日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

早さは正義

修習時代、民事弁護の教官から、「弁護士にとって早さは正義」と言われました。当時は、「仕事は早い方が良い」程度の意味に受け取っていたので、「何を当たり前のことを」と思いましたが、今になって、その言葉が身にしみています。

弁護士になって、抱える案件が多くなると、必然的に処理の優先度というものが発生します。優先順位を付けて順に処理する事自体は正しいのですが、そうすると、どうしても「後回しになり続ける案件」というものが出てきてしまいます。「時間が空いたら処理する」という程度の優先度だと、他の案件にちょっとした動きがあったり、急に国選事件が入ったりするだけで、予定より遅れてしまいます。

しかし、依頼者は「事態の進展」を求めて弁護士に依頼しているので、状況が進まないと、その原因が何であれ不満を感じます。逆に、進展が早いと、それ自体を「弁護士に依頼した効果」と受け取ってくれるので、満足度が高くなります。事態の進展を求める依頼者にとって、「仕事の早さ」は、ある意味結果よりも満足度を左右する要素なのです。極端なことを言うと、全く進捗がなくても、とりあえず報告書を送っておけば、進捗があった際にだけ報告書を送るより、満足度が高くなります。依頼者としては、具体的な進展がなくても「処理が進んでいる」「弁護士が働いている」と感じられるからです。ただ、そうした報告書はどうしても優先順位が低くなるので、忙しくなるとなかなか送れなくなります。

「仕事の早さ」は、依頼者の満足という主観面に強く訴えかけるものであり、それ自体に強い価値があることから、まさしく「正義」と言えるものです。正義のない力がただの暴力であるように、処理が遅ければ、その内容が適切でも良い評価は得られません。

冒頭の教官も、自戒を込めて修習生に話していたのだろうな、と今は思っています。