日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

弁護士になるためのルート

流れ図

弁護士になるまでの過程を、ざっくり図にしてみました。なお、以下の図や説明は全て2017年現在の状況についての話です。

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受験資格を得るまで

弁護士(又は裁判官、検察官)になるには、司法試験に合格しなければなりませんが、その司法試験を受験するには、受験資格が必要です。

司法試験の受験資格を得るための方法は、原則として、(1)ロースクールを卒業するか、(2)予備試験に合格するかの2つです。

ロースクール

ロースクール(法科大学院)は、法学既習コースが2年、未修コースが3年です。法学部出身者は前者、それ以外は後者を選ぶのが普通ですが、別にどっちがどっちを受けても問題ありません。

予備試験

予備試験とは、ミニ司法試験とも言える試験です。これに合格すれば、ロースクールを出ていなくても、司法試験の受験資格が得られます。

当初は、旧司法試験受験者に対する救済制度のような位置付けでしたが、ロースクールが次々消えていく中、時間や学費を圧縮できる予備試験ルートの方が正解なのでは?と思う人が増えているようです。

司法試験

司法制度改革で大幅に合格者数と合格率が上がっており、平成28年(2016年)の合格率は、約23%です(昔は3%とかでした)。4~5人に1人は合格できると考えれば、難関とは言えそれほど極端ではありません。しかし、問題は合格率よりも、不合格の場合のリスクが大きいことです。

現在の司法試験は、受験資格取得後、5年以内(5回以内)に合格できなければ、受験資格を失います。以前は5年以内かつ3回以内だったので、これでも緩和されているのですが、5年を過ぎたらまたロースクール入学からやり直しというのは、かなりしんどいものがあります。「5回も受けて受からないなら諦めた方が良い」と言う人もいますが、働きながら受験している人達もいますし、そう簡単に割り切れるようなリスクとは考えられません。

予備試験ルートがあるので、制度全体で言えば致命的なリスクではないのですが、「ロースクールに通ったことが全て無駄になる」というプレッシャーはかなりのものです。

合格後

司法修習

司法試験に合格した後は、司法修習という実務研修を受けなければなりません。約1年間、埼玉県和光市にある司法研修所や、各地方で実務研修を受けます。

司法修習の制度は色々と変遷があるのですが、一番問題となっているのは、修習中の生活費問題です。修習中は原則として働くことを禁止されるため、そのままでは生活できません。そこで、国から生活費を支給されます(現在は月額13万5000円)。しかし、2011年~2016年の間に司法修習をした世代は、この給費制が廃止されていたため、総額約300万円を国から借金させられていました。この世代に対する救済措置は一切ないため、現状、この6年間に司法修習をした人達だけが、マイナス300万円からのスタートを余儀なくされています。

  • 1年間の研修を受けないと働けない
  • その間給料はなし、代わりに生活費として300万円を借金(一部世代のみ)
  • 勤務地は選べず、多くは地方で、引越費用は自腹
  • 研修終了時には試験がある
  • 試験に合格しても、就職できるかは分からない

民間企業でも公務員でもあり得ないようなブラック待遇です。

二回試験

二回試験とは、司法修習の最後に行われる、修了試験です。これに合格しなければ法曹資格は得られません。不合格の場合、1年待って試験を受け直さねばならず、3回落ちたらもう試験は受けられません。そうなると、事実上法曹資格を得る方法はなくなります*1

二回試験の合格率は95%程度なので、三振する人はほとんどいませんが、それでもゼロではありません。また、三振までしなくても、落ちれば就職先の内定がパァになるので、そのプレッシャーは相当なものです。丸一日かかる試験を5科目も受け、そのうち1つでも合格点に届かなければ不合格となってしまうので、ある意味、司法試験よりもずっと精神がすり減ります。

就活

法曹資格を得られても、仕事は自分で見つけなければなりません。司法試験合格者の大多数は弁護士になり、かつ、既存の弁護士事務所に雇用される形で就職します。したがって、そのための就職活動をしていかなければなりません。もしも二回試験までに内定をもらえなかったら、就職浪人になります。

ちなみに、検察官や裁判官になりたい場合は、司法修習中に教官から推薦をもらう必要があります。採用人数的に狭き門であり、修習中に優秀な成績を取りつつ教官にも熱意をアピールしていく必要があります。

まとめ

以上が、弁護士になるまでの過程です。

正直言って、途中で挫折した場合のリスクが相当高い職業だと思います。大学から司法修習終了まで最短で8年。その間の学費・生活費もかなりのものです。

それなりに魅力のある職業であるとは感じるので、ならない方がいいとは思いませんが、目指すのであれば色々な可能性を慎重に検討しておくべきでしょう。

*1:一定の条件で弁護士資格の認定を受ける制度もありますが、かなり大変なようです。

無理なら無理と言った方が満足度が高い

どう考えても無理筋だったり、勝てることは勝てるけど絶対に費用倒れになるであろう相談というのは、よくあります。

こういう相談が来た時は、はっきり「無理です」「やるだけ損です」と言ってしまわないといけません(もちろん言葉は選びますが)。半端に希望を持たせることは相談者の不利益になるので、誠実な対応とは言えません。

一定の希望を持って相談に来ているのに、あっさり全否定されたら怒ってしまうのでは……とも思えますが、逆に満足する方が多いです。「勉強になった」「相談してよかった」と言って、すっきりした顔で帰っていきます。

要するに、そういう無理筋なトラブルというのは、本人も薄々無理筋だと分かっているのでしょう。さりとて、何もしないのも腹立たしい、ということで、どちらでも良いから誰かにはっきり決めて欲しくて相談に来るのだと思います。そういう方には、半端な態度をとるより、はっきり否定してあげた方が満足度が高くなるのです。

強い期待を抱いてきた方でも、無理な理由をきちんと説明すれば納得しますし、納得しなければ別の弁護士に相談する契機になります。いずれにしろ、無理なら無理と言う方が相談者の利益になることは間違いないので、はっきり否定することをためらう必要はありません。

はっきり「やめておいた方がいい」と言っても感情論で法的措置を望む方の場合は、受任すると非常に大変な目に遭う可能性が高いので、要注意です。

良い弁護士の見分け方

どこの弁護士に頼めば良いのか?これは、かなりの難問です。

結論

結論から言ってしまうと、「自分と相性の良い弁護士が最良」です。事務所の規模とか、弁護士の年齢、性別、そういうのは直接には関係ありません。

弁護士に頼むというのは、契約をしたら後は解決の報告を受けるだけ、というわけにはいきません。事案にもよりますが、弁護士と依頼者が共同で問題を解決していくという側面が強いのです。そうなると、一緒にやっていける相手かどうか、つまり、相手を気に入るかどうか、というのが最も重要になってきます。

能力じゃないのか?

もちろん、依頼者の利益を最大化するためには、弁護士の能力も高いに越したことはありません。しかし、能力は目に見えませんし、実績なんてものは大げさに見せることもできます。逆に、ベテランの先生は、全く宣伝しない方も多いので、実績が目に見えることはほぼありません。

そもそも、弁護士によって得意な分野も違いますし、同じ事案でも、何を重視するのか(交渉か裁判か処理速度か)でも話は違ってきます。

単純な「優秀さ」を測るのは、ほとんど不可能と言っても過言ではありません。

相性を判断するには?

では、どうやって自分と弁護士との相性を判断するのか、というと、これはもう実際に話をしてみるしかありません。

見た目は?所作や話し方は?理屈や根拠をしっかり説明するのか?結論だけ簡単に説明するのか?事務員への態度は?事務員の様子は?笑顔なのか?真剣な顔なのか?メモは手書きか?パソコンか?悪い見通しをズバズバ言うのか?オブラートに包みまくるのか?etc...

何となくの直観で、良さそうだと思うか、気に入らないと思うか、それが一番重要なポイントです。まず1度法律相談をしなければいけないのが問題ですが、これ以外に判断する術はほぼありません。

法律家は「正しい日本語」を使う(べき)

日本語は、法律家にとって最も重要な商売道具です。

裁判官や検察官は、漢字の使い方や送り仮名の使い方についても、公用文作成要領に従うよう努めています。司法修習の際には、その厳密さに驚きました。弁護士はそこまで厳格ではありませんが、それでもかなり気を使います。

司法試験では、一義的・簡潔で正確な文章表現が強く求められています。修飾語のかかる位置が明確でなかったり、一文があまりに長かったりすると、それだけで評価は低くなります。日本語自体が、法律家同士が扱う共通規格であるということを考えると、当然のことです。更に言うと、文章表現が良くない答案は、内容も残念なことがほとんどです。

もしも今後司法試験を受験しようと考えている人がいたら、普段から簡潔明瞭な文章を書くように気を使ってみると良いと思います。

刑事弁護は私選と国選どっちがいいか?

当番弁護*1で接見に行くと、たまに聞かれます。

「金はあるから、私選であんたにお願いしても良いんだけど、国選とどっちがいいと思う?」

答えは人それぞれだと思いますが、私の場合は、大抵こう答えています。

「私選だから一生懸命やって、国選だから適当にやるということはないと思います。少なくとも私は、私選だろうが国選だろうが同じようにやりますよ。特に信頼している弁護士がいるんじゃなければ、金のかからない国選でいいんじゃないですかね。」

他の弁護士が本当に私選と国選とで区別していないかは知りませんが、私が区別しない(する気がない)というのは本心です。むしろ、私選と国選で態度が変わるのは依頼者の方で、私選だと「金払ってるんだから」と、注文や文句をたくさんつけてきます。

そんなわけで、タイトルの答えは、「どっちでも大して変わらないから、何十万円もかかる私選より国選の方がいい場合が多い」です。

金をかけても私選を利用した方がいいのは、特に頼みたい弁護士がいる場合と、被疑者国選非対象事件*2で被疑者段階から弁護が必要な場合くらいだと思います。

*1:逮捕された時、1回だけ無料で弁護士を派遣してもらえる制度。費用は弁護士会=会員である弁護士全体が負担する。

*2:起訴される前の段階で国選弁護人を頼めるのは、法定刑が一定以上の罪に限られる。

『若手弁護士のための初動対応の実務』

若手弁護士のための 初動対応の実務 Initial Response of Practice for Young Lawyer

若手弁護士のための 初動対応の実務 Initial Response of Practice for Young Lawyer

一般民事で案件の多い、交通事故、離婚、相続、債務整理、労働の各分野について、相談や受任後の初動対応を解説している一冊。

非常に平易で分かりやすいのですが、正直言うと、「とりあえずやってみたら分かること」、下手をすれば「言われなくても分かること」を、平易な言葉で文字にしただけという印象の本です。

若手というよりは、弁護士になって1か月も経たないド新人弁護士向けと言った方が正確だと思います。少なくとも、どう対応すればいいか迷った時に、この本を読めば解決する……という類のものでは全くありません。そういったものを期待している方は、買わない方が良いでしょう。

むしろ、司法修習生におすすめしたい本です。二回試験後、弁護士として働き始めるまでの間にサッと読んでしまって、心の準備をするというのに最適です。

大体いつもノーネクタイ

最近はクールビズが浸透し、夏は半袖ワイシャツ(もちろんノータイ)が普通になってきましたが、私は、ジャケットを着る季節でも、割とノーネクタイです。ネクタイは、寒い日のマフラー代わりみたいになっています。

客層や考え方の違いで様々だとは思いますが、今時は、ノーネクタイでも全く問題ないという風潮がある気がします。初めのうちは、私も「さすがに法廷ではネクタイを締めよう」と思っていましたが、もはやそんな考えもほとんど消えました。

常時ノーネクタイが普通に受け入れられているところも、私が「弁護士って楽で良いなぁ」と思う部分です。