日々起案

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司法試験の勉強:行政法

行政法はとにかく法律解釈なのですが、判例によって確立されている規範は、そのまま表現しなければなりません。特に、処分性や原告適格判例は、一字一句そのまま暗記し、書き出すことが必須です。

その他、重要論点については、キーワードを問題に合わせて構築していくのが論証の基本になります。

以下、私の受験時代のまとめノートを記載します。本当にキーワードだけの羅列なので、見ただけではよく分からないと思いますが、試験前に短時間でポイントを思い出すにはこのくらいがちょうど良いと思います。

取消訴訟

訴訟要件

  1. 処分性(3条2項)
  2. 出訴期間(14条)
  3. 原告適格(9条1項)
  4. 被告適格(11条1項)
  5. 訴えの利益(9条1項)
  6. 不服申し立て前置
  7. 裁判管轄(12条)

法律上の争訟

  1. 行政権限間→内部の問題=争訟性なし
  2. 財産権の主体としてなら可
    1. 宝塚パチンコ条例事件(平成14年7月9日)
      公益目的≠個人の利益保護→争訟性否定
      ※批判あり:行政代執行できないものなら可とすべき
    2. 公害防止協定事件(平成21年7月10日)
      公益目的の契約履行で民訴認める

処分性

定義

「公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが、法律上認められているもの」

最判昭和39年10月29日(ごみ焼却場設置計画議決無効事件)
該当しない場合
  1. 行政指導
    1. 事実行為:処分性なし
    2. 病院開設中止勧告事件(最判平成17年7月15日)
      1. 後続の不利益処分が相当程度確実
      2. 事後救済に実効性なし
  2. 条例(法規命令)
    1. 一般規範:処分性なし
    2. 横浜市保育所廃止条例事件(最判平成21年11月26日)
      1. 「限られた特定の者らに対して、直接」法効果を生じる
      2. 取消によることの合理性=第三者効(絶対的効力説)
  3. 職務命令
    1. 内部の命令:処分性なし
    2. 懲戒処分予防のための義務不存在確認→無名抗告訴訟or差止
      ※事後救済の困難性必要
    3. 被処分による不利益の予防目的→当事者訴訟

出訴期間

違法性の承継
  1. 先行処分:出訴期間経過=違法主張不可
  2. 後行処分に違法性承継されないか
    1. 一体として一個の法効果を発生させる目的
    2. 先行行為について手続的保障が不十分

原告適格

「行訴法9条は、取消訴訟原告適格について規定するが、同条1項にいう当該処分の取消を求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうのであり、当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益もここにいう法律上保護された利益にあたり、当該処分によりこれを侵害又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有する」

最判平成17年12月7日(小田急事件)
三者原告適格
  1. 「法律上の利益を有する者」(9条1項)
    1. 小田急事件判決
    2. 9条2項
  2. 検討
    1. 原告の利益→具体的に特定
    2. 根拠法令の考慮利益該当性
      1. 文言
      2. 趣旨・目的
      3. 関連法規
    3. 個別的利益としての保護の有無
      1. 利益の内容・性質
      2. 侵害の程度・態様
        ※特定、重大、近接なら認めやすい
  3. 主張制限(10条1項)
    1. 相手方:専ら他の者の利益保護を目的とするもの以外
    2. 三者:保護規定についての主張のみ認める(9条2項と同じ)

訴えの利益(狭義)

  1. 訴えの利益(9条1項)=救済可能性
  2. 判断基準
    1. 処分の法効果が残存しているか
    2. 取消の法効果として回復する利益があるか(9条1項但書)
      例)給与債権

※事実上の原状回復可能性は事情判決の問題

不服申立て前置(審査請求前置)

  1. 出訴期間:60日以内→決済から6か月以内
  2. 順序
    1. 審査請求中心主義:原則(∵実効性)
    2. 異議申立前置主義
      1. 上級行政庁なし
      2. 個別に法定
    3. 自由選択主義:不作為(∵促進)
  3. 原処分主義:取消は原処分に対して行う(10条2項)
    ※裁決による変更=元々その内容の原処分があったとする(昭和62年4月21日)

仮の救済

執行停止(25条)
  1. 対象選択(聞かれなくても特定しておく)
    1. 処分の執行
    2. 手続の続行
      ↓(できなければ)
    3. 処分の効力
  2. 要件
    1. 「重大な損害」
      1. 回復困難→重大性あり
      2. 困難でない→損害の性質・程度、処分の内容・性質を考慮
    2. 「緊急の必要」
    3. 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」がない
    4. 「本案について理由がない」といえない
  3. 手続
    1. 取消訴訟併合提起
    2. 被告適格
    3. 管轄裁判所
義務付けの訴え(37条の2、37条の3)
  1. 非申請型(37条の2)
    1. 「重大な損害」:考慮要素は執行停止と同じ
    2. 「他に適当な方法がない」:特別の救済手段の規定がないこと
    3. 「法律上の利益」:9条2項と同じ
    4. 処分すべきことが明白orしないことが裁量濫用
  2. 申請型(37条の3)
    1. 取消訴訟併合提起
    2. 取消訴訟に理由あり:法令違反→裁量違反
    3. 処分すべきことが明白orしないことが裁量濫用
差止め(37条の4)
仮の義務付け・仮の差止め(37条の5)
「償うことのできない損害」
文言の厳格性及び事前の救済手段という性質から、事後的な救済による回復困難性をより厳格に判断する。
「金銭賠償によることが不可能であるか、又は社会通念上著しく不相当な損害」

法主

通常審査(判断代置)

  1. 権限の違法
    1. <根拠規定>によれば、<処分内容>をする権限はAにある。
    2. 本件処分はBが行っており、無権限者による処分として違法である。
  2. 形式の違法
    1. <根拠規定>によれば、<処分内容>は~によってしなければならない。
    2. 本件では、これをしておらず、処分はされていなかったことになる。
  3. 理由不備(手続の違法)
    1. 行手法8条1項の趣旨は、①「判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに」②申請者の「不服申立てに便宜を与える」点にある。
    2. よって、理由には<根拠規定>の適用の基礎となった事実関係を具体的に記載しなければならない。
    3. 上記趣旨に鑑みれば、事後的な追完は許されないが、差替えは許される。
  4. 法令解釈の違法
    1. <処分内容>は<根拠規定>について~との見解の下になされたものである。
    2. しかし、~であるから、<根拠規定>は~という趣旨と解すべきである。
    3. とすると、<処分内容>はかかる<根拠規定>の趣旨に反し、違法である。

裁量統制

裁量の存否
  1. <根拠規定>は、要件or効果について、
    1. ~条に~という基準を定めている。
    2. 具体的な基準は何ら定めていない。
  2. かかる判断については、
    1. ~であることを要し、これは経験則等に基づいて判断できる。
    2. ①、②、③などの諸要素を総合考慮した、専門技術的判断を要する。
  3. よって、
    1. その判断が行政庁の裁量に属するものとは解されない。
    2. 法は行政庁に一定の裁量を認めたものと解する。
  4. そこで、
    1. ~であるか否かを判断する。→通常審査へ
    2. かかる裁量判断が、裁量権の逸脱・濫用として違法とならないか検討する。
裁量濫用論
  1. 上記のように行政庁の裁量が認められる判断については、…という場合に限り、裁量権を逸脱・濫用したものとして違法となると解する。
    1. (重要な)事実の基礎を欠く
    2. 社会観念上著しく妥当を欠く
    3. 事実に対する評価が明らかに合理性を欠く
    4. 考慮すべき事情を考慮せず、考慮すべきでない事情を考慮している
  2. 本件では、…ため、裁量権の逸脱・濫用が認められる。
    1. ~という判断過程における考慮不尽の瑕疵がある
    2. ~という目的・事情に比して処分が重きに失する

損失補償・国家賠償

国家賠償法1条

  1. 「公権力の行使」
    国賠法2条と私経済作用を除くすべての活動(広義説)
    →問題となる行為の特定・あてはめ
  2. 「公務員」
    1. 公権力の行使者(≠公務員法上の公務員)
    2. 該当性
      1. 本来行政の事務
      2. 権限の委譲による行為
  3. 賠償請求の相手方
    1. 国家賠償:行政のみ(∵代位責任)
    2. 債務不履行安全配慮義務):施設設置者たる行政

権力の不行使の違法

  1. 行使すべき権限の特定
    1. 法規→裁量の有無
    2. 行政指導・公表
  2. 法令解釈
    1. 保護法益
    2. 適時適切行使義務←裁量を与えた趣旨
  3. 具体的事実
    1. 権限行使要件の充足(認識)
    2. 行使義務(要件充足+重大性)
    3. 因果関係・有責性
論証例

  1. ~条の~する権限は、~であるから、裁量に委ねられる。よって、権限の不行使が即違法とはいえない。
  2. しかし、「権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく不合理と認められるときは、国家賠償法1条の違法にあたる」と解すべきである。
  3. 権限不行使の合理性判断においては、①被侵害法益の性質・程度、②予見可能性、③結果回避可能性、④当該権限の行使による解決の適切性を総合考慮する。
  4. ~という保護法益に鑑みると、法は当該権限について適時適切に行使することを要求する趣旨と解される。そして、①<法益>は重大である。また、②~という事情が認識されていたから<予見可能性>があったといえる。③~の時点で~していれば損害を軽減できたから<結果回避可能性>も認められ、④~であるから<処分>以外に確実な防止策はなく、権限行使が適切であったといえる。
  5. 以上より、Yの権限不行使は国家賠償法1条の違法にあたる。

※他の要件(「公務員」「職務」「故意・過失」「損害」「因果関係」)も検討!

国家賠償法2条

  1. 「営造物」
    「国又は公共団体により直接に公の目的に供されている有体物」
  2. 設置管理の瑕疵
    1. 瑕疵=「通常有すべき安全性を欠いていること
    2. 判断方法
      「当該営造物の構造・用法・場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して個別具体的に判断すべき」
      1. 物理的欠陥
      2. 危険の蓋然性・重大性
      3. 回避措置の必要性・有効性・普及度・費用
    3. 供用関連瑕疵
      「内在的瑕疵がない場合でも、一定の限度をこえる利用によって第三者に危害を生じる場合には、瑕疵があると解すべき」
      1. 社会的受忍限度
      2. 被害の範囲・程度
      3. 公益の要請
      4. 経緯・防止措置の状況
      5. 彼此相補の関係

損失補償

  1. 憲法29条3項
    1. 直接可
    2. 各法律
      1. 手続あり:形式的当事者訴訟
      2. 手続なし:実質的当事者訴訟
  2. 補償要件=29条3項の解釈
    1. 形式的基準:特定の者に対し
    2. 実質的基準:財産権の本質を害するような侵害
  3. 内容
    1. 完全補償vs相当補償→説明の違いでしかない(いずれにしろ原則は完全)
    2. 合理的理由があれば市価自体でなくてもいい
    3. 精神的価値、生活再建費用、文化的価値は含めない

住民訴訟

  1. 監査請求前置
    1. 対象となる財務会計行為の特定
    2. 期間:1年+合理的理由
    3. 責任者:専決では専決権者が一次責任→専決権者
  2. 訴訟(地方自治法242条の2)
    1. 1号:差止
    2. 2号:処分の取消
    3. 3号:怠る事実の違法確認請求
    4. 4号:賠償請求命令
      1. 長を被告とし、責任者個人への賠償を求める
      2. 一次責任者・監督責任者の両方
  3. 先行の非財務会計行為に違法がある場合
    1. 原則:従う義務→財務会計行為は適法
    2. 例外:財務会計法規上の義務違反になる場合は違法
      1. 先行の違法行為が直接の原因・目的となっている
      2. 「著しく合理性を欠き適正な予算執行の観点から看過しがたい瑕疵がある」
  4. 過失:会計職員等は軽過失免責
  5. 債権放棄の決議
    1. 原則:裁量行為
    2. 住民訴訟の趣旨に鑑み不合理で裁量濫用にあたるか

択一用の暗記シート

処分性

処分内容 処分性の有無 判断理由
土地区画整理事業計画決定 換地処分を受ける地位≠一般的・抽象的
用途地域の指定 × 一般的・抽象的→建築確認で争うべき
2項道路指定 土地に対する具体的な私権制限
水道料金を定める条例 × 一般的・抽象的・不特定多数人
開発許可要件としての同意 × 不同意≠開発の禁止・制限効果
労災就学援護費不支給決定 支給請求権の存否確定
海難原因解明裁決 × 原因解明≠過失確定効
輸入禁制品該当通知 最終的な拒否判断の表明=実質的拒否処分の機能
病院開設中止勧告 事後の不利益処分が相当程度確実+救済の実効性
登録免許税還付通知拒絶通知 簡易手続を利用しうる地位の否定
反則金の通告 × 通告≠納付義務

原告適格

処分内容 原告適格の有無 保護法益
定期航空運送事業免許 ○近隣住民 騒音
原子炉設置許可 ○周辺住民(29~58km) 事故災害
特急料金認可 ×個別利用者 個別利用権:保護せず
史跡指定解除 ×研究者 文化財享有権:公益に解消
風俗営業許可 ×該当地域住民 風俗環境保全:公益に解消
林地開発許可 ○近隣住民
×地権者・営農者
災害
財産権:保護せず
総合設計許可 ○近隣住民 倒壊・炎上
都市計画事業認可 ○近隣住民 騒音・振動
場外車券場設置許可 ×近隣住民
○医院開設者(○200m ×800m)
生活環境:保護せず
健全な環境での医療業務

訴えの利益

処分内容 問題となった事情 利益の有無 判断理由
更正処分 再更正処分 × 更正処分は取り消されている
放送免許拒否 他者への免許 競願関係→必然的に全体でやり直し
運転免許停止 期間経過 × 法的効果消滅
保安林指定解除 防災用代替施設設置 × 危険消滅=救済すべき不利益なし
建築確認 工事完了 × 確認=工事の適法化≠事後処分の前提
土地改良事業認可 換地完了 原状回復の可否は裁量棄却(31条)の問題
再入国不許可 出国 × 再許可の基礎となる現在留資格消滅
換地処分無効確認 給付訴訟可 照応原則→土地取戻は求めていない
原子炉設置許可無効確認 民事差止可 紛争の抜本的解決→直截かつ適切