日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

「何が悪いのか」を理解させる難しさ

自白事件では、まず被告人から反省を引き出す必要があります。そして、テンプレ的には、反省するためには、自分のしたことの何が悪いのかを理解していなければなりません。「何について謝っているの?」ってことです。

しかし、これが意外と難しい。

たとえば、窃盗や傷害などの分かりやすい「被害」がある犯罪は、その被害者に迷惑をかけた、と言えるので簡単です。ところが、同じ個人を被害者とする犯罪でも、住居侵入のように具体的な金額や傷で被害が可視化されない犯罪だと、うまく答えられなくなってきます。

更に、薬物使用や飲酒運転のように直接の被害者がいない犯罪だと、「法律で禁止されているから」以上の答えが返ってこない人が多くなります。「なぜ法律で禁止されていると思うか?」と問い直しても、ピンときてもらえません。

よくある事件の中で最も難しいのは、不法残留外国人の在留カード偽造事件です。ただでさえ、外国人在留制度の在り方だの信用性といった分かりにくいものへの罪だというのに、通訳を介するので、掘り下げて考えてもらうことすらなかなか難しくなります。なので、そういう事件では敢えて深く聞かず、「悪かったと思う」くらいのところで止めてしまいます。それ以上聞こうとすると泥沼にはまるだけなので。

罪名ごとの保護法益というものを勉強している法曹関係者と違い、一般の人は「それをやることの何が悪いのか」をよく理解していないことが多いようです。そして、それを理解してもらうことは、意外なほどに難しいのです。