司法試験の勉強:刑事訴訟法
司法試験における刑事訴訟法は、「判例の規範→問題文の事実→当てはめ」の流れが全てと言っても過言ではありません。文中のどんな事実をどう評価すべきか、という点についても、元ネタの判例で拾われた事実さえ覚えていれば、簡単に判断できます。
そのため、刑事訴訟法の勉強においては、主要判例を覚えること、特に規範部分は一言一句暗記してしまうということが非常に重要です。下手に理屈から考えるのではなく、とにかく暗記してしまうべきです(まぁ、どうしても覚えられなければ、大抵は「必要性・緊急性・相当性」でゴリ押しも可能ですが)。
そこで、以下に覚えておくべき判例規範をまとめてみました。判例から引用すればそのまま規範になるものはそのまま引用し、そうでないものや整理が必要な部分などは、適当な箇条書きになっています。
捜査
任意捜査と有形力行使
「(強制処分とは)個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為(をいう)」
最決昭和51年3月16日
「(任意捜査であっても、有形力行使は)①必要性、②緊急性などをも考慮した上、③具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される」
最判昭和53年6月20日
所持品検査
「所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果を上げるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、警職法2条1項による職務質問に付随してこれを行うことができる場合がある」
「(所持人の承諾がなくとも)捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合がある」
「(もっとも、人権保障の観点から)①所持品検査の必要性、緊急性、②これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、③具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容される」
最判昭和53年6月20日
自動車検問
「警察法2条1項が「交通の取締」を警察の責務として定めていることに照らすと、交通の安全及び交通秩序の維持などに必要な警察の諸活動は、強制力を伴わない任意手段による限り、一般的に許容されるべきものである」
「(また、自動車の運転者は)自動車を利用することを許されていることに伴う当然の負担として、合理的に必要な限度で行われる交通の取締に協力すべきものである」
「(したがって)①交通違反の多発する地域等の適当な場所において、<中略>②短時分の停止を求めて<中略>質問などをすることは、それが③相手方の任意の協力を求める形で行われ、自動車の利用者の自由を不当に制約することにならない方法、態様で行われる限り、適法である」
最判昭和55年9月22日
任意同行と実質的逮捕の区別
任意同行が身柄拘束に至れば、無令状逮捕であって違法である。そして、身柄拘束に至っているか否かは、
「その①場所、②方法、③態様、④時刻、⑤同行後の状況等からして、逮捕と同一視できる程度の強制力を加えられていた」かで判断する。
東京高判昭和54年8月14日
実質的逮捕の場合の勾留の違法性
- 緊急逮捕の理由と必要性があり、
- 無令状逮捕の状態が短時間であり、
- 実質逮捕から計算しても制限時間内であれば、
「実質的逮捕の違法性の程度はその後になされた勾留を違法ならしめるほど重大なものではない」
東京高判昭和54年8月14日
任意取調べの限界
「(任意であっても)①事案の性質、②被疑者に対する容疑の程度、③被疑者の態度等諸般の事情を勘案して、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において、許容される」
最決昭和59年2月29日(高輪グリーンマンション事件)
写真撮影・ビデオ撮影
- 強制処分の意義→公の場での写真撮影は任意処分
- 人権保障の観点から必要最小限度でのみ許される
- 現行犯性or相当の嫌疑
- 証拠保全の必要性(+緊急性)
- 社会通念上相当な方法
「①現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも②証拠保全の必要性及び緊急性があり、かつ③その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき」
最判昭和44年12月24日(京都府学連事件)
「捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法」(である。)
最決平成20年4月15日
おとり捜査の意義
「捜査機関又はその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に秘して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕等により検挙するもの(をいう)」
最決平成16年7月12日
おとり捜査の適法性
「少なくとも、①直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、②通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、③機会があれば犯罪を行う意思があると疑われるものを対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される」
最決平成16年7月12日
- 被疑者は自由な意思で行動=197条1項の任意捜査
- ただし、必要かつ相当な範囲
- 必要性:重大性、証拠収集困難(一般+個別)
- 相当性:犯意誘発型か機会提供型(二分説は相当性判断に取り込む)
通常逮捕の要件
- 理由:「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」(199条1項)
- 必要性:「明らかに逮捕の必要がない」場合以外(199条2項但書)
現行犯逮捕の要件
「被疑者が現に特定の犯罪を行い又は現にそれを行い終わったものであることが、逮捕の現場における客観的外部的状況等から、逮捕者自身においても直接明白に覚知しうる場合であることが必要と解される」
京都地決昭和44年11月5日
- 犯罪の明白性
- 犯人の明白性
勾留の要件
207条1項→60条1項準用
違法逮捕後の勾留請求
「(逮捕については不服申立手続がなく、)刑事訴訟法は、逮捕前置主義を採用し、裁判官が勾留請求についての裁判において違法逮捕に対する司法的抑制を行っていくべきことを期待している」
京都地決昭和44年11月5日
- 違法逮捕に続く場合は、勾留請求却下
- ただし、軽微な違法で勾留を却下するのは妥当でない→令状主義に鑑みて判断
付加勾留
事件単位の原則からは、付加事実に付き逮捕前置がないので否定すべきとも思われるが、被疑者の身柄拘束期間の短縮につながるので、例外的に肯定すべきである。
一罪一逮捕一勾留の原則の「一罪」の範囲
実体法上の一罪に対しては国家の刑罰権も一個しか発生しない以上、訴訟法上も一個として扱い、訴訟の前提たる捜査段階においても同時処理の義務が課される。
もっとも、同時処理義務は同時処理可能性を前提とするから、同時処理が不可能な場合には例外的とする
再逮捕再勾留の可否
「刑訴法が203条以下において、逮捕勾留の期間について厳重な制約を設けた趣旨を無視することになり被疑者の人権保障の見地から(再逮捕再勾留は原則として)許されない」
「しかしながら同法199条3項は再度の逮捕が許される場合のあることを前提にしていることが明らかであり、現行法上再度の勾留を禁止した規定はなく、また、逮捕と勾留は相互に密接不可分の関係にあることに鑑みると、法は例外的に同一被疑事実につき再度の勾留をすることも許しているものと解する」
「いかなる場合に再勾留が許されるかについては、①先行の勾留期間の長短、②その期間中の捜査経過、③身柄釈放後の事情変更の内容、④事案の軽重、⑤検察官の意図その他の諸般の事情を考慮し、社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯しがたく、また、身柄拘束の不当な蒸し返しでないと認められる場合に限るとすべきである」
東京地決昭和47年4月4日
- 203条以下の時間制限→原則不可
- 199条3項は再逮捕許容+再勾留禁止の明文無し→一定の場合に許される
- 新事情による再逮捕再勾留の必要性があり(必要性)
- 事案の重大性からやむをえず(補充性)
- 不当な蒸し返しとならない(相当性)
別件逮捕勾留の意義
「(別件逮捕とは、)専ら適法に身柄を拘束するに足りるだけの証拠資料を収集しえていない重大な本来の事件(本件)について被疑者を取調べ、被疑者自身から本件の証拠資料(自白)を得る目的で、たまたま証拠資料を収集しえた軽い別件に藉口して被疑者を逮捕勾留し、結果的には別件を利用して本件で逮捕勾留して取調べを行ったのと同様の実を挙げようとするがごとき捜査方法(をいう)」
金沢地判昭和44年6月3日
違法な別件逮捕勾留の判断
- 原則違法
- 自白獲得の手段とする点が刑訴法の精神に悖る
- 厳格な時間制限を潜脱する
- 実質的な無令状逮捕であり令状主義を潜脱する
- 令状主義潜脱の有無を客観的に判断
- 別件の罪の軽重
- 取調べの態様
- 捜査状況
逮捕に伴う捜索差押え
220条1項2号が無令状での捜索差押えを認めているのは、被逮捕者による抵抗や罪証隠滅を防止するため、緊急に証拠保全をする必要性があるからである(緊急処分説)。
よって、「逮捕の現場」とは、被逮捕者の支配力の及ぶ範囲に限られる。
被疑者の取調受忍義務
198条1項但書の反対解釈から、身柄拘束中の被疑者には取調受忍義務があると解する。
取調受忍義務を肯定する以上、取調べは強制処分である。
被疑者の余罪取調べ
「(余罪取調べを禁止する規定はないものの、)法が、逮捕勾留に関し事件単位の原則を採用した趣旨からすれば、被疑者が取調受忍義務を負担するのは、あくまで当該逮捕勾留の基礎とされた事実についての場合に限られる」
「(余罪取調べは任意捜査であるから、)これが適法とされるのは、原則として(余罪)取調べを受けるか否かについての被疑者の自由が実質的に保障されている場合に限ると解するものである」
(別件と余罪が密接に関係し両者の取調べが実質的に重なる場合は除く)
「(積極的に希望し、又は拒否しないことが明白な場合を除いては、)取調べの主題である余罪の内容を明らかにしたうえで、その取調べに応ずる法律上の義務がなく、いつでも退去する自由がある旨を被疑者に告知しなければならない」
浦和地判平成2年10月12日
接見交通権
「『捜査のために必要がある時』とは、接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、」「現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定通り開始できなくなるおそれがある場合など」をいう
最判平成11年3月24日
「逮捕直後の初回の接見」は「被疑者の防御の準備のために特に重要である」から、「即時または近接した時点での接見を認めても接見の時間を指定すれば捜査に顕著な支障が生じるのを避ける事が可能かどうかを検討し、これが可能なときは……特段の事情のない限り、犯罪事実の要旨の告知等被疑者の引致後直ちに行うべきものとされている手続き及びそれに引き続く指紋採取、写真撮影等所要の手続きを終えた後において、たとい比較的短時間であっても、時間を指定した上で即時または近接した時点での接見を認めるようにすべきであ」る
最判平成12年6月13日
訴因
訴因の特定
「裁判所に対し審判の対象を限定するとともに、被告人に対し防御の範囲を示すことを目的とする」
最判昭和37年11月28日(白山丸事件)
- 訴因=検察官の設定する特定の犯罪構成要件事実
∴審判対象画定のために特定が必要- 構成要件事実の具体的記載
- 他の犯罪事実との識別
- 「できる限り」:識別可能なら事情次第で判断(特定の一要素)
訴因変更の要否
最決平成13年4月11日
- 当事者主義→審判対象は訴因に拘束される
- 審判対象画定の見地
拘束力が働くのは審判対象の画定に関する事実
=訴因の特定に不可欠な事実のみ - 防御権保障の見地
- 一般的に防御に重要な事項+訴因に明示→訴因変更必要
- 具体的審理経過に照らし不意打ちでなく、より不利でないなら不要
特殊な場合
- 縮小認定:事実に包含関係=識別可
- 予備的・黙示的訴追意思
- 防御活動あり
- 過失:「開かれた構成要件」
- 具体的態様の差異
- 不意打ち
訴因変更の可否
- 命題:公訴事実の同一性(312条1項)の範囲内か
- 訴因変更の趣旨・目的=同一事実に対する一回的な刑罰権行使
→新旧両訴因を比較し、基本的事実関係の同一性で判断- 主体・客体・日時・場所・結果
- 非両立性(事実上・法律上)
訴因変更の許否
「迅速かつ公正な裁判の要請という観点から、訴訟の経過に照らし検察官の訴因の変更請求が誠実な権利の行使とは認められず、権利の濫用にあたる場合には、刑事訴訟規則1条に基づき、訴因の変更は許されない」
大阪地判平成10年4月16日
- 訴因の設定は検察官の専権→原則許可
- 権利濫用にあたるか
- 訴因設定の時期
- 防御活動への影響
- 変更の機会の有無、変更までの時間
- 変更に至った事情
訴因変更命令義務
「起訴状に記載された訴因については無罪とするほかないが、これを変更すれば有罪であることが明らかであり、しかもその罪が相当重大であるときには、例外的に、検察官に対し、訴因変更手続きを促し、またはこれを命ずべき義務がある」
最決昭和43年11月26日
- 原則否定
- 検察官の専権
- 不公平
- 審理不尽にあたるか
- 証拠の明白性(無罪→有罪が明らか)
- 事案の重大性
証拠法則
- 証拠能力
- 関連性
- 自然的関連性
- 科学的証拠(DNA、犬)
- 法律的関連性
- 伝聞
- 自白
- 前科・類似事実
- 自然的関連性
- 証拠禁止
- 違法収集証拠排除
- 証拠の許容性
- 関連性
- 必要性
関連性
- 自然的関連性=要証事実を推認させる必然性
- 法律的関連性=自然的関連性はあるとしても、予断を与え証明力の評価を誤らせる危険が高くないか
前科・類似犯
「前科に係る犯罪事実や被告人の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることは、これらの犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、その特徴が証明対象の犯罪事実と相当程度類似していない限りは、被告人に対してこれらの犯罪事実と同種の犯罪を行う犯罪性向があるという実証的根拠に乏しい人格評価を加え、これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく、許されない」
最決平成25年2月20日
- 原則:人格の悪性を推論するものであり許されない
- 例外:手口等の顕著な特徴から犯人の同一性を推認するのであれば可
違法収集証拠
「①令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、②これを証拠とすることが将来の違法捜査抑制の見地から相当でないと認められる場合においては、その証拠能力は否定される」
最判昭和53年9月7日
- 後行手続・派生証拠の問題
- 違法性の承継:違法手続→適法手続→証拠
- 毒樹の果実論:違法手続→一次証拠→二次証拠
- 排除要件
※密接関連性とは無関係→総合的利益衡量の問題?
自白法則
自白法則
- 任意性が必要(319条1項)
- 証拠排除の判断基準
- 319条1項の趣旨
- 不任意=虚偽の可能性高く誤判のおそれ
- 真実でも黙秘権を中心とした人権侵害のおそれ
- 違法排除法則:自白にも適用(∵刑訴の一般原則)
- 319条1項の趣旨
補強法則
- 補強証拠が必要(319条2項)
- 適格性
319条2項の趣旨=自白偏重による誤判・自白強要の防止
→自白から独立したものに限る- 共犯者の自白:あくまで別人→補強証拠となる
- 被告人の日記:事件と無関係・業務的につけたものに限り可
- 範囲
客観的に存在しない架空の事実による処罰(誤判)の防止
→(犯人性を除く)客観的構成要件事実に必要(罪体説) - 共犯者の自白
伝聞法則
伝聞法則
- 伝聞証拠排除の趣旨
- 供述証拠には知覚・記憶・叙述の過程で過誤が含まれやすい
- ①直接主義の下で②反対尋問によって吟味する必要
- 非伝聞
- 非供述的用法(要証事実との関係で、供述内容の真実性が問題とならない)
- 発言=犯罪構成要件
- 不一致供述による弾劾
- 行為の言語的部分
- 内容と無関係な事実の推論
- その他の非伝聞
- 現在の精神状態の供述(知覚・記憶を欠く)
- とっさになされた自然的供述(記憶・叙述を欠く)
- 写真・ビデオ:機械的正確性からそもそも非供述証拠
- 非供述的用法(要証事実との関係で、供述内容の真実性が問題とならない)
- 伝聞例外:伝聞証拠だが証拠能力認める
- 信用性の情況的保障
- 証拠としての必要性
裁面調書(321条1項1号)
- 前段:供述不能
- 後段:相反供述
検面調書(321条1項2号)
3号書面(員面調書など)
- 供述不能
- 証拠としての不可欠性
- (絶対的)特信情況
検証調書(321条3項)=実況見分調書
- 要証事実
- 現場供述→伝聞
- 端緒・動機→非伝聞
- 現場供述の場合
- 321条3項+321条1項2号・3号
- 321条3項+322条1項→写真には署名/押印不要(それ自体に正確性あり)
鑑定調書(321条4項)=鑑定受託者の報告書
- 専門的知識
- 書面によることの合理性(その方が正確に伝えやすい)
被告人の供述書・供述録取書(322条1項)
- 署名押印+不利益事実+任意性
- 署名押印+特信情況
同意(326条)
- 意義=証拠能力の付与(証拠能力付与説)
- 反対尋問可
- 違法収集証拠にも適用
- 相当性要件:当事者に委ねるべきでない場合
- 放棄不能な重大な権利の侵害
- 任意性を欠く(誤判のおそれ大)…署名押印なし=任意性に疑い
- 証明力が明らかに小さい
「刑訴326条1項但書の『相当と認めるときに限り』というのは証拠とすることに同意のあつた書面又は供述が任意性を欠き又は証明力が著しく低い等の事由があれば証拠能力を取得しないとするもの」
最判昭和29年7月14日
証拠開示命令の対象(316条の26第1項)
- 趣旨:争点整理手続の効率化
- 対象:検察官が保管中の証拠に限らず、以下のものを含む
- 捜査の過程で作成され、
- 公務員が職務上現に保管し、
- 検察官において入手が容易なもの