日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

司法試験の勉強:国際私法の基礎1/3(総論・一般法理)

基本用語

準拠法
ある法律関係において適用すべきとされる法域の法
法域
ある私法体系が通用している一定の地域
抵触法(国際私法)
準拠法を指定するための法
実質法
ある法域において具体的な法律関係に適用されている法
単位法律関係
国際私法上1つの単位として取り扱われる法律関係
連結点
国籍など、準拠法を指定するために用いられる要素

法律関係の性質決定

定義

具体的に問題とされている法律関係がどの単位法律関係の性質を有するのか
=抵触規則の単位法律概念(指定概念)が何を指すのか

法性決定の方法

法廷地法説
  • 法廷地の実質法によって決定
  • 批判
    • 実質法(実際に適用して紛争を解決する法)と抵触法(どの実質法を適用するかを定める法=国際私法)では目的・機能が異なり用語も別異に解釈すべき
    • 国内法に存在しない法制度の性質決定ができない
準拠法説
  • 国際私法により準拠法として指定された実質法によって決定
  • 批判
    • 循環論になってしまう(準拠法を決めるための法性決定で準拠法に依拠)
国際私法自体説
  • 国際私法自体の解釈によって決定

解釈基準

比較法説
  • 実質法を比べ共通概念を抽出
  • 批判
    • 比較法学の能力的に無理がある
    • 実質法に依拠する点で実質法からの解放という観点が不徹底
抵触規則目的説
  • 規定の趣旨・目的を基準とする
一般的な法解釈方法による
  • 国内法として解釈(文理解釈→目的・趣旨→比較法)

適応問題

定義

ある法律関係を単位法律関係に分けて準拠法を決定した時に、各準拠法間で生じる内容的矛盾

  • 重複:例)夫の親の居所指定権
  • 欠缺:例)死亡した夫の遺産→夫婦財産とする準拠法と相続とする準拠法の間で穴ができる
  • 質的矛盾:例)信託法と信託権のない準拠法

解決方法

  • 放置
  • 一方の排除:例)婚姻後は婚姻の効力優先
  • 一方の拡張:例)相続として考え、夫婦財産として定められていても適用
  • 第三の法秩序による置換

先決問題

定義

ある単位法律関係の問題(本問題)に論理的に先立って解決すべき単位法律関係の問題

解決方法

  1. 本問題の準拠法説:本問題の準拠実質法で先決問題の権利関係を確定する
    • 渉外的法律関係である以上、実質法では解決できない
  2. 準拠法説:準拠法所属国の国際私法によって先決問題の準拠法を決定する
    • 同じ先決問題に対して、本問題次第で準拠法が異なってしまう
  3. 法廷地説:法廷地の国際私法によって先決問題の準拠法を決定する

連結点

連結政策

単純連結
一つの連結点で一つの準拠法を指定(例:36条)
累積的連結
複数の連結点が定められ、指定準拠法を重畳的に適用(例:22条1項2項)
段階的連結
連結点の第1がなければ第2,第3...と段階的に指定(例:25条)
選択的連結
複数の連結点から一定の法律関係が成立しやすいように選択的に指定(例:28条1項)
配分的連結
当事者ごとに連結点を定め各自に準拠法を指定(例:24条1項)

変更主義と不変更主義

いつの時点の連結点を用いるか
帰化・移住により準拠法を選択させることを防ぐ

法律回避

連結点を意図的に変更して有利な準拠法の適用に持ち込む

  • 無効説(旧法例、仏)
    • 故意の潜脱は許されない
    • 最密接関連地法によるという目的が達成できない
  • 有効説(通説、独、英米
    • 内国法拡張の抑制
    • 連結点の客観的確定
    • 通則法:旧法例から削除されている

本国法

本国=国籍国
→各国の国籍法に従って定まる
→必然的に重国籍・無国籍が生じうる

重国籍(38条1項)
  1. 日本国籍があれば日本法(但書)←内国国籍優先主義
  2. 国籍国の中で常居所を有する国の法
  3. それ以外なら国籍国の中での最密接関係国の法

(本国法主義の趣旨から、国籍を有しない国からは選べない)

無国籍(38条2項)

25条、26条1項、27条、32条には適用しない(∵段階的連結の趣旨)

  1. 常居所地法
  2. 常居所が不明・不存在なら居所地法(39条)
共通本国法との違い

共通本国法:国籍国のいずれかが一致しているか判断
同一本国法:38条で一つに絞り込んだ上で同一かどうか判断

難民

本国との関係が事実上切断され、又は切断したい場合が多い
→難民条約では「住所」を使用
日本では「常居所」とし、反致を否定する説も有力

常居所

ハーグ国際私法会議で創出された人工的概念
国際的な概念の差異が生じない事実概念の導入が目的

  • 単一性
    • 複数の常居所はありえないという前提
    • 不明の場合:居所地で補充(39条)
  • 住所との関係
    • 領土法説→重住所・無住所の発生を予定
    • 裁判管轄の基準として訴訟便宜も判断要素に含む

不統一法国

地域的不統一法国

  • 連結点が場所的に一点を示す→その地の法(直接指定主義)
  • 連結点が国籍→通則法38条3項
通則法38条3項
  1. 「その国の規則に従い指定される法」:間接指定主義
  2. 「当事者に最も密接な関係がある地域の法」:直接指定主義
通説

間接指定主義
「規則」=その国の準国際私法

批判
  • 自国が本国法とされた場合を想定していない
  • 外国を指定した場合の処理(←「規則」がない場合とする)

→「規則」=「外国の国際私法で本国法として指定されたときの地域指定ルール」
→実際上ありえず、38条3項前段は空文

判例

百選7:アメリカは「内国規則なし」

人的不統一法国

通説

地域的不統一法国と同じ処理→通則法40条1項
場所的に一点を示す場合でも決まらない→通則法40条2項

批判
  • 人的不統一はただの国内人際法→本国法指定で終了していい
  • 「規則がない場合」=外国法不明の場合と解する

反致

通説上は理論的・政策的根拠がないとして否認されている。
最密接関係地法の決定・適用という理念に反する誤った国際主義とされる。

定義

準拠法の消極的抵触を解決するという建前

狭義の反致

通則法41条
自国の国際私法によって指定された準拠法所属国の国際私法が、自国法を準拠法としているときには、それに従って自国法を準拠法とする

転致

準拠法国の国際私法が第3国を指定(A→B→C)
「日本法によるべきとき」にあたらず許されない(手形・小切手法は認める)

間接反致

第3国を挟んで自国が指定される(A→B→C→A)
「その国の法に従えば」にあたらず許されない

二重反致

準拠法所属国の国際私法も反致を認めている場合には、その国の法を準拠法とする
反致の過度の拡大になるから許されない

隠れた反致

裁判管轄権の指定ルールしかなく、これが適用法指定も兼ねているときは、裁判管轄権の指定により反致を認める

理論的根拠

総括指定説
連結点による指定は国際私法の指定も含む
→常に再指定、無限に循環
棄権説
自国法を適用しないという国家意思の尊重
→国際的私法秩序の安定という国際私法の目的と無関係

実際的根拠

内国法適用拡大説
自国法の適用拡大を積極評価
→内外法平等の建前に反する
国際的判決調和説
一方の指定に従えば国際的判決調和が得られる
→両方反致を認めたら入れ替わるだけで判決調和は得られない
判決承認の拡大説
自国の判決が外国で承認されるようになる
→判決の承認は準拠法所属国でだけ問題になるわけではない
→外国判決の承認にいかなる法が準拠法となったかは一般的に要件とされていない

規定と判例

「本国法によるべき場合」

25,26,27,32条を除く(∵段階的連結は本国法VS住所地法の枠に入らない)

「その国の法」

「その国の法」=その国の国際私法
「日本法」=日本の実質法

二重反致の根拠

外国裁判所追従説:指定された外国法は、その国の裁判所がするように適用されるべき
→総括指定説と同様
「その国の法」に反致規定も含むので「日本法によるべきとき」にあたらない
→二重反致規定があると無限循環となるし、転致も認めなければならなくなる

公序

定義

通則法42条
準拠法の適用結果が自国法上の根本原則・基本的理念に反する場合に、その外国法の適用を否定する(一般留保条項)。
→準拠法の適用排除・内外法平等に対する例外

消極的公序

単に外国法の適用を排除する

積極的公序

内国強行法を適用する

公序の内容

自国の法秩序を維持する目的
民法90条とは異なる抵触法上の公序

適用要件

  1. 反公序性
    具体的な適用結果(≠準拠法の内容)が自国の基本的法秩序を現実に侵害する
  2. 内国関連性
    当該事案が自国と密接な関連性を有する
  3. 基準時
    現在の法秩序を害する

準拠法排斥後の処理

適用否定→法の欠缺

内国法適用説(法廷地法説)
内国法への補充的送致があると解する(旧通説・判例
欠缺否認説
外国法の適用を排除した内国公序が存在する=規範の欠缺は生じない
→批判:排除後の解決方法が1つに限られない場合もある
補助連結説
改めて準拠法選択規則を適用し次順位の法を適用する
条理説
外国実質法欠缺の場合に準じて条理で処理する