日々起案

田舎で働く弁護士が、考えたことや気になったことを書いています。

性犯罪の暴行脅迫要件の話

論点は2つ

暴行脅迫の要件を問題視する場合、以下の2つの論点があります。

  1. 暴行脅迫を要件とすること自体の問題
  2. 暴行脅迫の程度の問題

分かりにくいかもしれませんが、これらは全く異なる問題であり、どちらの話をしているのか明確にしないと、およそ議論になりません。Twitterでは、140文字という制限でぶつ切りにされてしまうため、しばしば論点が交錯しているように思われます。

暴行脅迫要件の存在自体について

なぜこんな要件があるのか?

強制性交等罪を含む性犯罪の保護法益(刑罰によって保護しようとしている利益)は、「人の性的自由」と考えられています。つまり、「意思に反する性的行為を罰する」という趣旨で刑罰が定められています。

しかし、それならば、同意のない場合は全て処罰の対象となるはずであり、「暴行又は脅迫を用いて」という手段の限定は不要ではないか、という疑問が生じます。

その答えは、端的に言うと、「同意の有無は第三者には判断しにくいから」ということになります。処罰対象を明確にするためには、客観的な事情を要件とすべきであるという考え方です。13歳未満の者への性的行為は暴行脅迫を用いなくても犯罪となりますが、これも、本人の意思に反するかどうかではなく、年齢という客観的事情で処罰範囲を明確化している例です。

日本の刑法を含むドイツ語法圏では、このような考え方が一般的である一方、英米法では、意思に反する性的行為をそれ自体処罰の対象とする立場もあります。

処罰を妨げているか?

暴行脅迫要件があると、「意思に反した性的行為なのに処罰されない」ということが起こり得るのではないか、というのが、よく見られる議論です。

この点については、以下のような評価がなされており、実際非常に緩く解されているので、一般的な類型においては、この要件によって処罰が妨げられるおそれは少ないと思われます。

「暴行・脅迫それ自体の手段としての限定性は大きく失われており、被害者が抵抗することが著しく困難な状況にあるか否か、あるいは、被害者が性的行為に応じざるを得ない状況にあるか否かが実質的な判断枠組みになっている。」(法学教室427号38頁)

ただし、暴行脅迫があるとは到底言えない場合でも、特殊な環境や関係性から自己決定権を奪われる場合もあります。これを手当てするために監護者性交等罪が新設されましたが、それ以外に処罰すべき場合がないかどうかは、常に検討が必要でしょう。

暴行脅迫要件を廃止してはいけないのか?

暴行脅迫要件の廃止については両論あり、制度的にはいずれもあり得ます。しかし、日本で暴行脅迫要件を廃止しようと思えば問題も生じるため、拙速に廃止すべきではありません。

問題1:要件の明確性

第1に、処罰範囲の明確性が問題となります。不同意認定の判断基準を暴行脅迫に限る必然性はないと思いますが、「諸事情から判断する」というだけでは、条文上は「性的行為は処罰する」となっているのと同じになってしまいます。

たとえば、「疲れていてセックスしたくないのに妻から求められてやむを得ず応じた」という場合に、妻に強制性交等罪が成立するのかしないのか。成立しないとしたら何故か。その区別基準を明確にしないと、夫婦は毎夜セックス同意書を相互に作成・保管し合うことになります。

既に不同意のみを要件としている国・地域でも、証拠と推定の規定など、訴訟法的な要素も含めてかなり詳細な規定を置いていたり(イギリス法)、「被害者の態度を表す文言は用いられず、徹底して行為の客観的要素に注目した類型化が行われ」ている(ミシガン州法)ようです*1。日本でも、何らかの形での要件の明確化を行う必要があるでしょう。

なお、明確な客観基準を廃止すれば、不同意の判断は難しくなります。となれば、裁判では、より微妙な事実認定となるので、おそらく無罪率は高くなるでしょう。無罪率が高まること自体は何ら悪いことではありませんが、暴行脅迫要件廃止論者の一部にとっては、不愉快な結果かもしれません。

問題2:人質司法

第2に、逮捕勾留が簡単に行われてしまう実務を変える必要があります。現状日本は、「人質司法」と揶揄されるほど簡単に(不必要に)身柄拘束されてしまっています。当人からすれば、その社会的ダメージは甚大です。この状況を変えずに安易に暴行脅迫要件を廃止すれば、魔女狩りの世界になってしまうおそれがあります。

暴行脅迫の程度について

なぜ「反抗を著しく困難にする程度」が必要なのか?

性犯罪における暴行脅迫は、「相手の反抗を著しく困難にする程度」の強度が必要と解釈されています。元々、性犯罪の暴行脅迫の程度については、以下のように見解が分かれていました*2

  1. 強盗罪と同様に「反抗を抑圧する(抵抗不能にする)程度」を必要とする説
  2. 現在の解釈と同じく「反抗を著しく困難にする程度」で良いとする説
  3. 強要罪と同程度で足りるとする説

昭和24年5月10日の最高裁判決は、1説を前提とした弁護人の主張に対して、2説を採用することを明らかにしました。厳しい要件を課したというよりは、より緩やかに解釈して良いと示したことになります。

では、そもそも何故こうした「程度論」が出てくるのかと言えば、「不同意であることを客観的に判断するため」と考えられます。

人の内心が目に見えない以上、同意があるかどうかは、客観的事情から判断せざるを得ません。その「事情」が暴行脅迫要件であることは既に述べました。しかし、人によって意思決定の強さは様々なので、「普通の人は意思決定の自由が奪われる」と言えるような「程度」の暴行脅迫に限る必要があるのです。

実際の判断方法

この「程度論」は、実際の判断では以下のように解されています。

「その暴行または脅迫の行為は、単にそれのみを取り上げて観察すれば右の程度には達しないと認められるような者であっても、その相手方の年齢、性別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲の環境その他具体的事情の如何とあいまって相手方の抗拒を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるものであれば足りる」(最判昭和33年6月6日・刑集23巻8号1068頁)

こうした解釈から、「手をつなぐ」「覆いかぶさる」という、性行為に通常伴うような行為についても、強姦罪(当時)の暴行を肯定したものもあるようです*3

そうなってくると、要は「相手方が抵抗困難だったか」の総合判断でしかなく、暴行脅迫自体の程度や、被害者の実際の抵抗の有無等は、判断要素の一つに過ぎないということになります。

立場や状況的に、「抵抗したら何をされるか分からない」と考えることが合理的だと認定できれば、全く無抵抗でも暴行脅迫要件は充足できるので、監護者の影響力などの非典型事例を除けば、さほど処罰の妨げにはならないのではないかと思われます。

「著しく」は必要か?

強盗罪と恐喝罪の違いは、暴行脅迫の程度の差と解されています。性犯罪についても、同様に「著しくではないが抵抗困難」な場合を処罰すべきとの考え方は、個人的には十分あり得ると考えます。

ただ、法定刑が「5年以上の懲役」という重罪である強制性交等罪について、単純に程度論の緩和をすることは、罪刑均衡を害し妥当ではありません。立法論としては、強盗罪に対する恐喝罪のような別罪を用意するか、強制性交等罪の法定刑の下限を引き下げることになるでしょう。

暴行脅迫要件の存否との関係

既に述べたように、反抗が著しく困難だったかどうかは、同意の有無を客観的に判断するための要素です。したがって、仮に暴行脅迫要件自体がなくなったとしても、同意の有無を実質的に判断しようと思えば、反抗困難性は判断要素としては残ると思われます。

既に述べたとおり程度の問題はありますが、「拒否できるけどしない」ことが同意を推認させることは、否定しようのない経験則だろうと思います。

まとめ

暴行脅迫要件を廃止することも、暴行脅迫の程度を緩和することも、立法論としては十分検討の余地があります。

しかし、そのためには慎重な調査・検討が不可欠です。現在、解釈で相当柔軟に対処しているので、それを敢えて変える必要まであるかは疑問です。

現行法で処罰から漏れてしまうケースについては、監護者性交等罪のように、それだけを個別に問題とすればよいのではないかと思います。

*1:論究ジュリスト23号 120頁

*2:法学教室427号36頁

*3:法学教室427号37頁

司法試験の勉強:国際私法の基礎3/3(財産法)

自然人

人の行為能力

  • 4条1項:本国法主義(∵人の身分・能力は属人法)
    • 2項:取引保護規定=当事者が全員同じ法域にいればその地の法
    • 3項:取引保護規定の除外事項
      • 家族法:そもそも4条の対象とならない
      • 別地の不動産:不動産所在地は重要→注意義務

失踪・後見

  • 連結点でなく管轄権としての規定
    • 住所or国籍が日本にあれば日本法で審判・宣告
  • 効力:世界中に及ぶとして扱う
  • 6条2項:適用範囲拡大→問題になる法律関係についてのみ効力
    • 不在者の財産が日本にある
    • 不在者に関する法律関係が日本法によるべきとき
    • その他日本に関係のある法律関係
  • 35条:本国法主
    • 2項2号:5条と整合→日本法

法人・代理

法人

  • 一般的権利能力:法人設立準拠法
  • 個別的権利能力:個別準拠法
    • 一般的権利能力として設立準拠法上の権利能力も必要
  • 行為能力:機関の権限等は設立準拠法
    • 4条2項類推適用(取引安全)
  • 不法行為能力
    • 旧多数説:設立準拠法
    • 現多数説:不法行為の準拠法
  • 法人格否認:個別的な問題→一律に扱うべきではないので、区分する
    • 設立準拠法によるもの
    • 個別問題の準拠法によるもの(類型化説)

代理

法定代理
  • 法定代理権の発生原因となる法律関係の準拠法
  • 相手方保護:同上
任意代理(無権代理表見代理にも準用)
  • 本人・代理人
    • 授権行為の準拠法
    • 当事者が明示で指定していればその準拠法(櫻田)
  • 代理人・相手方
    • 代理行為の準拠法
  • 本人・相手方
    • 旧通説:授権行為準拠法説 ←相手方が知りえない
    • 授権行為準拠法+4条2項類推適用(百選23)
    • 代理行為地法説(櫻田・道垣内)
    • 代理行為準拠法説
    • 代理人の営業所所在地法説(ハーグ条約の原則)

契約

契約準拠法の指定及び分割指定

7条:当事者自治
  • 根拠=契約の多様性(客観的連結点での最密接関係地探究は困難)
  • 黙示の意思:仮定的意思でなく当事者の現実の意思のみ探究
  • 当事者自治の修正
    • 質的制限論:任意法規についてのみ自治を認める
      • 任意・強行は実質法の問題であり論理矛盾
    • 量的制限論:選択できる準拠法の範囲を制限する
      • 内容の明確性・中立性を確保しうる無関係国法を選べなくなり不都合
      • 通則法26条2項(夫婦財産制)は採用
    • 強行法規の特別連結理論:公法的色彩の強い絶対的強行法規には自治なし
  • 準拠法選択行為自体の有効性
    • 国際私法自体から判断→具体的基準なし
    • 選択した準拠法による→順序逆転、強迫等につき無意味となるおそれ
    • 選択準拠法によりつつ、一定の場合は通則法8条による(道垣内)
  • 実質法的指定:実質法を契約内容に取り込む
    • 準拠法指定との区別は契約上の意思解釈
8条:当事者の意思不明の場合
  • 1項:最密接関係地法
  • 2項:特徴的給付の理論=特徴的給付を行う側の常居所地・営業所所在地を最密接関係地と推定する
  • 3項:不動産については不動産所在地と推定
9条:事後的な準拠法変更
準拠法の分割指定
  • 肯定説(多数説):当事者自治の貫徹、予見可能性確保
  • 否定説(百選30):複雑化、実質法的指定との区別困難

客観的連結

特徴的給付の理論

契約関係の重心が職業的行為を引き受ける者の側にある
→その者の事業所所在地を最密接関係地とする

  • 特徴的給付
    • 片務契約:唯一の義務を負う者の給付
    • 双務契約:金銭給付の反対給付
  • 特徴的給付が不明の場合
    • 8条2項は推定規定→無理に認定する必要なし

労働契約・消費者契約

消費者契約

定義(11条1項)
  • 一方当事者が個人(自然人)
  • その個人は事業として又は事業のために契約の当事者となる場合でない
  • 相手方が事業者
  • 上記当事者間で締結される契約
  • 労働契約でない
準拠法(成立・効力)
  • 1項:選択法あり→消費者の常居所地法の強行規定を援用可(累積適用)
  • 2項:選択法なし→消費者の常居所地法
  • 6項:適用除外
    • 能動的消費者(ただし勧誘されて赴いた場合除く)
    • 事業者の事業所で債務全部履行(ただし勧誘されて赴いた場合除く)
    • 事業者が消費者の常居所を知らず、知らないことに相当の理由あり
    • 事業者が相手方を消費者でないと誤認し、そのことに相当の理由あり

労働契約

準拠法(12条)
  • 1項:選択法あり→最密接関係地法の強行規定を援用可(累積適用)
  • 2項:労務提供地(なければ雇用事業所地)を最密接関係地と推定
  • 3項:選択法なし→2項と同じ推定

法律行為の方式

  • 連結政策:選択的連結
    • 10条1項:成立及び効力の準拠法による
    • 10条2項:行為地法に適合する方式有効
      ∵「場所は行為を支配する」
  • 10条3項:意思表示→通知の発信地を行為地とする
  • 10条4項:申込と承諾
    • 申込発信地or承諾発信地
    • 申込と承諾はセットで一方の地の法に適合する必要
  • 10条5項:物権→適用除外(∵目的物所在地法の密接関連性)

法定債権

事務管理、不当利得、不法行為

  • 17条:結果発生地→通常予見不能な場合には加害行為地
    • 直接的な結果に限定
    • 抽象的に同種の結果・同種の行為者を基準とした予見可能性
  • 20条:明らかにより密接な関係がある地
    • 例1:不法行為当時に当事者の常居所地が同一
    • 例2:当事者間の契約に基づく義務違反による不法行為
  • 21条:当事者による準拠法変更
  • 22条:日本法の累積的適用
    • 1項:日本法上不法でないと請求不可
    • 2項:日本法上認められる賠償に限定

生産物責任、名誉・信用毀損

  • 18条:生産物責任
    • 被害者が生産物の引渡しを受けた地の法
    • ただしその地での引渡しが通常予見できない場合は生産業者の主たる事業所所在地法
  • 19条:名誉・信用毀損
    • 被害者の常居所地法
  • いずれも20~22条の適用あり

債権譲渡

債権譲渡:明文なし

  • 譲渡対象債権の準拠法(通説・判例):準物権行為として原因行為と区別
    • 三当事者間で統一的に判断可能
    • 債務者保護に資する
    • 比較法的に一般的ではない
    • 準拠法が統一的でない
  • 債権譲渡契約の準拠法:準物権行為としないor債権流通の円滑化
    • 多数債権・将来債権について解決が容易
    • 債務者保護に欠ける
    • 23条等と統一的でなくなる

23条=債権譲渡の対第三者・債務者効

  • 債権質、相殺、債権者代位でもこれと統一的に解釈する必要

債務引受

  • 譲渡対象債権の準拠法:債権者保護の要請

相殺

  • 譲渡対象債権と自働債権の準拠法を累積適用(通説):両方の運命
  • 受働債権準拠法(有力説):反対債権による弁済、自働債権の価値の低さ

債権者代位

  • 法廷地法(判例):訴訟法上の規定
  • 保全債権と被代位債権の準拠法を累積適用(通説):両方の運命
  • 保全債権準拠法(有力説):第三者保護不要、債務者保護の要請
  • 被代位債権準拠法(道垣内):実際的利益衡量、第三債務者保護

詐害行為取消

  • 保全債権と取消対象行為の準拠法を累積適用(通説):両方の運命
  • 保全債権準拠法(有力説):詐害行為者に法選択を許すのは不合理

司法試験の勉強:国際私法の基礎2/3(家族法)

婚姻

実質的成立要件(24条1項)

  • 配分的連結:両当事者の対等+婚姻成立の困難回避(累積的連結の緩和)
    • 一方的要件:当事者の一方についてのみ問題となる(例:婚姻適齢)
    • 双方的要件:当事者の両方について問題となる(例:近親婚禁止)
  • 批判:解釈の限界を超えており、双方の累積的適用と解するべき(道垣内)
  • 要件欠缺の場合:双方の本国法により、より成立に遠い方優先(無効>取消)

形式的成立要件(24条2項、3項)

  • 選択的連結:婚姻の社会的公益性→地域によって多様かつ厳格な形式の要求が想定される
    • 婚姻挙行地法主義(2項):「場所は行為を支配する」→双方に共通という利点
    • 日本人条項(3項):成立の困難回避、34条との権衡、実質的要件との調和から、原則を緩和+戸籍への迅速な反映
  • 領事婚(民741条):外国の日本人同士は領事への届出で婚姻成立

身分的効力(25条)

  • 段階的連結:慎重に最密接関係地法を探究
法性決定
  • 同居義務・貞操義務
  • 夫婦間契約
  • 婚約・内縁
  • 夫婦財産契約:26条
  • 婚姻費用、日常家事債務:26条
  • 扶養義務:扶養義務の準拠法に関する法律2条
  • 成年擬制:4条
  • 後見開始時の配偶者による後見:35条
  • 夫婦の氏:人格権として本国法(判例)→道垣内:公法上の問題

財産的効力(26条2項、3項、4項)

  • 2項:当事者自治
    • 財産法的側面
    • 段階的連結や変更主義で準拠法への予見性が低下
  • 26条3項・4項:内国取引保護
    • 善意:外国法適用による不測の損害を防止
      • 善意の対象:外国法適用について(法の不知は救済しない)
    • 夫婦財産契約に限定(法定財産制の登記は実質上無理)

離婚・別居

法性決定
  • 離婚の許否
  • 離婚の方法
  • 協議離婚:34条
  • 親権者:32条
  • 離婚給付
    • 夫婦財産制の清算:26条
    • 慰謝料:17条(慰謝料の原因で分ける見解も)
    • その他:27条
  • 復氏:27条(道垣内:4条)
  • 成年擬制:4条(通説:27条)
  • 待婚期間:24条

離婚

離婚の方法(27条)

  • 段階的連結(25条準用+日本人条項)
    • 25条準用:最密接関係地については直近の婚姻生活地が重要(夫婦共通だから)
    • 日本人条項:日本に常居所を置く日本人は日本の戸籍窓口に離婚届を提出する可能性大→円滑に受理できるように日本法を準拠法とする
      • 実際問題上も、最密接関係地が日本になる場合が多い
      • ただしそうでない場合もあるので常居所の認定は慎重に
日本民法上の離婚
  • 協議離婚(763条)
    • 764条→739条:届出離婚
  • 裁判離婚(770条)
    • 不貞行為
    • 悪意の遺棄
    • 3年以上の生死不明
    • 回復の見込みのない強度の精神病
    • 婚姻を継続し難い重大な事由
手続問題:手続は法廷地法に従う→適応問題
  • 準拠法が裁判離婚主義
    • 判例:調停・審判離婚(家事審判法17条・24条)も可
    • 学説:協議離婚の一種だから不可
  • 手続の欠缺
    • 例:カウンセリング
    • 家裁の手続上可及的に準拠法手続に配慮するしかない
  • 不出頭:当事者意思の調査?
  • 国会の関与を要件とする:家裁の手続上配慮するしかない
法性決定
  • 離婚の許否:27条
  • 離婚の機関・方法:27条
    • ただし具体的な機関・手続は法廷地法に従う
  • 離婚原因:27条
  • 財産処理
    • 櫻田:一括して27条
    • 道垣内:個別に検討
      • 夫婦財産制:26条
      • 慰謝料等:17条
      • 扶養義務:扶養義務の準拠法に関する法律4条
  • 子の親権・監護権:32条(子の福祉の観点)
  • 別居:欠缺→27条準用すべき(判例は認めず)
外国離婚判決の承認(民訴118条)
  • 旧通説
    • 離婚については他の判決と区別(∵形成判決による実体法的効力)
    • 準拠法要件(日本の国際私法で指定される準拠法によっていなければ承認しない)を求める
    • 相互保証要件(4号)は不適用
  • 現在
    • 準拠法要件は別として、性質上可能な限り類推適用
    • 相互保証要件も適用(櫻田:性質上適用の余地なし)

実親子関係

嫡出親子関係の成立(28条)

  • 選択的連結:できるだけ嫡出子とする趣旨
  • 嫡出否認の問題も包含
    • 嫡出否認についても両方で否認される必要
  • 不変更主義:「子の出生の当時」
  • 生殖補助医療の問題
    • 準拠法アプローチ
      • 道垣内:適応問題として処理するが、公序発動の可能性
    • 外国判決承認(民訴118条)アプローチ
      • 養子縁組類似→承認には準拠法要件を加えるべき

非嫡出親子関係の成立(29条)

連結政策
  • 1項:子の出生時における夫婦の各本国法
    • 配分的連結
  • 2項:認知時における認知者or子の本国法
    • 選択的連結:できるだけ認知を認める趣旨
  • 1項後段・2項後段=セーフガード条項
  • 3項:出生時に父が死んでいれば死亡時の本国法
    • 生殖医療問題で母が死んでいれば、3項類推適用
適用順
  • 28条→29条の順に適用
    • 嫡出親子関係が不成立の場合に非嫡出親子関係を判断
    • 28条の準拠法が嫡出・非嫡出を区別しない→29条に持ち込む
認知の方式

34条による

準正(30条)

  • 選択的連結:準正要件完成時における父or母or子の本国法
  • 適用順:29条→30条
    • 親子であり、かつ非嫡出親子関係であることが前提

養親子関係

連結政策

  • 31条1項:養親の本国法
    • 養親子の生活が養親を中心に営まれることが多い
    • 養子縁組により子が養親の国籍を取得する場合が多い
  • セーフガード条項:養子の本国法上の付加要件
  • 31条2項:1項と同じ準拠法
    • 断絶型の養子縁組が簡単に離縁されないように、縁組と離縁の準拠法を一致させる

公的機関の関与

  • 分解理論
    • 実質的成立要件:家裁の許可審判で代替
    • 形式的成立要件:行為地法として届出で充足
  • 特別養子縁組制度で家裁が代行
  • 道垣内:家事審判法9条2項準用(手続は法廷地法→家裁手続しかありえない)

夫婦共同養子縁組

  • 夫婦それぞれとの関係を別個に判断
  • 一方が夫婦共同縁組のみ許す場合、双方で養子縁組要件を満たす必要

効力

  • 養子縁組の効力:効力も31条
  • 実方血族との親族関係終了:養子縁組の効力として31条

親子間の法律関係

連結政策

  • 32条:子と父母いずれかの同一本国法→この常居所地法(段階的連結)
  • 最密接関係地なし∵戸籍実務上の便宜

法律問題

  • 親権・監護権の帰属、分配、内容、消滅
  • 子の氏
  • 親子間の扶養義務

相続・遺言

相続

実質法上の対立
  • 承継主義(大陸法系)
    • 死者に帰属していた権利義務が死亡と同時に相続人に包括的に承継される
  • 清算主義(英米法系)
    • 死者の権利義務が、一旦死者の人格代表者たる遺産管理人に帰属し、財産関係を清算してプラスの遺産が残れば相続人に移転する
抵触法上の対立
  • 相続統一主義
    • 一つの法が相続全体を規律
    • 長所
      • 相続人にとって相続の処理が予見しやすい
    • 短所
      • 国外財産を組み込めない場合がある(実効性に難)
      • 財産所在地の利害関係人に不便
  • 相続分割主義
    • 動産=被相続人の住所地法、不動産=財産の所在地法
    • 長所
      • 財産の利害関係人にとって便利
    • 短所
      • 財産の分散により処理が複雑化する
      • 住所の決定が国によって異なる可能性がある
単位法律関係
  • 相続の開始・時期
  • 相続人の範囲・相続順位・欠格・廃除
  • 相続財産
    • 不法行為債務
      • 判例:36条と17条の累積的適用(個別準拠法の優先)
      • 道垣内:相続性の内容は36条、その属性を持つかは個別準拠法
  • 相続の承認・放棄
    • 日本法の場合、方式については法律行為として10条による(道垣内)
  • 相続財産管理人
    • 判例:不在者の財産管理に類似した機能と解し、財産所在地法
    • 道垣内:相続財産管理人の権限に着目し、相続準拠法
      →適応問題はやむを得ない
  • 特別縁故者:相続人不存在の場合として財産所在地法による
  • 相続人不存在:無主財産の処理として財産所在地法による(道垣内:13条)

遺言

  • 37条1項
    • 遺言の成立・効力
      • 意思表示の瑕疵
      • 遺言の効力発生時期・要件
    • 検認→実質的成立要件の場合は37条1項
  • 37条2項:遺言の取消
    • 有効に成立した遺言の撤回の問題

扶養

扶養義務の準拠法に関する法律

単位法律関係
  • 親族扶養
    • 1条:「夫婦、親子その他の親族関係から生ずる扶養の義務」
    • 通則法は43条1項でこの範囲を適用除外とする
    • 通則法39条だけは適用(「その常居所が知れないときは、その居所地法による」)
    • 親族関係の存否は通則法24~33条で判断(先決問題)
  • その他→それぞれの通則法上の準拠法による
連結政策
  • 離婚した夫婦
    • 4条1項→離婚について(実際に)適用された準拠法
    • 法律上の別居・婚姻の無効or取消にも準用(2項)
  • それ以外=段階的連結
    • 扶養の権利義務の存否
      • 扶養権利者の常居所地法(2条1項本文)
      • 扶養が認められないときは当事者の共通本国法(同但書)
      • それでもダメなら日本法(同条2項)
    • 扶養義務者の異議(傍系親族間or姻族間)
      →以下の法で義務が無い場合は異議で準拠法変更
      • 共通本国法(3条1項前段)
      • 共通本国法が無ければ扶養義務者の常居所地法(同後段)
    • 公的機関から扶養義務者への償還請求
      • その機関が従う法(5条)←公法上の問題だが補完的に規定
扶養の程度
  • 公序則(8条1項)
    • 通則法の公序と同じ(「明らかに」は単なる明示化)
  • 渉外実質法的規定(8条2項)
    • 準拠法に別段の定めがあっても、扶養権利者の需要及び扶養義務者の資力を考慮して定める
      =公序則の具体的基準

司法試験の勉強:国際私法の基礎1/3(総論・一般法理)

基本用語

準拠法
ある法律関係において適用すべきとされる法域の法
法域
ある私法体系が通用している一定の地域
抵触法(国際私法)
準拠法を指定するための法
実質法
ある法域において具体的な法律関係に適用されている法
単位法律関係
国際私法上1つの単位として取り扱われる法律関係
連結点
国籍など、準拠法を指定するために用いられる要素

法律関係の性質決定

定義

具体的に問題とされている法律関係がどの単位法律関係の性質を有するのか
=抵触規則の単位法律概念(指定概念)が何を指すのか

法性決定の方法

法廷地法説
  • 法廷地の実質法によって決定
  • 批判
    • 実質法(実際に適用して紛争を解決する法)と抵触法(どの実質法を適用するかを定める法=国際私法)では目的・機能が異なり用語も別異に解釈すべき
    • 国内法に存在しない法制度の性質決定ができない
準拠法説
  • 国際私法により準拠法として指定された実質法によって決定
  • 批判
    • 循環論になってしまう(準拠法を決めるための法性決定で準拠法に依拠)
国際私法自体説
  • 国際私法自体の解釈によって決定

解釈基準

比較法説
  • 実質法を比べ共通概念を抽出
  • 批判
    • 比較法学の能力的に無理がある
    • 実質法に依拠する点で実質法からの解放という観点が不徹底
抵触規則目的説
  • 規定の趣旨・目的を基準とする
一般的な法解釈方法による
  • 国内法として解釈(文理解釈→目的・趣旨→比較法)

適応問題

定義

ある法律関係を単位法律関係に分けて準拠法を決定した時に、各準拠法間で生じる内容的矛盾

  • 重複:例)夫の親の居所指定権
  • 欠缺:例)死亡した夫の遺産→夫婦財産とする準拠法と相続とする準拠法の間で穴ができる
  • 質的矛盾:例)信託法と信託権のない準拠法

解決方法

  • 放置
  • 一方の排除:例)婚姻後は婚姻の効力優先
  • 一方の拡張:例)相続として考え、夫婦財産として定められていても適用
  • 第三の法秩序による置換

先決問題

定義

ある単位法律関係の問題(本問題)に論理的に先立って解決すべき単位法律関係の問題

解決方法

  1. 本問題の準拠法説:本問題の準拠実質法で先決問題の権利関係を確定する
    • 渉外的法律関係である以上、実質法では解決できない
  2. 準拠法説:準拠法所属国の国際私法によって先決問題の準拠法を決定する
    • 同じ先決問題に対して、本問題次第で準拠法が異なってしまう
  3. 法廷地説:法廷地の国際私法によって先決問題の準拠法を決定する

連結点

連結政策

単純連結
一つの連結点で一つの準拠法を指定(例:36条)
累積的連結
複数の連結点が定められ、指定準拠法を重畳的に適用(例:22条1項2項)
段階的連結
連結点の第1がなければ第2,第3...と段階的に指定(例:25条)
選択的連結
複数の連結点から一定の法律関係が成立しやすいように選択的に指定(例:28条1項)
配分的連結
当事者ごとに連結点を定め各自に準拠法を指定(例:24条1項)

変更主義と不変更主義

いつの時点の連結点を用いるか
帰化・移住により準拠法を選択させることを防ぐ

法律回避

連結点を意図的に変更して有利な準拠法の適用に持ち込む

  • 無効説(旧法例、仏)
    • 故意の潜脱は許されない
    • 最密接関連地法によるという目的が達成できない
  • 有効説(通説、独、英米
    • 内国法拡張の抑制
    • 連結点の客観的確定
    • 通則法:旧法例から削除されている

本国法

本国=国籍国
→各国の国籍法に従って定まる
→必然的に重国籍・無国籍が生じうる

重国籍(38条1項)
  1. 日本国籍があれば日本法(但書)←内国国籍優先主義
  2. 国籍国の中で常居所を有する国の法
  3. それ以外なら国籍国の中での最密接関係国の法

(本国法主義の趣旨から、国籍を有しない国からは選べない)

無国籍(38条2項)

25条、26条1項、27条、32条には適用しない(∵段階的連結の趣旨)

  1. 常居所地法
  2. 常居所が不明・不存在なら居所地法(39条)
共通本国法との違い

共通本国法:国籍国のいずれかが一致しているか判断
同一本国法:38条で一つに絞り込んだ上で同一かどうか判断

難民

本国との関係が事実上切断され、又は切断したい場合が多い
→難民条約では「住所」を使用
日本では「常居所」とし、反致を否定する説も有力

常居所

ハーグ国際私法会議で創出された人工的概念
国際的な概念の差異が生じない事実概念の導入が目的

  • 単一性
    • 複数の常居所はありえないという前提
    • 不明の場合:居所地で補充(39条)
  • 住所との関係
    • 領土法説→重住所・無住所の発生を予定
    • 裁判管轄の基準として訴訟便宜も判断要素に含む

不統一法国

地域的不統一法国

  • 連結点が場所的に一点を示す→その地の法(直接指定主義)
  • 連結点が国籍→通則法38条3項
通則法38条3項
  1. 「その国の規則に従い指定される法」:間接指定主義
  2. 「当事者に最も密接な関係がある地域の法」:直接指定主義
通説

間接指定主義
「規則」=その国の準国際私法

批判
  • 自国が本国法とされた場合を想定していない
  • 外国を指定した場合の処理(←「規則」がない場合とする)

→「規則」=「外国の国際私法で本国法として指定されたときの地域指定ルール」
→実際上ありえず、38条3項前段は空文

判例

百選7:アメリカは「内国規則なし」

人的不統一法国

通説

地域的不統一法国と同じ処理→通則法40条1項
場所的に一点を示す場合でも決まらない→通則法40条2項

批判
  • 人的不統一はただの国内人際法→本国法指定で終了していい
  • 「規則がない場合」=外国法不明の場合と解する

反致

通説上は理論的・政策的根拠がないとして否認されている。
最密接関係地法の決定・適用という理念に反する誤った国際主義とされる。

定義

準拠法の消極的抵触を解決するという建前

狭義の反致

通則法41条
自国の国際私法によって指定された準拠法所属国の国際私法が、自国法を準拠法としているときには、それに従って自国法を準拠法とする

転致

準拠法国の国際私法が第3国を指定(A→B→C)
「日本法によるべきとき」にあたらず許されない(手形・小切手法は認める)

間接反致

第3国を挟んで自国が指定される(A→B→C→A)
「その国の法に従えば」にあたらず許されない

二重反致

準拠法所属国の国際私法も反致を認めている場合には、その国の法を準拠法とする
反致の過度の拡大になるから許されない

隠れた反致

裁判管轄権の指定ルールしかなく、これが適用法指定も兼ねているときは、裁判管轄権の指定により反致を認める

理論的根拠

総括指定説
連結点による指定は国際私法の指定も含む
→常に再指定、無限に循環
棄権説
自国法を適用しないという国家意思の尊重
→国際的私法秩序の安定という国際私法の目的と無関係

実際的根拠

内国法適用拡大説
自国法の適用拡大を積極評価
→内外法平等の建前に反する
国際的判決調和説
一方の指定に従えば国際的判決調和が得られる
→両方反致を認めたら入れ替わるだけで判決調和は得られない
判決承認の拡大説
自国の判決が外国で承認されるようになる
→判決の承認は準拠法所属国でだけ問題になるわけではない
→外国判決の承認にいかなる法が準拠法となったかは一般的に要件とされていない

規定と判例

「本国法によるべき場合」

25,26,27,32条を除く(∵段階的連結は本国法VS住所地法の枠に入らない)

「その国の法」

「その国の法」=その国の国際私法
「日本法」=日本の実質法

二重反致の根拠

外国裁判所追従説:指定された外国法は、その国の裁判所がするように適用されるべき
→総括指定説と同様
「その国の法」に反致規定も含むので「日本法によるべきとき」にあたらない
→二重反致規定があると無限循環となるし、転致も認めなければならなくなる

公序

定義

通則法42条
準拠法の適用結果が自国法上の根本原則・基本的理念に反する場合に、その外国法の適用を否定する(一般留保条項)。
→準拠法の適用排除・内外法平等に対する例外

消極的公序

単に外国法の適用を排除する

積極的公序

内国強行法を適用する

公序の内容

自国の法秩序を維持する目的
民法90条とは異なる抵触法上の公序

適用要件

  1. 反公序性
    具体的な適用結果(≠準拠法の内容)が自国の基本的法秩序を現実に侵害する
  2. 内国関連性
    当該事案が自国と密接な関連性を有する
  3. 基準時
    現在の法秩序を害する

準拠法排斥後の処理

適用否定→法の欠缺

内国法適用説(法廷地法説)
内国法への補充的送致があると解する(旧通説・判例
欠缺否認説
外国法の適用を排除した内国公序が存在する=規範の欠缺は生じない
→批判:排除後の解決方法が1つに限られない場合もある
補助連結説
改めて準拠法選択規則を適用し次順位の法を適用する
条理説
外国実質法欠缺の場合に準じて条理で処理する

刑法事例演習教材30「暗転した同窓会」

受験生時代に作成した、刑法事例演習教材(初版)設問の回答例。

第1 第1暴行について
1 甲の罪責
(1) 甲はBの顔面を強く殴打し(第1暴行)、これによりBは後頭部をタイル張りの地面に打ち付けられて頭蓋骨骨折に伴うクモ膜下出血を生じて死亡しているから、甲には傷害致死罪(205条)が成立しないか、以下検討する。
(2) 構成要件該当性
ア 「傷害」とは不法な有形力行使等により人の身体の生理的機能を害することをいう。甲はBの顔面を殴って転倒させ、後頭部を地面に打ち付けさせて頭蓋骨骨折及びこれに伴うクモ膜下出血を生じさせているから、Bを「傷害」したといえる。
イ Bの「死因となる傷害は甲の第1暴行によって生じたもの」であるから、上記傷害とBの死亡結果との因果関係も認められる。
(3) 正当防衛
ア 正当防衛は、法益の衝突状況を不正の侵害者の犠牲により解決する制度であって、客観的に侵害者の法益が減少・消滅している点から違法性を阻却するものである。
 第1暴行はBに髪を引っ張りまわされていたAを助けるために行ったものであるから、正当防衛(36条1項)が成立しないか問題となる。
イ 「急迫不正の侵害」
 「急迫不正の侵害」とは、違法な法益侵害が現に存し、又は差し迫っていることである。
 Bは現にAの髪を引っ張りまわすという暴行行為を行っていたから、「急迫不正の侵害」が認められる。
ウ 「防衛するため」
 「防衛するため」の内容としていわゆる防衛の意思を必要とする見解もあるが、正当防衛は正対不正の関係において不正の侵害者の法益が減少・消滅し、防衛行為の違法性が阻却される制度であるから、客観的な防衛状況があればよく、防衛の意思は不要である。
 本件では、第1暴行はBのAに対する暴行を止めるために行われているから、客観的に見て「他人の権利を防衛するため」にしたといえる。
エ 「やむを得ずにした行為」
 「やむを得ずにした」とは、行為の必要性及び結果の相当性をいうと解する。なぜなら、防衛に不要な行為まで保護する必要はないし、防衛に必要な行為であっても、防衛すべき法益に対し害される侵害者の法益が著しく大きいような場合には、もはや法益の衝突を侵害者の犠牲によって解決するのが妥当な場合とはいえなくなるからである。
 本件では、髪を引っ張るという暴行からの防衛のために、死亡という重大な結果が生じており、法益の不均衡が著しい。よって、「やむを得ずにした」とはいえない。
オ 以上より、正当防衛は成立せず、過剰防衛(36条2項)が成立するにとどまる。
(4) 故意
ア 加重結果の故意があれば別罪が成立するので、結果的加重犯の故意は基本犯の故意で足りるが、責任主義の観点から、加重結果については過失が必要であると解する。
イ 基本犯の故意
(a) 甲は第1暴行について認識を欠くところがないから、傷害罪(204条)の実行行為の認識はある。
(b) しかし、正当防衛の意思で第1暴行を行っているから、故意が阻却されないか。故意とは犯罪事実の認識であるところ、違法性阻却事由を基礎づける事実の存在を誤信している場合には、違法性を基礎づける事実の認識があるとはいえず、犯罪事実の認識を欠くから、故意が阻却される。よって、結果的に相当性をこえていても、相当性を基礎づける事実について誤信があれば、故意を阻却しうる。
(c) そこで本件についてみると、Bは第1暴行以前にも顔や腹を殴られながらAの髪を離さずにいるなど、丈夫な様子を見せている。しかし、甲は25歳の若い男性であるのに対しBは酩酊した50歳男性と体力差は歴然であるし、タイル敷きの路上は硬く危険である。そこで態勢が崩れた相手の顔面を強く殴る行為は、それ自体重大な結果を生じうる行為である。
(d) よって、甲の故意は阻却されない。
ウ 加重結果についての過失
(a) 過失は故意と並ぶ責任要素であって、精神を緊張させていれば結果を認識・予見しえたのに、これを怠ったことへの非難である。よって、過失とは結果の予見可能性を前提とした予見義務である。そして、抽象的な危惧感だけで処罰するのは妥当でないから、特定の構成要件的結果に対する具体的な予見可能性を要する。
(b) 本件では、上述のように第1暴行が危険な行為であって、転倒によりタイル敷きの地面に頭部を打ちつければ死亡することも予見しえたといえるから、甲には加重結果に対し予見可能性があったと認められる。
(5) 以上より、甲には傷害致死罪が成立し、過剰防衛により任意的減免がなされる。
2 乙の罪責
(1) 乙は、2人で協力してAの髪からBの手を離させようとしていたから、Aの防衛のために共同してBを攻撃するという意思連絡が成立していたと解される。そして、第1暴行はかかる意思連絡に基づく行為であるから、甲と意思を通じて防衛行為を共同実行していた乙についても、第1暴行につき共同正犯(60条)となる。
(2) もっとも、主観については行為者ごとに判断すべきところ、甲の過剰結果を招いた行為につき乙は認識していなかったとして、故意が阻却されないか。
 この点、タイル敷きの路上で酩酊者の顔面や腹部を殴打すること自体、十分に危険な行為であって、乙は甲の過剰な防衛行為についても認識していたと解すべきであるから、故意は阻却されない。
 また、かかる危険性を認識していた以上、加重結果についても予見可能であったと認められるから、乙は死の結果についても罪責を負う。
(3) 以上より、乙には傷害致死罪の共同正犯が成立し、過剰防衛による任意的減免を受ける。

第2 第2暴行について
1 乙の罪責
(1) 乙は、Bが転倒した後に腹部等を足げにしたり、足で踏みつけるなどの暴行(第2暴行)をなしているから、乙には暴行罪(208条)が成立しないか。
(2) 構成要件該当性
ア 「暴行」とは人の身体に対する有形力行使をいうと解すべきところ、乙はBの腹部等を足げにしたり足で踏みつけるなどの有形力を行使しており、「暴行」を加えたといえる。
イ また、Bには第2暴行によって傷害が生じたという事情はない。よって、第2暴行は暴行罪の構成要件に該当する。
(3) 故意
 乙は激怒しているとはいえ第2暴行につき認識を欠いているとはいえないので、故意も認められる。
(4) 過剰防衛
ア 第2暴行は第1暴行に続けてなされたものであるから、両暴行を一連一体の行為と解しえないか。そのように解しうれば、第2暴行は過剰防衛たる第1暴行の過剰部分にあたり、全体として任意的減免を受けることから問題となる。
イ 第1暴行によりBは意識を失い、この時点で攻撃は終了している。そして乙は、Bが動けなくなったことを認識した上で報復的に第2暴行に及んでいるから、第2暴行は新たな犯意に基づく行為であって、第1暴行とは別個の行為であると解すべきである。
ウ よって、第2暴行では攻撃終了後でありそもそも急迫不正の侵害がない以上、過剰防衛は成立しない。
(5) 以上より、乙には暴行罪が成立する。
2 甲の罪責
(1) 甲は第2暴行には加わっていないが、第2暴行は第1暴行に続けて行われたのであるから、第2暴行についても乙と共犯であるとして、暴行罪の共同正犯が成立しないか。以下検討する。
(2) 共犯関係
ア 共犯の処罰根拠は、他人の行為を介して法益侵害を惹起する点にある。したがって、複数の行為にまたがる場合であっても、結果に対する因果性の及ぶ範囲で共犯を認めうる。そして、心理的因果性は共謀の範囲で認められるものであるから、共謀に含まれない行為については共犯関係に立たないと解される。
イ 本件についてみると、第1暴行は、Aを助けるための行為であり、甲乙もそのために共同でBを攻撃したのであるから、第1暴行において成立した甲乙間の共謀は、Aのための防衛行為に限定されていると解すべきである。そうだとすれば、Bによる攻撃が終了しAが解放された時点で甲乙間の共犯関係は終了し、甲乙はその後の行為について共犯関係に立たないといえる。
ウ そこで、第2暴行について甲が乙の共犯となるには、第2暴行について新たに共謀が成立している必要がある。本件では、甲はAとともに数メートル離れたところで乙の第2暴行を黙って見ていたにすぎず、1分ほどするとむしろこれを止めに入っているのであるから、甲乙間に新たな共謀があったとは認められない。よって、第2暴行につき甲は乙の共犯とはならない。
(3) 以上より、甲は第2暴行につき罪責を負わない。

第3 罪数
1 甲には傷害致死罪の共同正犯が成立し、過剰防衛による任意的減免の対象となる。
2 乙には、傷害致死罪の共同正犯及び暴行罪が成立し、両者は併合罪となるが、前者については過剰防衛による任的減免の対象となる。

以上


刑法事例演習教材 刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材27「欲深い売主」

受験生時代に作成した、刑法事例演習教材(初版)設問の回答例。

第1 甲の罪責について
1 Aに売却した土地(以下「本件土地」という)をBに二重譲渡した行為について
(1) Aに対する横領罪
ア 既にAに売却した本件土地を、移転登記未了を利用してBに売却した行為は、横領罪(252条1項)に該当しないか、以下検討する。
イ 構成要件該当性
(a) まず、本件土地は「他人の物」にあたるか問題となる。民法上は当事者の意思表示のみで物権が移転するのが原則であるし、本件では、代金の8割が支払済みであるから、本件土地はもはやAの所有に帰したと認められ、「他人の物」に該当する。
(b) また、横領罪における「占有」とは、本権者との委託信任関係に基づくものであり、物に対する事実的支配のみならず、法律的支配も含むと解する。なぜなら、占有離脱物横領(254条)との関係から252条の占有は本権に基づくことを前提としていると解されるし、委託信任関係を前提とした本罪は、奪取によらずとも法律上容易に他人の物を処分しうるという処分可能性を問題とした罪であると解されるからである。
 甲は登記上の名義を有し、民法上有効に別人に所有権移転をなしうる地位にあるから、本件土地を「占有」しているといえる。そして、甲は売買契約に基づきAに対して登記移転協力義務を負うと解され、かかる占有はAとの委託信任関係に基づいて成立しているといえる。
(c) 横領罪は領得罪であるから、「横領」とは、不法領得の意思を実現することと解される。横領罪にいう不法領得の意思は、占有侵害を伴わないことから権利者排除意思は不要であるが、毀棄罪との区別の必要性はなお認められるので、委託の趣旨に反して他人の物を利用処分する意思であると解する。
 Bに対する登記移転がなされないうちは、なおAは民法上本件土地の所有権を失わない。AがBより先に登記を具備すればAの所有権は確定的となりうるのであるから、Bに登記移転がなされる前にはいまだ不法領得の意思が実現したとはいえないと解すべきである。
ウ 以上より、Bが売買契約を解除し、登記具備に至らなかった本件では、甲には横領罪の未遂が成立するにとどまり、横領罪には未遂犯処罰規定がないため不可罰である(44条)。
(2) Bに対する詐欺罪
ア 既にAに売却済みであることを秘して本件土地をBに売却した行為は、Bに対する詐欺罪(246条1項)に該当しないか。
イ 構成要件該当性
(a) 単に事実を秘する行為も、相手方の錯誤を生じさせ、これを認識しつつ利用していることから詐欺行為に該当する。また、かかる詐欺によってBは2500万円を交付している。
(b) 詐欺罪は財産犯である以上、財産的損害も不文の構成要件であると解すべきであるところ、BはAより先に登記を具備すれば確定的な所有権を得られるのであるから、財産的損害がないのではないか、問題となる。確かに、所有権を得ても民事紛争に巻き込まれる可能性は高く、本件ではAがBの会社の取引相手であることなどから、対立的地位に立つという不利益が生じうる。しかし、取引内容に含まれないような周辺的な不利益まで詐欺罪の損害に含めることは、損害概念の過度の拡張となり妥当でない。よって、取引によって事後的に生じうる紛争リスクについては詐欺罪の損害とは認められない。Aの登記具備による所有権の喪失が生じていない本件では、Bに財産的損害は認められず、甲に詐欺既遂罪は成立しない。
ウ 未遂罪
(a) 詐欺既遂罪が成立しないとしても、代金2500万円の交付は行われていたのであるから、詐欺未遂罪(250条、246条1項)が成立しないか。「実行に着手」(43条)しているかが問題となる。
(b) 未遂罪の処罰根拠は、処罰が必要な程度に法益侵害の実質的危険が生じていることにある。よって、実行の着手があるというためには、法益侵害の実質的危険が生じていることを要する。
(c) 本件では、Aは登記移転に必要な書類の入った金庫のパスワードを知っており、いつでも登記を具備できる状態にあった。すなわちBはいつでも本件土地の所有権を喪失する可能性があったのであり、かかる状態のまま代金2500万円を交付した時点で、Bに2500万円の損害が生じる実質的危険が生じていたといえる。よって、本件では実行の着手が認められる。
エ 以上より、甲には詐欺未遂罪が成立する。
2 本件土地にCのための抵当権を設定した行為について
(1) 本件土地にCのための抵当権を設定し、これによりCから融資を受けた行為は、横領罪に該当しないか。
(2) 構成要件該当性
ア 前述のように、本件土地はAの所有する「他人の物」と解され、甲は本件土地に対し委託信任関係に基づく「占有」を有する。
イ そして、甲は不動産の交換価値を掌握させる抵当権を設定し、これにより融資を得ようとしていることから、完全な所有権を移転するというAとの委託の趣旨に反し、他人の物を利用処分するという不法領得の意思が認められる。
ウ Cは抵当権設定登記を具備し、対抗要件を備えているから、かかる不法領得の意思を実現する行為がなされたといえ、甲の行為は横領罪の構成要件に該当する。
(3) 故意
 甲は以上の行為につき認識を欠くところがないから横領罪の故意が認められる。
(4) 以上より、甲にはAに対する横領罪が成立する。
3 本件土地を乙に二重譲渡した行為について
(1) 移転登記未了を利用して本件土地を乙に売却した行為は、横領罪に該当しないか問題となる。
(2) 構成要件該当性
ア 前述のように、本件土地はAの所有する「他人の物」であり、甲は委託信任関係に基づきこれを占有する者であるから、本件土地を乙に売却し代金を得る行為は、横領罪の構成要件に該当する。
イ そして、乙に対しては移転登記を完了しており、Aは確定的に本件土地の所有権を失っているから、不法領得の意思が実現したといえ、既遂に達している。
(3) 故意
 甲には以上の構成要件該当行為につき認識を欠くところがないから、横領罪の故意も認められる。
(4) 横領物の横領の可否
ア 本件土地は、Cに対する抵当権設定により既に不法領得されている。とすれば、同一の物を二度横領することはできないとして、乙に対する売却についてはいわゆる不可罰的事後行為となり、処罰しえないのではないかが問題となる。
イ 横領罪は、他人の物に対する処分可能性を問題とするという性質から、占有侵奪を伴う財産犯と異なり、領得行為後もなお客体が保護すべき状態で残存しうる。そうだとすれば、かかる状態にある客体に対して行われた第二の横領行為についても、可罰的な法益侵害があると解すべきである。本件では、第一の横領では抵当権の設定が確定したにすぎず、Aは完全に所有権を喪失したわけではないから、本件土地はなお横領罪により保護すべき状態を維持しており、これに対する第二の横領は可罰的である。
(5) 以上より、甲にはAに対する横領罪が成立する。

第2 乙の罪責について
1 乙は事情を知りつつ甲から本件土地を買い受けているが、かかる行為は甲のAに対する横領罪の共同正犯(60条)に該当しないか。
2 確かに、乙は甲の行為が横領罪に該当することを認識しつつ、これに不可欠な買い受け行為を行っている。しかし、民法上、二重譲渡の第二譲受人は単純悪意である限り保護され、正当な権利者として認められている。そうだとすれば、単純悪意の第二譲受行為は、刑法の謙抑性の観点から刑法上も適法と解すべきである。
3 以上より、特に乙の背信性を基礎づける事情のない本件では、乙の行為は横領罪の共犯とならないと解される。

第3 罪数
 甲には、Aに対する2個の横領罪とBに対する詐欺未遂罪が成立する。ただし、前二者はいずれも同一の法益を侵害行為であって、一方の処罰で他方についても評価を尽くせる共罰的行為の関係にあるから、包括一罪となる。そして、これと詐欺未遂罪は併合罪となる。

以上


刑法事例演習教材 刑法事例演習教材 第2版

刑法事例演習教材23「即断3連発」

受験生時代に作成した、刑法事例演習教材(初版)設問の回答例。

【※罪名等は当時(刑法改正前)のもの】

第1 Bの胸をまさぐり、首筋にキスをした行為について
1 甲はBを背後から羽交い絞めにしてその胸をまさぐり、首筋の数か所にキスをしている。Bは男性であり「女子」を被害客体とする強姦罪(177条)は成立しえないが、Bに対する強制わいせつ罪(176条)が成立しないか。
2 構成要件該当性
(1) 強制わいせつ罪の保護法益は個人の性的自由であるから、「わいせつな行為」とは、人の性的羞恥心を害する行為であると解する。
(2) 胸をまさぐり、首筋にキスをする行為は、性交渉に近いものであって、人の性的羞恥心を害するのに十分な行為であるから、甲の上記行為は「わいせつな行為」に該当する。
(3) また、「暴行」とは人の身体に対する不法な有形力行使をいい、「脅迫」とは一般人をして畏怖せしめるに足る害悪の告知をいう。そして、強制わいせつ罪における「暴行」「脅迫」は、相手の反抗を著しく困難にする程度のものであると解される。
(4) 本件では、甲はBを背後から羽交い絞めにして胸をまさぐり、首筋にキスをするなど、わいせつ行為自体が不法な有形力行使となっており、その回避が著しく困難であったほか、「刃物を持っているんだ、おとなしくいうことを聞けば殺しはしない」などと抵抗すれば殺すという意味の言葉もかけているから、人を畏怖させ、反抗を著しく困難にする害悪の告知がある。
(5) よって、甲の上記行為は強制わいせつ罪の構成要件に該当する。
3 故意
(1) 抽象的事実の錯誤
ア 甲はBをA女だと誤信して、すなわち強姦の故意で上記行為を行っていたのであるから、Bに対する強制わいせつ罪の故意が認められないのではないか。
イ この点、故意とは構成要件的結果の認識であるから、異なる構成要件間の錯誤は原則として故意を阻却する。しかし、構成要件に実質的な重なり合いがある場合には、その限度で、一方の構成要件的結果の認識により他方の構成要件的結果も認識していると評価できる。よって、その重なり合う限度で故意を認めてよいと解する。
ウ 甲は強姦罪を犯す意思で強制わいせつ罪を犯しており、強姦罪は強制わいせつ罪のより重大な類型として重罰を科すものであると解されるから、両者は強制わいせつ罪の限度で重なり合う関係にある。よって、甲には強制わいせつ罪の故意が認められる。
(2) 客体の錯誤
ア また、被害客体がAとBで異なっているところ、かかる点でも故意が阻却されないか問題となる。
イ この点、構成要件は被侵害法益の主体ごとに判断するから、故意の判断においても被害者の個別性は無視できないが、甲は現にBを認識してBにわいせつ行為を行っており、その人がAであるとの認識は評価の問題に過ぎないから、主観と客観で事実に齟齬はなく、錯誤は認められない。よって、故意は阻却されない。
4 以上より、甲にはBに対する強制わいせつ罪が成立する。

第2 Bに対する傷害について
1 甲は人違いに気付いて逃げようとしたところ、Bに追いつかれたため、Bの胸を強く押して転倒させた上背後にあった岩石に頭を打ち付けさせ、加療40日間の重傷を負わせている。かかる傷害結果により、甲には更に強制わいせつ致傷罪(181条1項)が成立しないか。
2 構成要件該当性
(1) Bへの傷害結果は、逃走のための暴行により生じたものであるが、かかる場合も強制わいせつ致傷罪に該当するか。
(2) 181条1項は、強制わいせつの機会に被害者に死傷結果を及ぼすことが刑事学上顕著な事実であることから、特に重く処罰したものである。よって、死傷結果は、強制わいせつ行為及びこれに続く行為、すなわち先行する強制わいせつ行為と時間的・場所的に近接した段階における行為によって生じたものを意味すると解する。
(3) 本件では、甲は強制わいせつ行為後逃げようとしてすぐに追いつかれ、強制わいせつの現場のすぐそばでBを傷害させている。よって、強制わいせつ行為に続けて、これと時間的にも場所的にも近接した段階における行為により傷害結果を発生させているから、かかる傷害結果は強制わいせつ致傷罪の致傷といえる。
3 過失
(1) 強制わいせつ致傷罪は、結果的加重犯であるところ、責任主義の観点から加重結果の発生についても過失すなわち予見可能性が必要であると解する。
(2) そして、身体能力で優る甲がBを強く押せばBが転倒すること、林道で人が転倒すれば、岩などにより頭部を打ち怪我をすることも十分予見可能であったといえるから、甲にはBの傷害結果につき過失が認められる。
4 以上より、甲には強制わいせつ致傷罪が成立する。

第3 Bを繁みに隠した行為について
1 甲は、転倒により頭を打って失神したBを、10メートルほど運んで林道の繁み深くに隠している。これにつき保護責任者遺棄罪(218条)又は単純遺棄罪(217条)が成立しないか。
2 保護責任者遺棄罪
(1) 「保護する責任のある者」
ア 保護責任者遺棄罪の成立には、行為者が「保護する責任のある者」であることが必要であるから、まずこの要件について検討する。
イ 「遺棄」を、作為により要扶助者に生命・身体の危険を創出させる行為であると解すると、不作為行為たる不保護によっても処罰される「保護する責任のある者」とは、かかる危険を排他的に支配しうる地位にある者と解すべきである。ただし、自らの意思によらずに排他的支配が生じた場合には、要扶助者との間に社会生活上の継続的な保護関係があることも必要とすべきであると解する。
ウ 本件では、人気の少ない林道とはいえ、通行人が通りかかれば確実に発見される場所であって、夜10時と人が通りかかることも期待しうる時間帯である。また、少なくとも本来の待ち伏せ対象であるAはそこを通行する可能性が高かったといえる。よって、甲に排他的支配があったとまではいえず、甲は「保護する責任のある者」には該当しない。
(2) 甲は「保護する責任のある者」に該当しないから、保護責任者遺棄罪は成立しない。
3 単純遺棄罪
(1) 構成要件該当性
ア 客体
 Bは頭を打って失神していたのであるから、「疾病のために扶助を必要とする者」に該当する。
イ 「遺棄」
 不作為による置き去りまで「遺棄」に含めると処罰範囲が拡大しすぎることから、「遺棄」とは要扶助者の作為による移置であると解する。本件では、甲はBを10メートル離れた場所に移動させているから、「遺棄」に該当する。
(2) 故意
ア 甲は、Bが死んだものと誤信して、すなわち死体遺棄罪(190条)の故意でBを遺棄しているから、単純遺棄罪の故意が阻却されないか。
イ この点、異なる構成要件間の錯誤でも構成要件が実質的に重なり合っていればその限度で故意を認めうる。しかし、単純遺棄罪は人の生命・身体を保護法益としているのに対し、死体遺棄罪は風俗・慣習に対する国民感情を保護法益とし、その行為態様としても、生者の遺棄と死体の遺棄では全く異なる。
ウ よって、構成要件の重なり合いは認められず、甲には単純遺棄罪の故意は認められない。
(3) 以上より、Bを繁みに隠した行為について甲は何らの罪責も負わない。

第4 Bの現金を持ち去った行為について
1 窃盗罪の成否
(1) 甲はBの財布から現金5万円を持ち去っているから、窃盗罪(235条)が成立しないか。
(2) 構成要件該当性
ア 甲はBの現金を許可なく持ち去っており、「他人の財物」について占有を侵害しているから、「窃取」したといえる。
イ また、毀棄罪との区別の必要から、窃盗罪には本権者を排除し財物を利用処分するという不法領得の意思が必要と解される。本件では、甲は遊興目的で費消するために持ち去っているから、不法領得の意思が認められる。
(3) 故意
ア 甲はBが死んだものと誤信しているから、占有侵害について認識がなく、故意が阻却されないか。
イ この点、占有とは物に対する事実的支配を意味するから、物に対する支配を有しえない死者には占有も認められないと解すべきである。そうだとすれば、Bを死者と誤信している甲には占有の認識がなく、窃盗罪の故意が阻却される。
ウ これに対し、死亡させた者との関係では、生前の占有が死亡直後においてなお保護されるとの見解もあるが、占有の喪失時期をあいまいにすることから妥当でない。
2 占有離脱物横領罪の成否
(1) 甲は、占有離脱物横領罪の故意で窃盗罪を犯しているから、窃盗罪では処罰できない(38条2項)。そこで、主観面の認識に対応した占有離脱物横領罪で処罰できないか。窃盗罪の構成要件該当行為が占有離脱物横領罪の構成要件にも該当するといえるか問題となる。
(2) この問題を検討すると、一方において、占有離脱物横領罪は所有権を保護法益としている。他方、窃盗罪は、他人の占有する自己の財物をも保護対象としている(242条)ことから、占有自体を保護法益としているとも思える。しかし、正当な権限に基づかない占有まで保護する必要はないし、242条は「自己の財物であっても」「他人の財物とみなす」として、あくまで例外的に他人の占有する自己物を財産犯の客体としている。よって、窃盗罪の保護法益は本来的には所有権その他の本権であって、占有については、本権に基づく場合、又は本権に基づいて開始したが現在ではその存在について争いがあるような場合に限り、これを保護する趣旨であると解すべきである。そうだとすれば、両罪はいずれも領得行為により所有権を侵害する罪であって、占有侵奪を伴わない占有離脱物横領罪の限度で構成要件を同じくしているものと解される。
(3) よって、窃盗罪の実行により占有離脱物横領罪をも実行したといえるから、甲は軽い主観面の認識に対応した占有離脱物横領罪の罪責を負う。

第5 罪数
 甲には強制わいせつ致傷罪と占有離脱物横領罪が成立し、両者は併合罪(45条)となる。

以上


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