が決定するまでの間は、完全に暇です。それまでの生活の整理(参考書類の処分など)や修習生活の準備、人によっては就活を始める人もいるかもしれませんが、「やらなければならないこと」は何一つなくなります。長期旅行など、暇がなければできないことは、この時期にできるだけやっておいた方が良いと思います。1か月以上も一切何も気にせず自由に時間を使えるのは、ここが最後の機会と言っても過言ではありません。
修習地決定後
住居探し
修習地が決定した後は、修習地で生活するための住居を探しました。私の場合、地元から遠い土地だったので、ネットで部屋を探し、自費で現地に行って内見・契約するなどの作業が必要となり、かなり大変でした。
司法修習生は、1月からという半端な時期、1年未満という半端な契約期間になってしまうので、普通のアパートなどを探すのは割と大変です。割高を承知でマンスリーマンションなどを借りる人も結構います。ただ、逆に修習生御用達の物件のようなものがあったりもするようです。
この時、電化製品や家具類をどうするかということも考えなければなりません。実務修習の開始・終了段階で全部持って引っ越すというなら問題ありませんが、荷物の移動を少なくしたいのであれば、レンタルという方法もあります。私は、冷蔵庫・洗濯機・電子レンジなどの大きめの家電は、レンタルで済ませました。
その他の購入品
修習に必要な物は色々ありますが、優先度の高いもので言うと、以下のような物でしょうか。
事前課題
修習が始まる前に、事前課題というものが出されます。修習中の成績に影響するわけでもないので、そこまで気にするほどのものではありませんが、真面目にやろうと思うと結構面倒臭いです。
その他
予備校主催の合格祝賀会などでは、合格者同士で事前に顔を合わせたりするようです。同じ修習地の人と仲良くなっておきたい人は、参加しても良いかもしれません。
他にも、やれることは色々とあるでしょう。法律事務所への就職活動なども、この時期から説明会などが始まってくるので、アンテナを張っておくと良いかもしれません。
ただ、あまり気を張る必要もありません。修習は、「やってみれば何とかなる」の連続ですし、就職活動も、氷河期が終わって「何とかなる」感じになってきています。裁判官や検察官を目指している方は成績も気にする必要がありますが、そうでなければ、とにかく1年間の修習を楽しむことだけ考えておけば良いと思います。
予備試験ルートの合格率
9月12日に、平成29年司法試験結果が出ました。
統計によると、予備試験ルートでの受験生は、合格率が72.5%と抜きん出て高く、これをどう見るかということが問題にされることもあります。
しかし、これは若干数字のマジックなところがあります。確かに、予備試験ルートの合格率は異様に高いのですが、そもそも予備試験自体の合格率が、たったの4%弱なのです(平成28年結果)。まるで旧司法試験の合格率です。
要するに、受験資格の段階でふるいにかけられているからこその高い合格率なわけで、別に予備試験ルートの方が有利というわけではありません。
実際問題、予備試験はかなり難しいと言えます。内容も司法試験に近いため、司法試験の答案練習に予備試験の過去問を使ったりもするくらいです。邪推ですが、法科大学院の価値を下げないために、予備試験はわざと難しくしているのではないかと思います。そのため、法科大学院ルートで5回落ちてしまった人が、予備試験ルートに移行して再チャレンジというのは、正直無謀だと思います。
予備試験ルートは、優秀な人間が2~3年の時間と高額な学費を浪費せず受験資格を得られるのが最大の利点でしょう。