日々起案

地方で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

成年後見人の報酬

弁護士の成年後見人報酬が少し話題になりました。 残念なことに弁護士による横領事件が発生していることもあり、「弁護士は成年後見業務で不当に儲けている」という考えの人も一定数いるようです。

そこで、私の乏しい経験から雑感をまとめました。


弁護士が選任される3つのケース

成年後見制度は、判断能力が十分でない方の権利を守るための制度です。家庭裁判所が後見人を選任する際、親族ではなくあえて専門職を選ぶのには、それ相応の理由があります。

大きく分けて以下の3つです。

1. 高度な法律事務が予定されている場合

高度な法律事務というのは、判断能力がしっかりしていたとしても弁護士に依頼を検討するような場合です。

最も多いのは相続の問題と思われます。遺産分割協議を行わなければならないが、本人の判断能力が低下しているために手続きが進まないという場面です。

この場合、単なる財産管理だけでなく、他の相続人との交渉や遺産分割協議書の作成・検討が必要になるため、法律の専門家である弁護士が選任される可能性が高くなります。不動産があれば登記も必要になります。

ほかにも、交通事故に遭った、お金を搾取されたといった事情があり、法的対応が必要なケースもあります。私自身の経験では、本人の破産の申立てを行うために後見人に選任されたケースもあります。

2. 親族後見の候補者がいない場合

このケースは、更に2通りに分かれます。

(1) そもそも身近な親族等がいない場合

私の体感としては、このケースが半分以上です。

認知症など、後天的に判断能力が低下したところ、子供が遠方にいるとか、そもそも独り身であるなどの事情で、最初から後見人になれる人物がいないというケースです。

また、先天的に障害があり、かなり昔から施設や病院で生活しているという方もいます。そういった方の場合は、両親や兄弟の死亡・高齢化により対応が困難となり、専門職後見人を希望して後見の申立てがなされます。

(2) 親族に任せることが妥当でない場合

身近に親族はいるものの、残念ながらその親族の財産管理が不適切な場合にも、専門職が選任されます。

たとえば、本人の年金や預貯金を、その親族の生活費に充ててしまうといったケースです。 「家族なんだから融通し合うのが普通」「面倒を見ているのだから生活費は負担してもらいたい」という意識があり、当の親族に悪気がないことも多いのが難しいところです。 こうした親族からは、「弁護士が一方的に財産を取り上げた」などと敵対視されることもあります。

また、親族同士で「誰が財産を管理するか」について争っている場合も、関係各所が対応に窮してしまうため、中立の第三者として専門職の選任が求められます。

3. 本人の資産が高額である場合

一般的に、本人の流動資産(主に預貯金)が1,000万円以上になってくると、専門職後見人が選ばれやすくなります。

万が一、不適切な管理が行われた場合に本人が被る損害が大きいため、一定の社会的信用と実務能力を兼ね備えた専門職に委ねるという趣旨です。

「弁護士なら絶対に安心か」と問われれば、残念ながら過去には不祥事の事例もあるので、絶対とは言えません。しかし、以下の点から制度的に一定水準の信頼性は担保されています。

業務性

弁護士は他人の財産を扱う業務に慣れているため、適切な資産管理についてノウハウがあります。通常は、資産の混同や流用を構造的に防止できるよう業務体系を構築しています。

また、大きめの事務所であれば、事務員や他の弁護士の目があるため、抑制効果が高くなります。

規範意識の裏付け

弁護士には、定期的な倫理研修が義務付けられ、万が一の場合には懲戒を受けて資格を失うリスクもあります。

もちろん、それで十分だとは決して言えません。しかし、実態を正確に把握することが実質的に不可能である以上、千差万別な親族よりも、組織的・制度的な裏付けのある弁護士を優先することは、合理的と言えるでしょう。

賠償の担保

裁判所から後見業務を打診される弁護士は、通常は賠償責任保険に加入しており、不測の事態においても一定の補償がなされる仕組みになっています。


報酬の目安

専門職に依頼する以上、当然ながら報酬が発生します。これは、家庭裁判所が決定し、原則として本人の財産の中から支払われます。

現状を維持するための定型的・標準的な業務のみであれば、付与される報酬は1年で22万円程度が一般的と思われます。就任して最初の1年間は、財産の調査や整理、さらには選任の目的となった複雑な法律事務が含まれるため、33~44万円程度になることもあります。

また、訴訟や相続手続きによって本人の財産を増加させた場合には、その内容に応じた報酬が付加されます。後見報酬が約800万円だったというニュースがあったようですが、たとえば訴訟で1億円近く回収したとすれば、特におかしくない金額と言えます1

一方、本人に資産がない場合は、無報酬ということもあります。私の場合だと、10件に1件くらいの割合でしょうか(統計学的には意味のない数字ですが)。

近年では、こうした経済的に困窮している方のために、市区町村による助成金制度も整えられてきたので、完全無報酬というケースは減ってきました。しかし、あくまで市区町村レベルの対応であり、居住地によって後見制度を使えるか使えないかが変わってきます。こうした地域格差が生じていることも、大きな課題と言えるでしょう。


弁護士から見た後見業務

正直に言って、後見業務は弁護士にとって「儲かる仕事」ではありません。

本人が施設や病院に入所しており、定期的な面談と収支の管理だけで済むケースであれば、事務員とうまく分業することで採算を合わせることは可能です。しかし、もし「毎月一回は本人に会いに行ってほしい」といった要望に応えるとすれば、人件費や移動時間で赤字になると言えるでしょう。

選任直後の初動や、本人が亡くなった後の事務、そして他人の財産を管理するリスクを考えると、積極的に受任したいと考える弁護士は多くないと思います。少なくとも私は、いわゆるプロボノ活動に近い業務だと考えています。

また、本人が自宅で生活を続けているようなケースでは、赤字になる可能性がかなり高くなります。こうした方は、収入や資産がそれほど多くない(したがって無報酬や低報酬になりやすい)にもかかわらず、日常生活における細かな連絡や判断が多く必要となり、業務量が過大になりがちだからです。

通常の弁護士業務として同じ内容の依頼があった場合、後見と同程度の報酬額を提示されたら、ほとんどの弁護士がお断りするのではないでしょうか。


親族後見ではダメなのか

私の経験上、「これは親族後見でも良いのではないか」と思えた案件は一件もありません。すべて上記1~3のケースのどれかに当てはまります。

上記1で相続等の処理が終わった後や、上記3で後見制度支援信託を使えそうな場合であれば、親族に交代することも考えられます。しかし、後見人をやりたがる親族は稀なので、最終的に上記2のケースに落ち着いてしまうのです。

親族後見で足り、弁護士に後見業務が回ってこない社会になることを、切に願います。


  1. 1億円の経済的利益に対する着手金+報酬金は、旧日弁連報酬基準ですら約1100万円になります。