日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

被告人質問の事前練習

TOKIO山口達也氏が、女子高生に対する強制わいせつで送検され、話題になっています。

26日の謝罪会見を見て(聞いて)、色々な人が色々なことを感じたと思いますが、私が感じたのは、「自分が依頼を受ける被告人と比べたら、大分マシだなぁ」でした。

刑事裁判では、弁護人と検察官から被告人に質問し、答えてもらう被告人質問という手続があります。自白事件における弁護人からの質問では、事実を認めた上で、反省の程度を示すための質問をしていくことになります。

公判期日の前には、この被告人質問の練習をしておきます。裁判でいきなりあれこれ聞いても、まともに答えられないからです。そして、ほとんどの場合、最初の練習では全く反省の色がうかがえない答えが返ってきます。一例としては、以下のようなやり取りが挙げられます。

弁護人「あなたが、こんなことをしてしまった原因は何だと思いますか」
被告人「お金が欲しくて…」
弁護人「お金は誰でも欲しいけど、大多数の人は、お金が欲しいからって盗みはしないですよね」
被告人「……まぁ、そうですかね」
弁護人「なら、どうしてあなたは盗んでしまったんでしょうか」
被告人「……?」

このやり取りでは、最初の問答の時点で、被告人が表面的にしか反省していないことが分かります。ここで欲しいのは、自分の内面的な問題点(軽く考えていた、短絡的だった、我慢が足りなかった、被害者の気持ちを考えていなかった、自分勝手だった等々)を挙げる回答です。

内面の問題を答えさせたいならそういう風に質問しろよ、と言われそうですが、私の場合、敢えてこのやり取りをすることで、「自分がいかに表面的な反省しかできていないか」ということを被告人に自覚してもらうことを意図しています。実際、しっかりと反省している被告人からは、最初の質問の時点で内面に踏み込んだ回答を得られますし、そこまで行かなくても、反省する意識が強ければ、最後の質問で内面の問題に踏み込んできます。

これ以外にも、「ああ、こいつは自分のしたことについて深く考えてないな」と思わざるを得ない問答が色々あります。事前練習でそれらを洗い出し、質問を工夫し、本番では反省を示せるようにするのが、自白事件における一つの定型作業です。

被告人に「反省を促す」ことが弁護人の本来的役割かどうかは分かりませんが、少なくとも、それが弁護人の業務遂行に不可欠な作業であることは間違いないと思います。