日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

最強の敵は依頼者

刑事でも民事でも言えることですが、案件が難しい、厄介であるということは、実はそこまで辛くありません。面倒で大変だとしても、結局はやれるだけのことをやるしかないし、とりあえずやりがいはあります。

しかし、依頼者が厄介な人だと、これはもう本当に苦痛です。依頼者対応だけで精神がどんどん削られ、にも関わらず事案の解決には全く繋がりません。手間と面倒の大きさに対して、やりがいは反比例します。

依頼者は、時に最強の敵となります。この厄介な敵をうまく「いなす」ことのできる弁護士は、とても優れた弁護士だと思います。

接見禁止はぜひとも解除

被疑者・被告人に接見禁止が付いていることはよくあります。薬物事犯や、共犯事件なんかだとかなりの確率で付いています。

この接見禁止は、ぜひとも早期に解除しておくべきです。もちろん被疑者・被告人のためというのもありますが、何より弁護人にとって非常に厄介だからです。

勾留が長引くと、日常生活に必要な処理だとか、差入れだとか、とにかく色々と「外」と連絡を取る必要が出てきます。接見禁止が付いていると、いちいち弁護人に接見要望が入り、細々とした雑用・伝言に使われます。仮にそういった頼みには応じないという態度を取ったとしても、接見要望自体は、無視すると本当に重要な要望だった場合に困るとので、応じざるを得ません。そうなると、刑事弁護そのものとは全く関係のないところで時間と手間がかかるので、かなりの負担になります。

被告人本人がやたらと家族に連絡を取りたがり、他方で家族の方は本人を半ば見捨てているケースもありますが、そういった案件は接見禁止解除がしづらいので、本当に大変です…。

抵当権者不明土地(休眠担保権の抹消登記)

登記の放置により、所有者不明の土地が増えていることが問題とされているようです。これと少し似た問題として、親から相続した土地に抵当権が設定されており、あまりに古い抵当権のために抵当権者が誰だか分からないという問題があります*1

所有者不明土地は、現在のところ対応策がないようですが、抵当権者不明土地は、既に対応するための法律が用意されています。不動産登記法70条3項第2文です。

根拠条文

登記義務者の所在が知れない場合の登記の抹消)
第七十条  登記権利者は、登記義務者の所在が知れないため登記義務者と共同して権利に関する登記の抹消を申請することができないときは、非訟事件手続法 (平成二十三年法律第五十一号)第九十九条 に規定する公示催告の申立てをすることができる。

3 第一項に規定する場合において、登記権利者先取特権、質権又は抵当権の被担保債権が消滅したことを証する情報として政令で定めるものを提供したときは、第六十条の規定にかかわらず、当該登記権利者は、単独でそれらの権利に関する登記の抹消を申請することができる。同項に規定する場合において、被担保債権の弁済期から二十年を経過し、かつ、その期間を経過した後に当該被担保債権、その利息及び債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭が供託されたときも、同様とする。

不動産登記法

上記下線部を簡単に言うと、以下の3要件を満たしたら、抵当権抹消していいですよ、ということです。この制度がないと、公示送達で裁判をしないといけないので、非常に面倒です。

  1. 所在不明:抵当権者がどこにいるか分からない
  2. 期間経過:弁済期から20年以上経過している
  3. 弁済供託:遅延損害金含めて全額供託する

以下、3つの要件について個別に説明します。

要件1:所在不明

まずは、不動産の登記に記載されている住所を確認します。弁護士であれば、更に住民票や戸籍から住所を辿ります。しかし、休眠担保権が問題になるような事案だと、そういった資料が存在しないか、あっても住所を辿れない状態の場合がほとんどです。

そこで、次の作業に入ります。

登記記載の住所から場所が特定できる場合

登記記載の住所から特定の住居を特定できるのであれば、そこに人が住んでいるかどうかを確認します。誰か住んでいるのであれば当然住人と連絡して調査します。

誰も住んでいないのであれば、適当な書面を配達証明郵便で送り、返送物を疎明資料とします。市町村長又は民生委員による、住所地にいないことの証明書等が手に入れば確実です。

登記記載の住所から場所が特定できない場合

古い住所表記だと、現在のどの地点を示しているのか分からない場合が多々あります。この場合は、もはや辿りようがないので、適当な書面を配達証明郵便で送り、返送物を疎明資料とする以外にありません。

この場合は、手紙を送るだけで良いのでかなり楽です。

要件2:期間経過

弁済期から20年経過という要件自体は、一見して充足が明らかな場合しか休眠担保権の問題にならないのですが、それでも疎明資料は必要になりますし、遅延損害金の計算のためにも特定が必要です。

担保権設定が昭和39年以前

昭和39年以前は、弁済期も登記事項だったので、弁済期は登記に書いてあります。

登記に記載がない場合、それは弁済期の定めがない契約です。その場合は、更に「債権の成立日」の記載の有無を確認し、記載があればその日、記載がなければ担保権の設定日を弁済期とみなすとされています。

担保権設定が昭和39年以後

弁済期が登記事項でなくなった後に設定された抵当権については、判断のしようがないので(契約書があれば別ですが)、その旨報告書にして、合理的な時期を弁済期とみなすしかありません。

要件3:弁済供託

この制度は、現在まで全く返済していない計算で債務総額を算出し、弁済供託する形式になっています。なので、元本+弁済期までの利息+弁済期から供託時までの遅延損害金の全額を供託する必要があります。ちなみに、供託先は、抵当権者の最終住所地の管轄法務局です。

と言っても、明治から昭和初期の抵当権なので、被担保債権は数十円とか数百円です。仮に被担保債権が1000円だったとすると、利息は100年で5000円です。合計6000円の供託で足ります(実際の事案ではもっと少ない)。

また、共同抵当に入っている不動産がある場合、供託の際には申請書類に全ての不動産を記載しておく必要があります。これを忘れると、記載し忘れた不動産については、改めて供託し直さねばならず、二重払いとなってしまいます。

なお、供託時には、供託理由を記載するだけで、何の根拠資料も必要ありません。だからこそ逆に、理由欄は間違いや不足の無いようにしっかり書かないと、無駄足・無駄金になってしまいます。

まとめ

まとめると、以下のような手順になります。

  1. 不動産の登記から抵当権者を確認
  2. 住所を調べたり手紙を送って所在不明の疎明資料を収集
  3. 債務総額を計算して供託
  4. 以下の疎明資料を持って抹消登記手続
    • 不動産の登記簿
    • 所在不明の資料(返送郵便物+配達証明書など)
    • 弁済期の資料(不動産の閉鎖登記簿など)
    • 供託の資料(供託書正本)

この制度を利用した抵当権の抹消は、代理人として交渉する必要が無いため、司法書士の方が多くこなしているようです。

所有者不明土地についても、いずれはこういった立法上の解決がなされるのかもしれません。

*1:ほぼ間違いなく本人は死んでいるので、正確には相続人がどこの誰か分からないという問題です。

交通事故被害者がやってはいけない対応

交通事故に遭ったとき、対応を間違えると適切な損害賠償を受けられない可能性が高まります。

以下、被害者がやってしまいがちな間違いを挙げていきます。

警察に物損事故で届け出る

加害者側に頼み込まれ、人損なのに物損で届け出てしまうパターン。物損だと自賠責は使えないので、後遺障害の認定もしてもらえません。

後から人損に切り替えたり、人損事故証明書入手不能理由書というものを作成して対応することは可能ですが、面倒が増えるうえ、「事故直後は身体に異常を感じなかった」と推認され、大した怪我ではないという方向の根拠にされるおそれもあります。

ムチウチは後になってから痛みが出てくることもあるので、安易に物損で届けるのはやめましょう。

病院に行かない

仕事が忙しい、接骨院に通っているなどの理由で、病院に行く回数が少なかったり不定期となっているパターン。

法的な意味での「治療行為」は、医師にしかできません。病院に行かないのは、治療をしていないのと同じです。必要な治療を行っていると判断されるためには、2週に1回は整形外科医の診断を受けるべきです。ちなみに、本当は週2回の通院が理想なのですが、実際にそれだけの頻度で通院できる人はまずいません。

ちなみに、接骨院に行くのも問題ありませんが、できれば医師から接骨院に通うことの指示や了解があるとベターです。

診察時に遠慮する

大げさになることを嫌って、しっかりした検査をしなかったり、自覚症状について余計な限定を付けて説明してしまうパターン。

交通事故で、痛みやしびれが生じているなら、何はともあれMRI検査を受けておくことが望ましいと言えます。ムチウチで神経症状が残っている場合、MRIでないと客観的な原因が見えてきません。ムチウチについて、MRI画像よりも確かな根拠資料はないと言っても過言ではないでしょう。

また、医師には、痛いなら痛いと端的に伝えましょう。「動けないほどじゃないんだけど…」とか「かなり痛みは取れてきたんだけど…」とか「雨の日は特に…」といった表現をすると、医師の方で、「動ける」「痛みは取れた」「雨の日以外は痛くない」などと、異なるニュアンスでカルテに書き込んでしまうおそれがあります。

加害者側保険会社の提示額そのままで免責証書にサイン(示談)する

何もしなくて良いという楽さから、保険会社に任せてしまうパターン。

保険会社の初期提示額は、当然ながら裁判で認められる金額より低い金額です。自分の保健に弁護士費用保険特約(弁特)が付いているなら、最後の金額交渉だけでも弁護士にやらせた方が、確実に金額が上がります。

交通事故は主婦の方がお得

交通事故の損害賠償の内訳には、休業損害(略して「休損」)というものがあります。読んで字のごとく、事故のせいで仕事を休むことになった場合に、休んで減った分の収入のことです。

休損には、色々と難しい問題もあるのですが、日頃から奇妙に感じているのは、「下手に働いている人よりも主婦の方が休損の金額が大きくなる」ということです。

休損の算定は、ざっくり言うと「給与の日割額×休業日数」で出します。すると、仕事上の責任から怪我を押して無理に出勤した人は、その分休損が減ります。また、給与額は実額(事故前3か月の平均などから算出)で考えるので、給与額が低ければ休損の額も低くなります。

しかし、主たる家事従事者の場合、実際の現金収入の額にかかわらず女性全体の平均賃金が代用され、病院等への通院日は全日休業したと考えることができます*1平成28年の賃金センサスによると、女性全体の平均賃金は376万2300円なので、年収376万円以下や、それ以上であっても事故後休みを取らなかった場合などは、主婦休損で計算した方が得になります。

ちなみに、一人暮らしの人は主張できません。なぜなら、自分自身のために家事をするのは当然であり、他人に提供する「仕事」としての価値は生じないからです。

正直、一般家庭の家事が一律に女性の平均賃金と同価値であるという考え方には疑問符が付いてしまいます。もちろん、被害者とその弁護士にはありがたい話なのですが。

*1:実際には、徹底的に争うとなるとこの辺も争われますが。

修習生伝統の起案対策マニュアル

司法修習生の間では、過去問やその優秀答案、起案対策マニュアルなどが受け継がれてきています。毎年無秩序に累積しているので、数GBもの容量となっています。私も、そうしたデータは入手し、目を通しました。しかし、はっきり言ってこれらはあまり役に立ちません。

役に立たない理由としては、まず第一に、内容が古いということがあります。過去問のデータはともかく、マニュアル系のテキストは、あまり新しくありません。もちろん、現在でも通用する内容も多いのですが、検察起案などは検察講義案の大幅改訂などによりあまり通用しなくなっているようです。

そもそも、現在の白表紙は内容が非常に分かりやすくなっており、起案の「型」も講義ではっきり示してもらえるので、マニュアルの必要性からしてほぼありません。

また、過去問に関しても、前年度のものに目を通す程度のことはしたいところですが、それ以上は不要です。なぜなら、研修所の起案は、出題内容が変わることはあっても、基本的に毎回同じような形式でしか出題されないからです。

本来何時間もかけて起案する問題について、何題も目を通すことには、時間に見合った効果は期待できません。


起案で好成績を得るために必要なのは、マニュアルより何より、以下の3つです。

  1. 白表紙を読み込むこと(建前抜きで、必要なことは全部白表紙に書いてあります)
  2. 優秀答案を読んで「型」とメリハリの付け方を学ぶこと
  3. 資料の読み込み速度と起案の速度を上げ、書く量を確保すること

なお、たくさん書いても点数には比例しないとも言われますが、時間がなくて全然書けなくなるよりは、多少無駄が多くても書くべきことを書き切れた方が絶対に良いです。刑弁・刑裁あたりは、枚数制限があったりするので別の考慮が必要ですが、少なくとも民弁と検察については、枚数勝負なところがあるのは否定できません。

代々伝わる伝統の起案対策マニュアルは、あまり意味のない代物と言って過言ではないでしょう。

弁護士の手帳

1月始まりの手帳が店頭に並ぶ季節になりました。

弁護士は、相談にしろ裁判にしろ、外部の都合に合わせてスケジュールを決めることが多いので、予定把握のために手帳が必須となります。

弁護士専用手帳

弁護士用に作られている手帳としては、「訟廷日誌」と「弁護士日誌」があります。どちらも、裁判所の期日を書く欄が用意されており、弁護士業務用の便覧が付属している点が特徴です。

これらの手帳を愛用している弁護士はたくさんおられますが、私は、正直言って使いにくいと思っています。小さくて書き込みスペースが少ないし、時間を視覚的に把握できないので、私はあまり好きではありません。もはや「弁護士の仕事といえば訴訟」という時代ではないので、裁判期日の記入に特化していると、逆に弁護士の手帳としては不足が出てくるのだと思います。実際、ある程度の年代から下では、上の2つの手帳を使っている弁護士はあまり見ないように思います。一般向けの手帳は色々と工夫があり、弁護士業務に使うのにも普通に便利です。

電子アプリ

手帳ではなく、タブレットなどで一元管理している弁護士もしばしば見かけます。私も、プライベートの予定は全てGoogleカレンダーで管理しているので、予定管理の方法としては十分ありだと思います。

ただ、私自身は、紙の手帳を全く使わないで仕事をするのは難しいと感じています。なぜなら、予定の書き込みも一覧・検索も、紙の方が圧倒的に早いからです。何か特定の用件を探し当てるのはパソコンやタブレットの方が早いのでしょうが、数か月単位で通覧し、予定の「空き」を確認したりするのは、どうしても紙の方が早くなります。

この辺の事情は、機械的な性能というより媒体の特性の問題なので、紙の手帳が主流であることは当分変わらないのではないかと思います。

自分の手帳の選び方

ちなみに、私の場合は、以下のような条件で検討します。

バーチカル形式(見開き1週間)

時間管理が視覚的にできるので、バーチカル形式がベストです。

その週の予定をひと目で確認しつつ、書き込みスペースが大きくなるように、見開きで1週間になるレイアウトが一番バランスが良いと感じます。

平日重視タイプ

土日は裁判期日が入らず、事務所にもよりますが相談予定も入らないので、土日のスペースはそんなに要りません。なので、平日のスケジュール欄を広く取れる平日重視タイプの方が無駄がありません。

サイズはA6~B5

使いやすさとしては、B6かA5あたりがちょうど良い気がします。A6は若干小さく、B5は若干大きいと感じましたが、いずれも許容範囲です。

仕事柄、手帳を出す時は机がある場面がほとんどなので、サイズが大きいのはさほど問題になりません。しかし、サイズが大きいと、土日が平日と同じスペースになり、メモ用の余白も大きく取られるので、逆に平日のスケジュール欄が狭くなっていたりします。そのため、結局はB6からA5くらいが一番無駄のないサイズ感になってくるのです。

余白少なめ

多少のメモ用余白は必要ですが、アイデアやToDoを大量に書き込むわけではないので、本当に少しのスペースで十分です。メモ部分が多いと、それだけ予定を書き込むためのスペースが減るので、余白は少なめの方が良いのです。

時間軸は単位時間あたりのスペース広め

相談時間は30分単位なので、とりあえず30分単位での管理が可能な程度のスペースが必要です。

逆に、1日の開始時間と終了時間は、8時から20時などで良く、24時間全部の予定は必要ありません。その時間帯は仕事していないか、少なくとも他人と会う業務予定は入れないので。

1月始まり

司法修習が12月に終了するため、多くの人は12月か1月に弁護士登録し、働き始めるのもその時期になります。私も1月から仕事を開始したので、1月始まりが時期に合っていました。

また、4月始まりだと少し不便だと思います。4月前後は、裁判所に異動があるため、次回期日が遠くなります。4月始まりの手帳だと、予定確認のために2冊持ち歩く必要が出てくる可能性があります。

大抵の手帳は、実際には開始月の前月から始まっているので、1月始まりなら12月に買い換えれば間に合います。

2018年の手帳候補

上記の条件から、今のところ2018年の候補は、高橋書店の「フェルテ6」と日本能率協会の「ネクサスA5バーチカル」です。