日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

早さは正義

修習時代、民事弁護の教官から、「弁護士にとって早さは正義」と言われました。当時は、「仕事は早い方が良い」程度の意味に受け取っていたので、「何を当たり前のことを」と思いましたが、今になって、その言葉が身にしみています。

弁護士になって、抱える案件が多くなると、必然的に処理の優先度というものが発生します。優先順位を付けて順に処理する事自体は正しいのですが、そうすると、どうしても「後回しになり続ける案件」というものが出てきてしまいます。「時間が空いたら処理する」という程度の優先度だと、他の案件にちょっとした動きがあったり、急に国選事件が入ったりするだけで、予定より遅れてしまいます。

しかし、依頼者は「事態の進展」を求めて弁護士に依頼しているので、状況が進まないと、その原因が何であれ不満を感じます。逆に、進展が早いと、それ自体を「弁護士に依頼した効果」と受け取ってくれるので、満足度が高くなります。事態の進展を求める依頼者にとって、「仕事の早さ」は、ある意味結果よりも満足度を左右する要素なのです。極端なことを言うと、全く進捗がなくても、とりあえず報告書を送っておけば、進捗があった際にだけ報告書を送るより、満足度が高くなります。依頼者としては、具体的な進展がなくても「処理が進んでいる」「弁護士が働いている」と感じられるからです。ただ、そうした報告書はどうしても優先順位が低くなるので、忙しくなるとなかなか送れなくなります。

「仕事の早さ」は、依頼者の満足という主観面に強く訴えかけるものであり、それ自体に強い価値があることから、まさしく「正義」と言えるものです。正義のない力がただの暴力であるように、処理が遅ければ、その内容が適切でも良い評価は得られません。

冒頭の教官も、自戒を込めて修習生に話していたのだろうな、と今は思っています。

法曹三者の中から弁護士を選んだ理由

裁判官、検察官、弁護士をまとめて「法曹三者」と呼びます。

実を言うと、私も、修習前は検察官に任官すること(任検)を考えていました。しかし、修習中に各庁を回る中で、検察官より弁護士の方が向いていると思うようになりました。検察官の仕事自体は、とても面白いし、やりがいがあると感じたのですが、「組織」というものがどうにも性に合わない感じがしたのです。ちなみに、裁判官については、事件に直接的・主体的に関われないので最初から興味がありませんでした。

検察官は、何だかんだ言っても完全縦社会の組織構造であり、ある意味体育会系です。上司や同僚に恵まれれば良いのでしょうが、それが性格の合わない相手であれば、かなりのストレスになります。数年ごとに転勤があるので、良くも悪くも短期間で人間関係がリセットされますが、その度に「職場ガチャ」を強いられるわけです。

司法修習中は、各庁で色々な方と交流します。当然のことながら、どこであっても、相性の良い人と悪い人、親しみやすい人と癖の強い人がいます。私自身、「この人と付き合っていくのは嫌だな」と思う人にも出会いました。しかし、裁判所と検察庁では、そんな相手とであっても、うまく合わせ、仕事を円滑に進めることが求められます。私の場合、そうした人間関係のストレスに勝るほどの熱意はありませんでした。

もちろん、弁護士でも、就職先に嫌な相手がいることはあり得ます。しかし、弁護士であれば、さっさと事務所を移るなり独立するという選択肢があります。今は弁護士業界も売り手市場ですし、地方ならいくらでも仕事が入ってくるので、「嫌なら辞める」は当然の選択肢と言えます。実際、弁護士が最初の事務所を3年以内に辞めることは、特に珍しくありません。

要するに、弁護士には「選ぶ自由」があるのです。そこに惹かれました。

正直、修習前には、自分が「自由な生き方」にこれほど魅力を感じるとは思っていませんでした。自分の価値観に改めて気付かされた点で、司法修習はとても有意義だったと思います。

弁護士のサブバッグ

検察官の風呂敷文化に対して、弁護士はどうしているかと言うと、ビジネスバッグ+資料入れ用のサブバッグというスタイルが多いのではないかと思います。

刑事民事問わず、裁判となれば資料も大量になってくるので、普通のビジネスバッグには入り切りません。そのため、リュックサックやトートバッグ、小さめのキャリーバッグなどに資料ファイルを入れて持ち運びます。人によってはビジネスバッグを持たず、最初からリュックサックのみ使う場合もあるでしょうが、私の場合は、薄型のビジネスバッグにサブバッグとしてトートバッグを使うスタイルです。

こういったスタイルが多いことは、京都弁護士協同組合が弁護士用帆布かばんなるものを商品化していることからも分かります。

この「弁護士かばん」は、確かに欲しいと思える機能性をよく備えていて、かなり便利そうです。ただ、個人的には17,280円という価格にちょっとためらってしまいます。作りもよく丈夫そうなので、長く使えるのであれば高くはないのでしょうが、実物に触れずに即買いできるような値段でもありません。

私の場合は、つい最近まで百均の薄っぺらいトートバッグを使っていました。耐久性も機能性も全くありませんが、とりあえずサイズはちょうどよく、とにかく安いので、擦り切れるたびに買い替えても、上の「弁護士かばん」を買うよりトータルコストは遥かに安く上がります。

とはいえ、万が一出先で底が抜けたりしても困るので、もう少しまともなサブバッグを購入することにしました。「弁護士かばん」まで行くと高すぎるので、Amazonでもっと手頃な価格のトートバッグを探しました。

ということで、見つけたのがこちら。

高さはもう数cmほど短くても良い気がしますが、それ以外のサイズは、本体も持ち手もちょうど良い感じです。帆布自体がやや重い素材ですが、構造がシンプルなのでサイズの割には軽いですし、作りも頑丈でした。持ち手がゴワゴワと固くて肩にかけた時あまり快適でないこと以外は、ほぼ不満はありません。

百均のバッグで困るかと言えば、そこまで困らないし、高い物であればそれはそれで便利になるので、こういったものにどこまでお金をかけるかは、なかなか悩ましいところです。

結局今年もフェルテ6

今年も10月に入り、そろそろ新しい手帳を買っておかないと、期日指定時の予定確認ができなくなってきます。

そこで、今年も一応手帳を探してみましたが、現状では私の希望に一番沿うのは高橋書店のフェルテ6でした。

本当は、フェルテ6がレイアウトそのままで一回り大きいA5サイズになり、30分単位で薄い罫線が引かれるとベストなのですが、A5だと土日均等かメモ欄に幅を取られている商品しかないので、B6で妥協するしかありません。30分刻みは、そもそもA5以下のサイズで採用している商品自体がほぼないようです。B5以上のサイズはさすがに取り回しづらいので、個人的には候補に入りません。

というわけで、結局今年もフェルテ6を購入しました。

司法試験の勉強:憲法の構成

対立軸の特定

憲法の論述は、簡単に言えば合憲論と違憲論を並べてから自分の意見を書くという形式です*1。この時の思考法として大切なのが、「対立軸を意識する」ということです。

対立軸の特定とは、単に問題となる権利を特定することではなく、具体的にどう争うかを特定することです。「論点」というより「争点」の方が意味的に近いと思います。

たとえば、ある権利を侵害する法律があるとすれば、その法律自体の違憲性を争うのか、法律自体は合憲だが解釈適用上違憲だと争うのか、その両方を争うのか。そもそも、その法律は権利を侵害しているのか、単なる制度設計の問題であって権利侵害は存在しないのか。制度設計の問題だとすれば、立法裁量の範囲内なのか範囲外なのか。

対立軸を意識しないと、論理が一貫しなくなるほか、論述にメリハリがなくなり、重視すべき事情が的確に拾えなくなるので、問題を読み終えたら、まずはどこに対立軸があるのかをしっかり検討する必要があります。

配点を明記したり、設問自体で法令違憲を前提にしたりと、出題形式を少しずつ変えているのは、いずれも対立軸の特定ができていない受験生へのメッセージなのではないかと思っています。

参考判例の想起

対立軸の特定と絡めて、参考判例を想起していくことも重要になります。

憲法の事例問題は、作問の背景に、参考としている判例が存在する場合が多いと言えます。それは取りも直さず、解答にあたって参考とすべき判例でもあります。

もちろん、判例をそのまま引用してどうにかなる問題はほとんどないわけですが、対立軸や、違憲審査の構造など、参考判例を意識するだけで一気に分かりやすくなります。答案を読む人間にもそれは伝わるので、適切な判例を想起できれば、確実に印象が良くなると考えられます。

毎日の勉強方法

対立軸の特定と参考判例の想起は、毎日の練習が不可欠です。

憲法の問題を読んで5分で対立軸と参考判例を考えてみる、という練習を、毎日1回行うことをおすすめします。もちろん、判例百選を潰していくのは前提となります。

憲法は、最初の構成が命です。一度方針を決めたら、書き直しはできません。だからこそ、最初に的確に方針を決定することは、非常に大切なことなのです。

*1:平成30年の問題は、これまでの出題形式と表現が変わっていますが、基本構造は何も変わっていません。

富田林署脱走事件の影響

接見が若干面倒になってます。おそらく、全国的に上からのお達しがあったのでしょう。対応の変化に時間差があったので、最初は各警察署単位で検討していたのかもしれません。

帰るときにはブザー的な物を鳴らさないといけなくなったし、留置管理課を通らずに帰れてしまうドアは使用不可になりました。まぁ、元々いつも携帯預けているので、必ず接見終了を告げてから帰っていましたし、こっちの手間なんてほとんど変わらないんですが。

正直言って、接見室のアクリル板を壊して逃走するなんて、今回の事件が起きるまで誰一人として予想してなかったんじゃないでしょうか。少なくとも、私はあれを壊せるなんて全く思っていませんでした。

今回の事件の原因は、そもそもアクリル板を人力で壊せるような状態にしていたことだと思います。警察には、ドア開閉で音を鳴らすとかではなくて、アクリル板の状態をきちんと点検するようにしてほしいです。

刑法事例演習教材04「黄色点滅信号」

受験生時代に作成した、刑法事例演習教材(初版)設問の回答例。

1 甲は、自己の運転中の事故によりBを死亡させているから、自動車運転過失致死罪(刑法(以下同法名省略)211条2項)の罪責を負わないか。以下検討する。
2 構成要件該当性
(1) 甲は、自己の運転する自動車を徐行させずに本件交差点に進入し、Aの自動車と衝突させており、Bはその衝撃で車外に放り出され、これにより脳挫傷等で死亡しているから、「自動車の運転」により「人を死傷させた」と言える。
(2) また、Bの死亡結果は、徐行せずに本件交差点に進入した甲の行為の危険が現実化したものであって、因果関係が認められ、甲の行為は自動車運転致死罪の構成要件を満たす。
3 過失
(1) 過失の意義
ア  しかし、甲は「必要な注意を怠」ったと言えるのか、過失の有無が問題となる。
イ  そもそも、過失は故意と並ぶ責任要素であり、その本質は、精神を緊張させていれば結果を認識・予見しえたにもかかわらず、これを怠ったことに対する責任非難である。従って、過失とは、予見可能性を前提とした予見義務であると解される。
ウ  そして、責任主義の観点から、予見可能性は抽象的なものでは足りず、特定の構成要件結果に対する具体的な予見可能性を要する。
エ  また、結果の予見可能性があっても、それを回避することが不可能であれば非難しえないから、結果回避可能性が無い場合には、責任要素たる過失が否定されると解する。
(2) 予見可能性の有無
ア  甲は、見通しの悪い本件交差点に徐行せず侵入しているから、道路交通法42条の徐行義務を怠っているが、行政法規への違反が直接に構成要件結果につながるわけではないから、これから直ちに衝突の予見可能性を認めることはできない。
イ  もっとも、黄色の点滅信号は、衝突事故が生じやすく徐行が必要な場所に設置されるものであって、甲の進入時に左右から車両が進入してくるということについては予見できたと言える。
ウ  更に、本件交差点は、時速20キロメートルで進入した場合でも、停止に必要な6.42メートル手前の地点で、衝突地点から28.50メートルの地点にいるはずの車を視認できないほど見通しが悪かった。甲は実際には時速30ないし40キロメートルで走行していたから、その停止可能距離はより長く、視認可能範囲はより狭くなっていたと解される。しかも、本件交差点では優先道路の指定がなかったから、左右からの車が、甲と同程度の速度で走行することは全く不自然ではない。以上の状況に鑑みれば、減速せずに本件交差点に進入すれば、左右からの車を視認可能となった時点で衝突を避けがたくなるであろうことは、経験則上明らかである。
エ  一方、衝突車の運転者Aは、時速70キロメートルの高速度で徐行も一時停止もせずに交差点に進入しており、かかる通常想定しがたい行為は、結果の予見を困難にする要素と言える。しかし、進入車両の速度や一時停止・徐行の有無は、左右からの進入車両がありうること自体とは関係がなく、単に当該車両を認識可能となった時点から衝突までの制動に必要な時間が短くなるにすぎない。そして本件では、上記のようにAが甲と同程度の速度で進入してきた場合ですら衝突の危険は大きかったのであるから、Aの上記違法行為があったとしても、甲に予見可能性があったことを認定しうる。
オ  以上を考慮すると、本件衝突事故に対する甲の予見可能性は肯定され、その場合には、横からの衝突の危険性から同乗者Bが死傷することについても、予見可能性を肯定できる。
(3) 結果回避可能性の有無
ア  本件では、時速10キロメートルないし15キロメートルに減速し、通常人に可能な限度で結果回避措置をとったとしても、なお衝突を回避できたとは断定できない。
イ  過失は罪となるべき事実であるから、過失の前提である結果回避可能性については、合理的な疑いを容れない程度の立証が無ければ結果回避可能性があったと認定することはできない。
ウ  本件では、上記のように結果回避可能性の存在に合理的な疑いがあるから、過失を認めることはできない。
4  以上より、甲は無罪となり罪責を負わない。

以上


刑法事例演習教材 刑法事例演習教材 第2版